第38話 最低の連合
第38話 最低の連合
合戦終わり、マグパイさんから怒りのチャットが飛んで来た。
「これは私のした事、私が返信を書きましょう」
銀鷹丸さんはもう一度俺のスマホを取り上げた。
“マグパイさん、先ほどは失礼いたしました。
マグパイさんの反応が見たかったのです。
軍師として連合員のミスにどう対応するか…”
俺はそれを引ったくって取り返した。
「俺が書こう」
銀鷹丸さんが書きかけた内容を消し、最初から書き直す。
“マグパイさん、さっきは俺があんたという軍師を見るためにわざとした事だ。
マグパイさんは感情を出し過ぎる、それは指示出しには致命的だ。
さっきみたいにちょっと揺さぶれば簡単、指示系統は乱れる、
敵にそう思われるって事”
そしてすぐに「送信」ボタンを押した。
マグパイさんから来た返信は、かなりの激高状態で書かれてあり、
言いたい事が散乱して、まとまりはなかった。
その翌日、仕事の帰りに俺は襲われた。
「ユニティ」へ行こうと、駅を出たところだった。
「何しに来た? 殺しに来たんじゃないのか?」
ずっと嫌だったごつい身体が、この時初めて役に立った。
敵は雇われた者だろうが、あっさりと倒せた。
そのまま「ユニティ」へ行き、和田さんにこの事を話した。
和田さんは声を立てて、げらげらと俺を笑った。
「笑える!」
「笑うな、俺の命の危険はお笑いショーじゃない」
和田さんは笑いながら電話をかけはじめた。
「あ、もしもし安田? 今、面白いことがあってさ…」
電話の向こうでもすごい笑い声がする。
「了解、これはイベント開始だな」
そう言って通話を終えても、和田さんはまだ笑っていた。
「…という訳で俺らイベント開催だから、邪魔すんなよ」
「何が邪魔だよ」
すると、和田さんがカウンターの下に手を入れたかと思うと、
次の瞬間には俺の額に銃口をぴたりと付けていた。
「次からは拳銃…さすがにその筋肉でも無理って事」
彼は拳銃をまたカウンターの内側に戻すと、にかりと笑った。
「敵もプロだけど、俺らもプロなんだよ。
ここはプロにおまかせ、お前は他にやる事あるだろ?」
少し早いが、俺は銀鷹丸さんを田舎に移す事にした。
姉に事情を話すと、田舎のことなので情報はすぐに広がり、
早速よしのりから電話が来た。
「エミー姉ちゃんから聞いた、赤さんは俺らにまかせとき」
よしのりは姉の事を「エミー姉ちゃん」と呼ぶ。
父が「エミー」と呼んでいたからだった。
「頼んだよ、まあお前の筋肉なら、銃弾の1発や2発ぐらいいけるだろ」
「そんなん10発ぐらいいけるわ、漁師仲間もみいんなごっつい筋肉やで。
今、おとんが山の友達にも声かけてくれとる」
店から休みを取って、俺があの赤い国産車で銀鷹丸さんを送った。
後ろの座席で、銀鷹丸さんはごうを膝に乗せており、
ごうはだらしなく両脚と頭を、彼女の膝からシートの上へと流していた。
途中のサービスエリアから、俺らは合戦に出た。
俺が「銀鷹丸」で、彼女が「ホークス」で。
田舎では姉とよしのりが実家の前で待っていた。
「お姉さん、よしのりさん、よろしくお願いします」
ごうを抱いた銀鷹丸さんはぺこりと頭を下げた。
俺は彼女の背中を押した。
「銀鷹丸さん、あんたが今日からこの家の主人だ。
誰に遠慮する必要もない、堂々としていればいい」
姉が前もって2階の部屋を片付けくれてあり、
銀鷹丸さんが茶の間にごうの居場所を作り、
それから車で運んで来たすぐに使う物を、よしのりと2人で運び込んだ。
ほこりが立つので窓を開けると、部屋の中に海が流れて来る。
ずっと嫌いだった、海の見える俺の部屋は、
今日から銀鷹丸さんの部屋になった…。




