第40話 英雄詐欺
第40話 英雄詐欺
俺たち3人はツナサシミーさんをボイチャに誘った。
返信を待っている間、俺は台所で翌朝に食べる茶粥を煮ながら、
やはりボイチャをしている銀鷹丸さんに聞いてみた。
「銀鷹丸さん、『ふく豆』さんて知ってる?」
「さあ…」
銀鷹丸さんは知らないようだ。
しかし、俺の質問にボイチャの先から答えた人がいた。
「知ってるよ」
「おいも知っちょっ」
「私も…化粧品の販売をしてみないかって、前に誘われた」
「えっ、俺は不動産投資だったよ?」
「私は社長って聞いてるけど?」
…どうやら「ケミカルテイルズ」では、何人もふく豆さんを知ってるらしい。
しかも悪い意味で。
安田が代表して言った。
「うちは俺がいるから大丈夫だけど、
他の上位連合では、あいつの被害に遭ったやつがけっこういるようだな。
お前のところも気をつけろよ」
彼らに礼を言って、「アンブレラアカデミー」のボイチャに戻る。
ツナサシミーさんも参加しており、「こんばんは」と言った。
「お待たせ、今ちょっと聞いて来た。
あの人の詐欺は本当で、上位では有名らしい」
「やっぱり本当だったのか…! 俺はフレのフレが被害に遭ったらしいんだ」
「ホークスさん、除名する?」
フランベルジュさんが静かに聞いた。
「…したい。が、まだ何も起こしていないうちは除名できない。
何か事件を起こしてくれないと…」
「それもそうだなあ、ツナさん寝落ちとか何かやらかしてよ」
「フランさんこそ」
「22時、フランさんとツナさんのネオチーズを前衛設定とかどう?
絶対寝落ちしてくれるよ」
ゴールデンルーラーさんがそんな冗談を言って、
あとは雑談になって、その晩の話し合いは終わった。
その翌朝、「アンブレラアカデミー」連合員一覧から、
ふく豆さんの名前が消えており、
連合の外部チャットは荒れに荒れていた。
荒したのは3人組のひとり、夜伽さんだった。
内容は金返せだの、詐欺師だの、ふく豆さんへの暴言だった。
夜伽さんが被害に遭った、ふく豆さんは逃げた。
ふく豆さんが出て行ってくれたのはありがたい。
しかし夜伽さんの暴言は止まらなかった。
対象はふく豆さんから、俺たち連合幹部へ、
そしてマグパイさんへと飛び火した。
“ホークスさん、夜伽さんを除名してくれませんか?
暴言がひど過ぎて、作戦を書いてもすぐに流れてしまう”
何を言っているんだか…。
夜伽さんはあんたと一緒に来たんだろが。
“もちろんそのつもりです。
ですが、その前に紹介者のハリスさんに話をしてみます”
ハリスさんは俺が昔いた、「上都キサナドゥ」の盟主だった人で、
俺に上位の戦い方を教えた師匠でもある。
俺はハリスさんに個人チャットを送った。
“おはようございます。
ハリスさんが紹介してくれた3人だけど、
うちの連合には合わないみたいです、申し訳ない”
ハリスさんからはすぐに返信が来た。
“おはようホークス、あいつら最高だろ?
暴君に詐欺師にチャット荒らしのセットだ。
選りすぐりの教材だぜ、めいっぱい勉強しろよ”
教材…確かれいなんこさんもそんな事を言っていたな。
勉強しろって。
“それはどうもありがとう。
で、ハリスさんは誰に頼まれたんですか?”
すると、ハリスさんは意外な答えを返した。
“俺が前にやってた『宇宙漁業組』てゲームでの師匠だよ。
ゲーマータグが『RedHawk334』、
和田さんも俺と同じチームでやってたから、知ってると思うよ。
覇軍の人ですごい有名だったから”
ハリスさんからの通信はそこで途切れた。
俺は2階の窓から顔を出し、家の前の砂浜を散歩している銀鷹丸さんを呼んだ。
彼女は振り向いて、手を振りながら「おはよう」と笑った。
「銀鷹丸さん、知りたいことがある」
俺も砂浜に降りて、隣を歩き始めた。
「何ですの?」
「銀鷹丸さんの『銀鷹丸』の由来…どういう捕鯨船なの?」




