第41話 RedHawk334
第41話 RedHawk334
「これですよ」
銀鷹丸さんはスマホを取り出し、スクリーンショットを呼び出した。
そこにはシューティングゲームにありがちな、
架空の宇宙戦闘機の一覧があった。
特徴といえば、LANルータのアンテナ状のてっぺんの出っ張りぐらいか。
「これらの総称が『銀鷹丸』なのです、識別番号は第334号。
船らしくはないですが、舞台が宇宙、敵が海洋生物なので漁船、
さらにラスボスが鯨なので捕鯨船なのです」
「銀鷹丸さんのゲーマータグ…もしかして『RedHawk334』?」
和田さんもやっていたゲームで、それも覇軍の人…。
「あら、どうしてそれをご存知ですの?」
「だって本名そのままだし、すごいわかりやす過ぎ。
てか、ハリスさんから聞いたよ。
…銀鷹丸さん、どうして彼らを俺のところに送ったの?」
鷹丸さんは波打ち際にしゃがんで、
やって来る波に手を差し伸べて触れた。
「彼らという教材を送り込んだのは、私があなたの主人になったから…。
妻を教え導くのは、主人の役目のひとつですもの。
ホークスさん、あなたは最高の連合で長く後衛を務めて来た。
けれど、まだ盟主経験はないはず」
確かに俺には盟主の経験はない。
でも俺なんかに盟主経験を積ませて、勉強させてどうするの?
盟主として成長させて、その先どうしたいの?
「銀鷹丸さん、あんた引退を考えている?」
「引退…出来たらいいですわね…」
「ケミカルテイルズ」か…。
銀鷹丸さんは「ケミカルテイルズ」が育てた人材だ。
それだけではなく、これからも成長し続けられる能力がある。
あのゲームがサービス終了しない限り、
連合はきっと彼女を手放さないだろう。
銀鷹丸さんはふふと笑って、
寄せては返す波の先端を、しばらく手で弄んでいた。
それから水平線近く、沖に目をやった。
その目は真っ直ぐで、いつもの銀鷹丸さんらしかった。
どこか影があって、おとなしやかで、従順そうなのは、
本当に見た目だけだな…。
昼メシを食べたら、新幹線で帰るつもりで支度をしていた。
そこへ来客があった。
銀鷹丸さんを2階へやって、俺が出ることにした。
姉でもなく、よしのり親子、それどころかムラの人でもない。
ムラの者なら呼び鈴なんか鳴らさない。
「はい」
「赤坂さん、お届けものです」
まずインターフォン越しに対応すると、運送業者らしかった。
運送業者も嘘だね。
ここじゃ郵便や宅配の配達員ですら、いきなり玄関や縁側にやって来る。
「ホークスさん、正面に立たないで」
振り返ると、銀鷹丸さんが階段で拳銃を構えていた。
彼女が猟銃を扱えるらしい事は知っている。
でもなぜ拳銃、しかもご丁寧にサイレンサーまで付いている…。
和田さんか安田が護身用に持たせたのだろうか。
「ちょっ…銀鷹丸さん!?」
「誰が来たかぐらいわかります。
…どうぞ、お入りになって、鍵は開いております」
引き戸が音を立てて開き、スーツ姿の男2人が入って来た。
「お嬢様、お迎えにあがりました」
「迎えなど要りません、どうして私が帰らねばいけませんの?
あんな家、私は二度と帰るつもりはありません…!」
銀鷹丸さんは狙いをつけ直した。
「私どもも何としても、お嬢様をお連れしろと仰せつかっております」
男たちも拳銃を抜いた。
そして俺に狙いをつけた。
「…そして邪魔は排除せよとも」
その時、男たちが突然血を噴いて倒れた。
そして開けっ放しの玄関に、彼らとは違う、また別な、
なんだかガラの悪そうな団体が、津波のようにどっとなだれ込んで来た。
「優勝は俺のもんだ!」
「いや俺だ!」
「賞金はおいがもんじゃ!」
それは安田と和田さんとれいなんこさん、
それから彼らの手下らしき者たちだった。




