第47話 よしのりの星
第47話 よしのりの星
普通、初心者の集団なら、みんなダメージや応援効果など、
数字という結果に走ってしまい、結果動きもばらばらになってしまいがちだ。
でも彼らは目的が一緒なら、気持ちもひとつ。
だから動きを揃えられる。
動きが揃えば応援も攻撃も生きる。
「アンブレラアカデミー」は、その後の合戦でも勝ち続けた。
初心者を受け入れる以上、連合順位の上昇に限りがあり、
300位前後が限界と思われた、永遠の下位連合のはずだった。
しかし、このゲームのマッチングは連勝するにつれ、
対戦相手がどんどん強くなるという形式だった。
あまりにも勝ち過ぎたため、
最終日の12時、「INTERSECTION」に敗北した。
「INTERSECTION」は「ケミカルテイルズ」、「MA☆ロマンスシミック」と、
みつどもえの戦いを展開している、はるか雲の上の上位連合だった。
さすがにこれは手も足も出なかった。
そして19時も敗北した。
相手は「黒暗行軍」、無双ひとりの戦力だけが突出しているが、
他は「アンブレラアカデミー」より、かなり劣っていたので楽勝と油断していた。
いざ開戦してみると、無双は不在なのに、
その他の連合員たちの役割分担と、スキルの充実度が凄まじく、
連合最下位に近い戦力の盟主ひとりに、得点が封じられてしまった。
「あれを俺らもやれって事だよ」
合戦終わり、新しい棒つきキャンディを口に入れて、
安田がもごもごと言った。
彼は頬に大きなガーゼを貼っていた。
「その仕組みってどないなっとるん?」
そこに質問を返したのはよしのりだった。
彼は鉄柱をバットに、自動車をボールにホームランを打ったくせに、
手や腕はまったくの無事で、胴体の浅い銃創だけで済んでいた。
「あれは退却必至、かつ消費ポイントの少ないスキルを相当積んでるな。
補助スキルもたぶん、与ダメージよりHP回復系を優先させている」
「ふうん? 地味やな」
「銀鷹丸さんの前衛版みたいなもんだよ。
地味だけど敵の前衛に仕事をさせないし、他の前衛の盾にもなるから、
アタッカー…得点を出す係の人が大得点を挙げられる、
その結果、今みたいに勝てるんだよ」
和田さんはきっと、引き抜きの新しいターゲットを見つけたのだろう。
目がきらきらとしていた。
そんな和田さんによしのりが言った。
「…俺らもそれ、やれるんか?」
「ホークスの前衛デッキが今のにかなり近いよ。
あいつ、普段は後衛だから。
初心者でも比較的マネしやすいと思うよ」
21時、前衛と後衛の配置設定が締め切られる。
このポジションは俺、ゴールデンルーラーさん、フランベルジュさんの誰かが、
連合員のデッキ内容や、個人の希望などから決めている。
22時のポジション決めは俺だった。
前衛は和田さん、ツナサシミーさん、ミラージュ城さん、
激闇さん、そしてよしのりとした。
俺は広間でよしのりと向かい合って、彼の前衛デッキを組んだ。
資金提供があるから、低戦力の初心者でもスキルに不足はない。
「秀忠くんとこんな長いこと2人でおんのん、いつ以来?」
「俺が高校生、お前が中学生ぐらいまでじゃね?」
「もうこっちの言葉は喋らへんのん?」
「こんな田舎も言葉も嫌いだったから…」
ここには漁業と農業しかない。
小さな集落からほとんど出ることもなく、
する事も誰かの噂話ぐらいしかない。
個人のプライバシーもない。
だから俺は都会へ、噂の届く大阪ではなく遠くの東京へ逃げた。
「最近良う帰ってきてくれて、俺は嬉しいで?
遠くのお星さんが、また昔のまんま、『近所の秀忠くん』に戻ったみたいでな」
「…俺も最近ここと東京、行き来するのも悪くないて思ってる。
銀鷹丸さん…俺の主人がここと東京をつなげてくれたから」
「いやっ、ほんまにい?」
俺より身体が大きくなっても、よしのりも昔のまんま、
俺にくっついて回る「小っさいよしのり」だった。
なんだかそこにすごく安心する。
「出来た」
デッキが仕上がったのは、開戦の30分くらい前だった。
もう消灯時間を過ぎていたが、誰も何も注意しないゆるさも田舎らしい。
「あとはいいカード来たら、差し替えていったらいい」
「ありがとお」
「俺は後ろから、お前は前で、強い人たちを支える。
俺たちは」
よしのりは俺の言葉を笑顔で遮った。
「筋肉、秀忠くんこそごっつい身体やん?
なんであんな銃弾受けて生きとんねん、うわ、きっしょ!」
「きっしょいのはお前じゃ、車で野球しといて何この軽傷」
合戦どころかケンカに発展しそうだったが、
部屋から銀鷹丸さんがれいなんこさんと一緒出てきて、うふふと笑い、
一番奥の男部屋を指し、そこへ入っていった。
集合の合図だった。




