第46話 不思議な初心者
第46話 不思議な初心者
とりあえず俺は「アンブレラアカデミー」を守ることが出来た。
しかし連合を抜けたのは、マグパイさんだけではなかった。
寝る前にもう一度、ゲームを立ち上げてみると、
移動予定だった人たちに加えて、
彼が連れて来た人たち全員が、見事に抜けていた。
俺は「アンブレラアカデミー管理者会議」に22時の事を詫び、
マグパイさんたちの脱退を報告した。
“ホークスさん、ありがとうございました。
今日からしばらく少人数でいいじゃないですか”
10分ほどして、ゴールデンルーラーさんが返信をくれた。
フランベルジュさんからも間もなく返信が来た。
“せっかくの少人数戦だし、楽しく行きましょう!
マッチングも有利で、戦いやすいですし”
俺たち3人はそれから少しだけ雑談し、チャットを終えた。
連合はわずか9名と、少人数になってしまったが、
少人数戦は20人連合とはまた違った楽しさがある。
ポジション配置の重要さと、前衛の自分上げスキルの大事さがたまらない。
13名までが少人数連合扱いになるので、
とりあえず俺は3名だけ、ゲーム内の連合員募集掲示板に求人をかけた。
翌朝、スマホを見ると、
「アンブレラアカデミー管理者会議」に、たくさんの新着通知が来ていた。
まずはフランベルジュさんからだった。
“おはようございます。
なんかすごいたくさん応募があったので、満員にしちゃいました。
参戦率はみんな確認済みです”
それから銀鷹丸さんからも、久しぶりに書き込みがあった。
“おはようございます、無理矢理一時帰還させてもらいました。
今日からまたよろしくお願いします”
ゲームの「連合員一覧」ページを見ると、
確かに銀鷹丸さんが戻って来ていた。
そして新しい人たちを見る。
「和田」、「あらびきフランク」、「レイにゃんこ」…お前ら「ケミカルテイルズ」はいいのか?
「よしのり」、「エミー」、「おっちゃん」…あいつらまでなんで?
「リンクス」…加藤が復活? 「りんりん」…倫子さん?
「三浦計略帖」、これはあの三浦さん? 「カラフル」…一色さん?
…とりあえず銀鷹丸さんたちの差し金まではわかった。
知り合いたちにゲームをやらせたのか。
しかし「ケミカルテイルズ」の3人と銀鷹丸さん以外、
よくこんな短期間でデッキを作れたもんだ…。
戦力は低くとも、スキルに不足はない。
姉やよしのり親子、「銀鷹」の人たちなんか、まったくの初心者だろうに。
これは金のある人や経験者たちで、資金や技術を提供したのだろうな…。
それからもう1人合流がまだらしい。
その人は、連合移動の締め切りである11時ぎりぎりになって、
ようやく移動して来て、連合掲示板に挨拶を書き込んだ。
“ハリスでーす、遅れて申し訳ない!
ホームお休みするので来ちゃいました〜。
これからよろしくお願いしまーす”
ハリスさんまで…!
「…銀鷹丸さん、みんなに声かけた?」
顔を洗いに来た銀鷹丸さんを捕まえて、フロアの広間で俺は聞いた。
「いいえ、私が誘ったのはハリスさんだけですよ」
寝間着姿の銀鷹丸さんはうふふと笑って否定した。
れいなんこさんもやって来た。
「あにょと和田さんとおいは、銀鷹丸さんば監視すっためじゃっど」
「えっ、それじゃ姉ちゃんとかよしのり親子、『銀鷹』の人たちは?」
「三浦さんと一色さんですよ。
ふたりが最初に始めてみたいって言って、そこからみんな…」
とりあえず人数は揃った。
12時の指示出しはフランベルジュさんの予定だ。
今回、「アンブレラアカデミー」は大勢の初心者を抱えた。
勝利は期待できないが、それでもピリピリした空気を抱えるよりいい。
ずっといい。
ところが。
12時の合戦が始まってみると、俺は驚きに固まった。
回復スキルでマウントを取る、HPの最大値を上げるスキルを撃つ、
奥義の待機時間中、前衛の攻撃で敵を寝かせたら、
その隙に能力同時上げ下げのスキルを撃つ、
コンボ増加の奥義発動で、コンボ増加スキルを集中で撃ち込む…。
初心者たちが後衛で動きを揃えていたのだった。
「どういう事? なんで初心者がいきなりこんな、動き揃ってる訳?」
俺は向かいに座る和田さんに言った。
貸し出しの病衣姿の和田さんも、あちこち包帯だらけの身体だが、
普通の病室だから、俺よりは軽傷らしい。
俺たち入院組は広間に集まって参戦していた。
和田さんと安田とれいなんこさんの3人は、
いつもならどこか、高級ホテルの会議場でも借りて、
そこに集結して参戦のはずだっただろうが、
まさか、こんな田舎の病院の入院病棟の広間から参戦とは…。
和田さんはふふと笑った。
「初心者の人たちは、俺らとハリスさんで仕込んだ。
簡単だったよ…みんな目的はひとつ、気持ちは揃っているんだから」




