第39話 あの指示
第39話 あの指示
姉とよしのりが帰ったあと、買い出しがてら最寄りのスーパーへ行った。
運転しながら銀鷹丸さんを案内し、買い物はここか行商か通販しかないと教えた。
それから帰りにガソリンスタンド、病院、薬局と、
生活に必要なところを回った。
食事は俺がハンバーグとポテトサラダを作った。
これからはなかなか作ってやれないので、そうしたかった。
この辺はテレビもつまらない。
大阪からの電波はなんとか拾えるが、
それでも東京よりはチャンネルも少ない。
俺たちは道路を渡って砂浜に出た。
何もする事がないなら、散歩した方がずっとましだ。
砂浜は道路の灯りからも離れて暗いうえ、
人気もないが、代わりに不審者も出ない。
足を沈めると、乾いた砂がビーチサンダルと一体化した。
「夜の散歩は気持ちがいいですね」
「そうだな…」
せっかく2人で夜の海にいると言うのに、
甘い雰囲気になるには、俺たちはもう歳を取り過ぎていた。
だからただ風に吹かれながら、なんとなくぶらぶらと歩いているだけだった。
はしゃぐ訳でもなく、手をつなぐ訳でもない。
でもそれでいいんだと思った。
これからはこういう時間を重ねるために、俺はここへ帰って来られるのだから。
暇なので、22時はフル参戦した。
ゴールデンルーラーさんが指示出ししていた。
軍師はフランベルジュさんだが、彼が欠席の時は、
ゴールデンルーラーさんが指示出しをしている。
敵はもちろん格上、最近は格上としか当たらない。
連勝すればするほど、対戦相手が強くなるのがこのゲームだ。
マグパイさん、3人組のひとりである夜伽さんが前衛で、
ふく豆さんが後衛で暴れ回っているせいだ。
彼らもマグパイさん同様、上位から来た人たちだった。
でもさすがにベスト20に入る連合相手では、
なかなか勝たせてもらえない。
コンボ数も足りない、スキルの数も足りない。
俺ら「アンブレラアカデミー」は、敵の参戦数の少なさに賭けるしかなかった。
合戦は中盤にさしかかっていた。
点差はそろそろ追いつけなくなっており、
マグパイさんのいら立ちもちらほら見え出して来た。
“次、『帝国牙城』”
ゴールデンルーラーさんが次の奥義指示を出した。
「帝国牙城」、敵が強ければ強いほど、
立っている味方が少なければ少ないほど、
防御が上昇するという、劣勢時向きの奥義だ。
ところが。
“『無銭承知』→『人都瓦解』”
マグパイさんが別の指示を割り込ませた。
強いデッキを借りられる「無銭承知」で、一時的に味方を強化し、
それでマウントを取っている間に、応援でステータスを上げ、
劣勢時計略強化の「人都瓦解」で、一気にまくり上げたいらしい。
…的確な指示だとは思う。
でも問題はそこじゃなかった。
マグパイさんの指示は遅く、すでに予定通りの「帝国牙城」が出されていた事だった。
その後合戦終了まで、マグパイさんは指示出しと、
いらいらの感情を思う存分出し続け、
ゴールデンルーラーさんは指示を出す事はなかった。
合戦終わり、ゴールデンルーラーさんとフランベルジュさんの3人で、
またボイチャを使っての話し合いを持ったが、
ゴールデンルーラーさんは荒れていた。
「もうキレた! あれじゃみんな混乱する!
マグパイさんが連合にいる間、俺はもう指示出ししないからな!」
ゴールデンルーラーさんは穏やかな人柄だ。
その彼をキレさせるとは…。
「ああ、もちろんしなくていいよ!
代わりに俺が、銀鷹丸さん直伝の『あの指示』を出しといてやるから」
「よし、俺もホークスさんに続いて、俺も『あの指示』出すよ!」
俺もキレていたが、フランベルジュさんもかなりキレていた。
「…あ、ツナさんから個チャ来てる」
「フランさん、ツナさん何て言ってる? やっぱりさっきの事?」
俺がそう聞くと、フランベルジュさんから2枚組の、
スクリーンショットがチャット内に投稿された。
でもそれは先ほどの合戦についてではなかった。
マグパイさんと一緒にきた、ふく豆さんについての質問だった。
“ふく豆さんがゲーム内で詐欺行為してるって本当?”




