第45話 ホークスの山
第45話 ホークスの山
普段の俺は後衛専門として、ずっと後衛に配置されていた。
でもこのゲームの「合戦」には、「全員前衛」ルールのある時もある。
前衛デッキの組み方も知っている。
そして普段が後衛なら、前衛用のカードやスキル、育成素材は余っている。
対戦相手はまたも格上の連合だった。
「春猫」、女性が多めのところで後衛が強い。
30分間の合戦中、俺はまず敵を立たせない事に専念した。
立てないなら、コンボは積めない。
強みである応援を受けることはできない。
コンボ数によるボーナスが少なく、受けられる応援も少なければ、
山場でダメージなんか出せない。
マグパイさんは最初のうちは、無難に指示出しをしていた。
前後のコンボは勝っている、だが得点は大きく負けている。
コンボ数さえ勝っていれば、後でいくらでも捲れるとは言っても、
ここまで得点差をつけられてしまっては、それも難しいだろう。
そろそろマグパイさんの機嫌も悪くなって来るはずだ。
ラスト6分頃、敵は次の奥義を敷いた。
「松風失速」、俺たち「アンブレラアカデミー」側の与退却数増加を停止させ、
その後の与退却数依存スキルによるダメージを減少させ、
逆転を阻止しようという狙いなのだろう。
“思念爆撃”
マグパイさんも指示を出した。
敵の行動にかかるポイント消費量を倍増させ、手数を減らし、
味方を応援効果を上げる事で、得点を抑えたいらしい。
俺は今の奥義が終わる直前、いったん別のページに飛んで、
すぐにまた合戦画面に戻った。
そして「思念爆撃」が出される前に、別の奥義をねじ込ませた。
いつの間にか海から家へと入り込む、砂と塩のように。
“ちょっ、ホークスさん!”
“指示通りじゃないとダメだろ”
そう驚き、とがめるのは新しい人…マグパイさんが連れて来た人たちだった。
もともと連合にいる、古い人たちは何も言わない。
“バカかホークス!”
マグパイさんもとうとうぶちキレた。
俺はそのまま攻撃を続けた。
割り込ませた奥義は待機時間が短い、もう発動だ。
「魔鏡台車」、タイミングが難しく、失敗すると敵の奥義をミラーしてしまうが、
時間が合えば、敵の出した奥義を打ち消せる。
敵側の「松風失速」は、しゅっと消えてしまった…。
俺はもう一度、いったん別のページに飛んで、すぐに合戦画面に戻った。
今の奥義終了の何秒前にするかは、自分の環境と要相談だが、
こうする事で奥義終了と同時に、次の奥義を置ける。
「烈女伝説」、補助スキルの発動率を大きく上昇させる奥義だ。
類似の別奥義がすでに存在している上、
デッキ内の女性カード数依存だが、こちらの方が上げ幅がうんと大きい。
素の状態で補助スキルの発動率が高ければ、
100%近くの発動率になる。
“またホークスか! 死ねやコラ!”
マグパイさんから再度の怒りが、合戦画面内の新着コメント表示欄に表示された。
発動まで19秒、俺はようやく連合掲示板に書き込んだ。
“山”
それだけ書いて、奥義の発動から前衛全員で大技を全て撃ち込み、
終了後の残り時間すべて、また最初のように敵を立たせない事に専念した。
そうして合戦は終了した。
みんな「お疲れさま」以外の言葉はなく、
掲示板はいやに静かだった。
このゲームでは合戦終了から、5分後に勝敗が発表され、
10分後にMVPと個人の詳細結果が発表される。
…前衛MVPホークス、合戦内ダメージランキング1位。
敵が格上だったので、どうかと内心ひやひやしていたが、
とりあえず結果を出せてよかった。
相手が上位経験者なら、それ以上の戦力と結果を出すしかない。
“ホークスさん、さっきのは何なん?
普通ありえへんやろ!”
マグパイさんからはすぐに怒りの個人チャットが飛んで来た。
俺もマグパイさんに返信を書いた。
俺の山は合戦ではなく、こっちの方だ。
“マグパイさん、お疲れさまです。
前にも言った通り、マグパイさんは感情を出し過ぎます。
申し訳ないですが、これ以上連合の空気を悪くしたくないので、
今夜0時回り次第、除名させていただきます”
“最低の連合だな”
“それでいい、俺は連合員らに恩なんか着させたくない、
あんたの機嫌を伺いながらの参戦なんかさせたくない”
なんで俺はこの人と戦っているのだろう。
…あんな弱い、しかも預かっただけの人たちのために。
マグパイさんという上位連合から来た、強い前衛…。
上手くおだててすり寄ればいいだけの事なのに。
そうすれば連合も、簡単に上位に入れるのに。
“マグパイさん、あんたは俺と同じだ。
俺も上位経験者として、自分の強さに酔っていた。
『アンブレラアカデミー』を下位連合だって見下していた。
でも俺は彼らを引き受けて、あんたに除名通告をしている今、
ちゃんとここの人になったと思う”
俺はそこでいったん送信し、続けた。
激高状態の人に長文は読んでもらえないだろう。
“この連合は若いプレイヤーのための連合だ、
いくら参戦率があっても、俺らが知ってる上位連合にはなり得ない。
マグパイさん、あんたは『万年下位連合のマグパイ』として、
ちゃんと「ここの人」になれるか?”
マグパイさんからの返信はもうなかった。
0時過ぎ、彼は黙って連合を抜けて行った…。




