第44話 戦力か参戦率か
第44話 戦力か参戦率か
マグパイさんが呼んでいる1名は、プレイヤー名を「ベルサー」さんと言う。
ベルサーさんについては俺も知っている。
ゲーム全体での応援効果ランキングで、
しょっちゅう1位を獲っているのを見る。
確かに高い効果は出せる。
でも「ケミカルテイルズ」が、今まで彼をスカウトしなかったのも知っている。
マグパイさんの言う通り、ベルサーさんは参戦率が多くても1.5、
1合戦あたり30分、1日3度だから合計で90分。
このうち1合戦と半分、45分程度になる。
上位連合の合戦イベントだと、これでは加入も断られるだろう。
少なくとも、「ケミカルテイルズ」の要求する参戦率には合わない。
それともその戦力で優遇されて来たのだろうか。
“連合は1日60分、不足分はどこかで補えますか?”
“確かに少し足りない、それでもベルサーさんは余りある強さだと思う。
『SKY AVOVE』はトップ10に入る超上位、彼はそこの筆頭後衛だ”
マグパイさんの中では、「ケミカルテイルズ」は下位連合らしい。
そして「ホークス」とかいう人は、その「ケミカルテイルズ」に一瞬だけいた、
低戦力で無難な後衛らしい。
“俺は連合を預かっているだけの盟主代行だ。
ゴールデンルーラーさん、フランさんとも話し合ってみます”
あれこれ言い返したいのをこらえて、無難な俺は無難に回答し、
さっさと会話を切り上げようとした。
ところが、マグパイさんの返信はまだあった。
“ホークスさん、あんたいつまで連合に低戦力のやつらを置いておくつもりだ?
ヘリオスさんとか、ナイブスさんとか。
そんなやつらより、もっと戦力高い人で固めた方が良くね?”
…要するにマグパイさんは、戦力での優遇や除名を要求しているのだ。
戦力が高ければ、参戦率が低くても構わない。
コミュニケーションも取らなくていい。
逆に戦力が低ければ、いくら参戦率が高かろうと、
どれだけ連合に貢献しようと、除名しろ、そう言いたいのだ…。
マグパイさんの要求を全て通してしまうと、
それはもう「アンブレラアカデミー」ではない、ただの上位連合だ。
彼の目的は連合の乗っ取り…違うか、マグパイさん。
“彼らは参戦率も、コミュニケーションも、貢献の増加量も、
連合の要求をすべて満たしている、何も問題はない”
俺はそれだけを冷たく返信し、今度こそ会話を終了した。
今まではハリスさんとの関係、銀鷹丸さんの思いなど、
連合のその後への影響を考えて、ずっとためらっていた。
でもこれでようやく心は決まった。
トイレを使い、自動販売機でミネラルウォーターを買う。
フロアの広間で会う銀鷹丸さんは、経過も順調そうだった。
わざわざ東京から、代表で見舞いに来てくれた三浦さんを加えて、
姉やよしのり親子、和田さんたち「ケミカルテイルズ」3人と、
楽しそうにお茶を飲んでいた。
「ホークス、お前何渋い顔してる訳?」
和田さんが俺の顔を見て笑った。
俺は楽しくお茶なんか飲んでいる場合じゃなかった。
すぐに部屋に引っ込み、外部チャットアプリを再び立ち上げた。
そして「アンブレラアカデミー管理者会議」のグループを開く。
まだ23時過ぎだ、いける。
“お疲れさまです。
これ以上連合内の空気が悪くなるのは良くないし、
戦力での優遇や除名は、絶対にあってはならないと考えています。
マグパイさんの除名、もしくは連合の解散を考えていますが、
ふたりの意見を聞きたいです”
ゴールデンルーラーさん、フランベルジュさんからはすぐに返信が来た。
“賛成します…てか、あの人なんでまだいる訳?”
“俺もホークスさん、ゴールデンルーラーさんに賛成です。
もっと早くても良かったと思います”
それから3人で除名の期日を話し合い、
このクエイベ期間終わりと決まった。
除名の通告をするのは俺だった。
当日も俺たちは普段通りに参戦した。
俺は応援ボタンを連打しながら、マグパイさんの動きをじっと見ていた。
それはゴールデンルーラーさん、フランベルジュさんもそうだろう。
マグパイさんは相変わらず、自分で指示出しをしていたが、
戦況が悪くなると不機嫌になるのも、いつも通りの事だった。
19時終わり、俺は病院食もそこそこにし、
ベッドから出ずにデッキを作り直した。
しばらく銀鷹丸さんの代わりに、回復を多めに積んでいたので、
カードも素材も余裕があった。
前衛と後衛のポジション指定は、開戦の60分前までだった。
20時59分、俺は盟主権限を使ってこれを変更した。
前衛、マグパイさんに替わりホークス。
“げっ、ホークスさんが前衛?”
“後衛専門じゃなかったのか?”
こんな田舎の、さして大きくもない病院のことなので、
一応消灯時間はあっても、ほとんどないようなものだった。
22時の合戦も余裕でフル参戦できる。
21時半を過ぎて、集まり出した連合員たちが騒ぎ出した。
俺も持参奥義名を添えて、イン宣言をした。
その直後、マグパイさんもインして来た。
“ホークスさん、これどういう事?”
“悪いけどマグパイさん、俺にも前衛を練習させて欲しい”
俺は前衛デッキを、新しく用意したものに差し替えた。




