第36話 軍師
第36話 軍師
「えっ、二郎さんが移動?」
これには銀鷹丸さんも驚いていた。
「二郎さんは連合が出来た直後からの古い方でしたのに…。
ずいぶんと急ですわね」
「リアが忙しいなら仕方ないか…」
俺はため息をつきながら、了解の返信を書いた。
換気扇の下でわかばを盛んにふかしながら、
俺らの様子を見ていた、れいなんこさんが言った。
「そいは建前じゃっど」
「れいなんこさん、どういう事?」
れいなんこさんはわかばを消すと、帰り支度を始めた。
「ま、ホークスもここは勉強しやんせ」
彼は「ラノベの美少女」に戻り、うふふと笑って帰って行った。
依頼主には何と報告するのだろうか。
「銀鷹丸さんなら、二郎さんをどうする?」
俺は洗い物をしながら、空いた皿を運んで来た銀鷹丸さんに聞いた。
「…私も引き止めはしません。
それが彼からの連合への評価と思っていますから」
「評価…」
19時の合戦相手は格上の連合だった。
普通なら前衛の戦力に目が行きがちだが、
このゲームでは後衛の応援によって上げることが出来る。
応援はコンボ数が増えれば増えるほど、その効果が大きくなる。
敵もそこを一番にわかっていた。
応援コンボ数を増やすスキルも、きっちりデッキに積んでいる。
開始5分で1000以上も差を付けられてしまい、
「アンブレラアカデミー」はその後も縮められずにいた。
そうなると、前衛もダメージを出せない。
ダメージが出ないって事は得点も取れない。
合戦はだんだんに負け始めて来た。
指示出しは例によってマグパイさんだった。
最近はもう、本来の軍師であるフランベルジュさんの影も薄かった。
それは「無難な後衛」である俺も同じだった。
“後衛コンボ負けてるぞ、ちゃんと手動かせよ”
マグパイさんがいらいらし始めた。
…またかよ。
勝っている時はいいけれど、負け始めると露骨に言動に出る。
当然、指示にもそれが表れる。
敵はいちばんの山場となる攻撃の奥義を敷いた。
このゲームでの「奥義」は、攻撃や応援の大技ではなく、
目的に合わせて、下地に敷くスキルだった。
ところが次の奥義指示はなく、
マグパイさんの名前のついたログも、履歴に流れて来なくなった。
その後は補佐のゴールデンルーラーさんが、
代わりに指示を出してくれたが、
案の定、合戦は「アンブレラアカデミー」の敗北だった。
みんなが「お疲れさま」と、翌日の参戦予定を書き込んでいると、
マグパイさんが書き込みを再開した。
“みんながちゃんと動かないから、途中で指示出しやめたよ”
これに対して、俺を含め返信する人は誰もいなかった。
俺は呆れていたが、みんなは下手にコメントして、
ムダに刺激したくはないのだろうな…。
そう思っていると、フランベルジュさんより、
外部アプリでの個人チャットが来た。
“マグパイさんは軍師向いていないと思います。
次の奥義指示が遅過ぎます”
“フランさん、今話せますか?”
それだけ返信して、俺はゴールデンルーラーさんも加えた、
3人のチャットグループを新規作成し、
そこで音声チャットを立てた。
フランベルジュさんはすぐに入って来てくれた。
「フランさん、俺もマグパイさんは軍師向いてないって思う」
「やっぱり…ホークスさんもそう思いますか?」
「確かに次の奥義指示は遅い、待機する事はかまわないけど、
それなら待機と次の指示を早めに欲しい」
「ですよね〜」
それだけじゃないだろ、フランベルジュさん。
「何より、マグパイさんは感情にムラがあり過ぎる」




