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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第34話 安田の家族

第34話 安田の家族


安田は未婚だし、会長になってもいまだ部屋住みだ。

家族と同居しているとは聞いたことがない。

だから実家の方へ行くのかと思いきや、車の行き先は違った。

郊外の、神奈川県寄りの住宅地へ入って行き、

高い塀に囲まれた、古い日本家屋の前で停まった。

その表札には「上杉」とあった。


「ここはもともと亡くなった先代の会長の家でね、

今は組の所有になっているんだ…ま、上杉会の会員寮みたいなもんだ」


車を会社へ返した安田はそう言って、玄関の引き戸を開けた。


「さ、上がってくれ。じいさんただいま!」

「お邪魔します」


安田は俺を連れて、開けっ放しの座敷を通り抜け、

茶の間に案内してくれた。

そこは4畳半ほどあり、ちゃぶ台の脇の茶色いビロードの座椅子に、

浴衣姿の老人がしゃんと背筋を伸ばして座っていた。


「お帰り…友達かね、珍しい」

「ホークス、俺の家族その1で、武田さん」


この人が安田の上司にあたる「武田さん」…。

彼の事は何度も聞いている。


「初めまして、赤坂秀忠と申します」

「じいさん、彼は旧姓が『ホークス』だから、『ホークス』」

「うちの安田がいつもお世話になっております。

…嬉しいこと、ようやく『ホークスさん』にお会いできた」


武田のじいさんは、安田から俺の事を何度も聞かされているらしい。

彼は楽しそうに、俺の部屋が乙女とか、銀鷹丸さんの事とかを話していた。


「ふたりとも、夜食の用意してあるよ。

どうせ飲んでばかりでまともに食べていないんだろう」

「わ、嬉しい」

「私も夕飯が早過ぎて、お腹がすいてしまったよ」


昔は土間があったであろう台所で、

武田さんが用意してくれた茶粥を、

作りおきのおかずと一緒に3人ですすっていると、

玄関の引き戸が、重たそうにがらがらと音を立てた。


「お、帰ってきた。ホークス、俺の家族その2だ」


安田はにやにやとした。


「ただいま…」


台所にやって来たのは、まだ二十歳前とおぼしき少女だった。

ストレートの長い黒髪に、白のひらひらしたワンピース…。

あざとさを通り越して、えぐいくらいの清楚さだ。

ラノベの美少女かよ。

ところが。


「むっ、貴様ら何旨そうなもんば食うちょっ…! 

おいも食うど、早よくれんね」


美少女の小さな口から出てきたのは、

やけに男らしい口調の、きつい訛りだった。

しかもすごい酒とたばこの匂いだ。


「ん?」


この声は…。


「もしかして、れいなんこさん…?」

「お、その声は…ホークスけ?」


まさかあのれいなんこさんが、安田の家族とは…!


「あにょからホークスはハーフち聞いちょったけんど、ごつかねえ。

で、あいから『アンブレラアカデミー』はどげんした?」

「ああ、マグパイさんが仕切ってるよ」

「そんマグパイさんはなして、『アンブレラアカデミー』ごた、

下位に降りて来たよった?」

「わからん、求人見てフレと3人で応募して来ただけだし、

うちも参戦率は満たせてるからいっかなと…」

「ふうん?」


それからゲームの話題は出て来ず、

あとは4人で貰い物の果物でもつまみながら、

とりとめのない雑談に耽っていた。


武田のじいさんとれいなんこさん、

安田はふたりの事を「家族」と俺に紹介したけれど、

彼らは一切の血のつながりはなかった。

それでも彼らのおしゃべりは楽しくなごやかだ。

会話の中でも、安田とれいなんこさんは、武田のじいさんを気遣い、

武田のじいさんは若いふたりを気にかけている。

血のつながりだけの半端な家族よりも、

彼ら3人はずっと「家族」だった…。


帰りには安田がまた送ってくれた。


「しかし驚いた、まさかれいなんこさんがお前の家族とはな。

…でもどういう関係? 夫婦でもなさそうだし。

それに『彼』って…」


俺もれいなんこさんの事を指す時は「彼」だ。

それはもともと、安田や和田さんがそう言っていたからだった。


「俺は…お前と銀鷹丸さんの事情もわからなくないんだよ。

あいつは中屋敷レイ、男でもありながら女でもある」

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