第51話 無理矢理強引
第51話 無理矢理強引
俺が最高の連合「ケミカルテイルズ」に帰る…。
れいなんこさんからの返信は続いた。
“あいからおいたちも人ば探したけんど、
どげんしてん銀鷹丸さんが代わいんなっ人はよう見つけきらん”
銀鷹丸さんは「ケミカルテイルズ」が育てた人材だ。
和田さんに連れられて、最初に「アンブレラアカデミー」に来た時、
彼女は初心者上がりたての前衛だった。
それを和田さんがあれこれ説き伏せ、
後衛…しかもゲームの楽しさを殺すような回復特化に転向させた。
そして無理矢理強引に引き抜いた…。
「ケミカルテイルズ」は銀鷹丸さんを、望むままに育成できる素材、
意のままに動かせる兵隊、そう狙っていたはずだ。
しかし彼女は特殊な能力の持ち主だった。
「どこにでも馴染む」、「置かれた環境を自分のものにする」。
“確かに代わりなんて見つかるはずないだろうな…。
見つかっても子飼い出来なければ、ただただ危険なだけだ”
“…そこでホークスじゃっど、うちん事情もわかっちょっ、
『アンブレラアカデミー』で、銀鷹丸さんと回復班ばしちょったち聞いちょっ。
助けっ思て考えてくれんね”
“れいなんこさん…お前らを助けたいとは思う”
れいなんこさん、誰が俺を「ケミカルテイルズ」から除名したの。
誰が俺を「アンブレラアカデミー」に復帰を命じたの。
それはあんたじゃないか。
“でもごめん、俺は行けない”
連合には、あの困難を一緒に戦ってくれた人たちがいる。
あの合戦イベントで新しく入ってくれた人たちがいる。
どうしてそんな彼らを見捨てられる。
それに俺はもう、ちゃんと「『アンブレラアカデミー』のホークス」になってしまった。
俺はもうそこの盟主になってしまった。
“珍しかね”
“ま、引き抜かれたのは俺の方だったって訳だ”
「アンブレラアカデミー」という連合は、その後もサービス終了まで頑張り続けた。
あの合戦イベントの時に入ってくれた、初心者たちのうち、
加藤夫妻や三浦さんや一色さん、「銀鷹」の人たちはさすがに忙しく、
ほどなく引退してしまったが、
姉やよしのり親子、ハリスさんはそのまま定着した。
姉は第3の軍師として、12時の指示出しを担当し、
ハリスさんは後衛筆頭として、応援効果を担当し、
おっちゃんは応援コンボに特化した。
中でも成長が大きかったのはよしのりだった。
彼は前衛マウント特化として、
上位連合からたくさんのスカウトを受けるまでになった。
その甲斐もあって、合戦イベントでの順位も上昇したが、
設立の時に銀鷹丸さんが決めたであろう、
初心者でも受け入れるという連合方針もあって、
最高順位は23位、そこまでが限界だった。
銀鷹丸さんの実家からはあれきり何も言って来なかった。
言わない方が得策と考えたのだろう。
俺の殺害計画とか、発砲とか、彼らはあまりにも後ろ暗過ぎる。
しかし彼女が亡くなって3年目の夏、
俺は初めて弟という人に会った。
弟もやっぱり名前に鷹がつく人で、
顔は姉の銀鷹丸さんとはまるきり似ていなかった。
同じ参列者の噂では腹違いだとか。
初めて会う義理の弟は遺影だった。
交通事故だったが、これもどこまで本当かはわからない。
もっとわからないのは、俺がその葬儀に呼ばれた事だった。
故人の義兄、いちおう筋は通っているが…。
葬儀のあと、使いの者が来て車で案内された。
「秀忠くん、お久しぶり」
案内されたのは銀鷹丸さんの実家、赤坂家の座敷だった。
芝生と石の広い庭に、黒光りするほどに使い込まれた日本家屋。
豪邸というよりも、公園の中に保存された歴史的建造物が近いと思う。
「ご無沙汰しております、赤坂さん」
「あの時は悪かったね…」
そう言う銀鷹丸さんの父親も変わりなかった。
相変わらずの威圧感で、上座に座って脇息にもたれかかると、
俺より大きく見えるほどだった。
「俺に何の用ですか」
「鷹子が遺した店での活躍はあちこちから聞いている。
今じゃ経済界にも政界にも、名がよく通っているらしいじゃないか。
しかも今でも赤坂の苗字を名乗っている」
「俺はお嬢様の妻…未亡人ですから」
「妻とは上手いことを言う。
一体どこにそんな、銃弾を受けても平気な、
しかも拳銃を持った人に、素手で立ち向かう妻がいるんだね。
…だがそこが気に入ったよ」
銀鷹丸さんの父親はふふと静かに笑った。
それは不穏な静かさだった。
「うちを任せたい、近々私の後継者として指名する」
「お断りします」




