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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第42話 マッスル

第42話 マッスル


「お前ら、いつの間に…?」


なんでこんな田舎に安田と和田さん、れいなんこさんまでいるのだろう。

安田は言った。


「もちろんつけて隠れていたさ」

「俺らはイベント開催中だからな」

「対象に気付かれんように守っ、いざっちゅ時は盾んなっせえ命ば懸けっ、

名付けて『赤坂夫妻護衛コンテスト』じゃっど」


玄関に押し寄せた人数もかなりのものだったが、

家の前の砂浜でも、3人の手下たちと銀鷹丸さんの父親の使いたちが、

ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、争っているようだった。

俺は外へ出た。


「うちのムラのもんに何すんじゃコラ!」

「貴重な若いもんを奪うなや!」


赤坂家からの使いたちと戦っているのは、ヤクザたちだけではなく、

よしのりのおっちゃんをはじめとしたムラの男たちもだった。

さすが田舎、もう情報が伝わって全員参加なのか。

しかし何と言う筋肉なんだろう…これが肉体労働の結果か。

力ではプロにも負けない。


「げっ、おっちゃん…!」

「秀忠来たらあかん、今のうち赤さん連れて逃げ! 早よ!」

「わかった、ありがとう」


俺は家の中に戻ろうと、道路に出た。

海に沿って遠くから黒い車が近づいて来るのが見えた。

通りがかりのタクシー…でもなさそうだな。

こんなところに客なんか来やしない。


「俺が行く!」


砂浜の集団からよしのりが飛び出して、車に向かって走り出した。

その手には太い鉄柱があった。

…鉄パイプじゃないところが、いかにもよしのりらしい。


よしのりは途中で止まり、道路の端に立って近づく車を待ち受けた。

車はよしのりを轢いてでも進むつもりらしい、少しもスピードを落とさない。

車がいよいよ近づいて、ブレーキの間に合わない距離になった。

ようやくよしのりは持っていた鉄柱を構えた。

そしてまるで野球でもするかのように、鉄柱で車を打った。

車は衝撃で弾き返され、防波堤にぶつかって停止した。

そこへ何人かのムラの男たちが、浜から上がって来て群がり出した…。



俺は銀鷹丸さんを逃がさなければいけない。

家に駆け込むと、姉が勝手口から入って来ていた。


「ここはうちにまかしとき、ごうの面倒も見とくし」

「姉ちゃんありがとう、頼んだよ」


銀鷹丸さんは二階の部屋の畳に、きちんと正座をしていた。

でも何も支度をしてはいなかった。


「銀鷹丸さん、行くよ」

「…行けませんわ」

「何を言ってる、みんなあんたを逃がそうとして…!」


仕方ない、俺は力ずくで銀鷹丸さんを肩に担ぎ上げた。

通りがかりに台所から包丁を盗み取った。

一般人の俺には銃なんか扱えない。

勝手口からガレージのに回ると、そこにはもう敵が待ち構えていた。


「どこへ行かれるのですか」

「あんたらのいないところだ」


するとその時、俺の脇腹に何か熱い物が突き刺さる感触がした。

撃たれた…でもいい。

俺が撃たれる分には何もかまわない。

心に違和感しか感じさせない筋肉も、今は天の恵みだ。

俺は背中に同じ感触を浴びながら、銀鷹丸さんを赤い車に押し込んだ。

そして敵と向かい合った。


「なぜまだ死なない? 頑丈な男だな」

「は? 男? 俺は嫁、このムラの、赤坂家の嫁だ…!」


俺に乳腺の発達はない、膣も子宮もなければ月経もない。

あるのは精巣と陰茎、突出した喉仏、盛り上がる筋肉だ。

それでも俺の心の半分は女。

女だから痛みにも耐えられる。

女だから並の男より強くなれる。


台所から持ち出した包丁を、服の間から抜いて構え、

俺は敵の注意を引きながら、赤い車から距離を取り始めた。

でも敵がまた発砲した。

包丁は血に塗れた手から、いともあっさりと弾き飛ばされてしまった。


俺は敵に掴み掛かり、全ての筋力を腕に、拳にと込めた。

拳銃と素手、勝ち目はないだろう。

死ぬかな…それも悪くない。


その時、敵の動きが突然変わった。

それと同時に俺は突き飛ばされてよろめいた。

後ろで短い声が聞こえた。

振り返ると、銀鷹丸さんが血を流しながら立ち尽くしていた。

車のドアは開いていた…。


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