第48話 温故知新
第48話 温故知新
和田さんと安田、よしのり親子の4人部屋に入ると、
もうみんなが集まっていた。
「お前ら大変やで」
一番に俺とよしのりを見つけたのはおっちゃんだった。
「どうせマグパイさんのいるところと当たったとかじゃね?」
「まあそれもそうだけど」
こんなくそ夜中に安田が、見舞いにもらったプリンをすすりながら言った。
「『PicaPica』…あん人、自分で連合立てよったらし」
俺はくすりと笑った。
「全員が上位経験者か、マグパイさんらしい」
和田さんが言った。
合戦は「アンブレラアカデミー」の圧倒的勝利だった。
「ケミカルテイルズ」のやつらと、ハリスさんのおかげもあったけれど、
全員が同じ方向を向いている事が、最大の勝因だった。
中でも銀鷹丸さんと初心者よしのりの活躍が、特に目をひいた。
この2人が前後で強い人たちを支えたからこそ、
応援と攻撃、その後の大技も最大に活きた。
俺はその銀鷹丸さんと一緒に、山場でHP回復スキルを連打していた。
応援効果を出せる人は他にもいる。
俺が目立つ必要なんてもうどこにもなかった。
「ホークス」とか無難な後衛は、陰に沈むことで初めて輝く、
「アンブレラアカデミー」がそう教えてくれたのだから。
翌朝、加藤から電話があった。
「昨日はお疲れさん、店は大丈夫か?」
「ホークスごときがいないくらい問題ないさ。
経理は倫子が見てるし、接客は女の子たちがいるし。
昨日は三浦さんと一色さんと、テーブルに集まって参戦してたよ」
電話の向こうでもしゃもしゃと何かを食べている音がする。
加藤のことだ、家でも自分でフライドポテトやフライドチキン、
ピザやハンバーガーなどをこしらえて食べているに違いない。
「俺らは和田さんと安田たちの病室に集まってた」
「あのさホークス、『銀鷹』からお前に話がある」
加藤は食べていた物をごくりと飲み込んだ。
「辞令。赤坂秀忠ママ、停職90日を申し渡します。
申し訳ないが、店のみんなで話し合って決めさせてもらった。
…お前ら突然の結婚だったし、新婚旅行もしてないだろ」
「加藤…! みんな…!」
俺は目頭が痛いくらいに熱くなった。
退院は俺が一番先だった。
…おかしいだろが、ずっとナースステーション前の部屋だったのに。
それからその翌日によしのり親子、翌々日に安田…と、
みんなバラバラに退院して来た。
よしのりとおっちゃんは、おばちゃんが銀色の軽自動車で引き取りにやって来た。
が、すごい筋肉な2人なので、ひとりずつの送迎と荷物を合わせて、
おばちゃんは家と病院を3往復もした。
安田は和田さん、れいなんこさんの退院まで、俺の実家に泊まり込んだ。
「田舎があるっていいなあ、うらやましい」
入院中、家のあちこちにたまった砂を掃き出していると、
安田が不意に言い出した。
「銀鷹丸さんと同じ事を言う…お前も東京生まれ?」
「生まれたのは確かに東京、育ったのも東京。
でも俺は在日3世だから、『東京人』どころか、
未だにただの『朝鮮人』、朝鮮半島が故郷って思われているよ」
安田ぷぷと吹き出しながら言って、
それから突風のようにぱっと笑い飛ばした。
「俺はお前がうらやましいよ。
すごく重い、つらい事をそんな風に笑って言えるなんてさ。
俺もここじゃずっと『外国人』だったから…」
「最近は違くね?」
「かもな、ちょっとだけ温故知新したわ」
和田さんが退院して来て、東京のやつらは引き揚げて行った。
しかし、銀鷹丸さんだけはなかなか退院の許可が出なかった。
毎日病院に行って、まだかまだかと待っていたが…。
「私の身体、相当ぼろぼろだったらしいの…あんな暮らしなら当然ですわね。
それで感染症がまだ心配だからですって」
れいなんこさんが退院して、部屋は彼女ひとりきりになった。
外は暑かったが、日当りの悪いボロ病院なので、
風は通り、案外ひんやりと涼しかった。
俺は汚れ物を回収して、新しい着替えを物入れにしまった。
銀鷹丸さんはその様子を見て、思い出したように言った。
「ホークスさん、身体を拭いてくださらない?」




