第33話 マグパイ
第33話 マグパイ
マグパイさんは、俺の師匠にあたるハリスさんの紹介で来た人だった。
俺がハリスさんと「上都キサナドゥ」にいた頃、
マグパイさんがいた連合「スケアクロウ」と、
いつかの「天下統一フェス」決勝で当たった事がある。
「スケアクロウ」の解散後、マグパイさんは「MA☆ロマンスシミック」に移り、
そこでも前衛筆頭である、「無双」として活躍した人だった。
戦力も俺よりずっと上だ。
“ホークスさんもすごいですよ”
ある22時の合戦終わり、連合員の激闇さんが言ったのを、
外部チャットのログで見た。
彼女は「アンブレラアカデミー」もともとの「無双」だった。
俺は仕事の時間で、その会話にはいなかった。
その発言に対して、マグパイさんはこう返信していた。
“ああ…一瞬だけ『ケミカルテイルズ』にいた人?”
そう見えるか。
確かに俺は「ケミカルテイルズ」でも無難な後衛だったよ。
確かに「ケミカルテイルズ」をクビになったよ。
こんな「アンブレラアカデミー」とか、下位連合にまで落ちて来た男だよ…。
それからもマグパイさんの指示出しは続いた。
回数を重ねるごとに、その内容は細かく厳しくなって行った。
“上位ではもっと常時上げ補助を数積んでいる”
“上位では回復を使う人は、ボイチャで声を出している”
“ダメージを狙っていいのは、上位だと2人までだぞ”
「…お前ら『ケミカルテイルズ』は上位に含まれないらしいよ?」
ある日、「ユニティ」に飲みに行った時、
ちょうど安田が来ていたので、
マグパイさんの話をしてみた。
「よし、今度俺らで『アンブレラアカデミー』に行ってだな、
『ケミカルテイルズ』とか下位連合の戦い方をだな」
「今そんな空き枠ないよ」
「それもそうだな…で、赤坂さんはどうしている?
ここ2〜3日ほどスポット参戦しかしていない、
うちは通常フリーだからいいんだけど…」
「…実は和田さん、こないだ銀鷹丸さんの父親と初めて会った」
俺は銀鷹丸さんの父親の事を和田さんに話した。
和田さんも、銀鷹丸さんが実家と折り合いが悪いことは知っていたが、
その先、縁談の事は初耳だった。
「は? 何それ?」
「そういう事で、こないだまで俺の前には別れさせ屋の工作員が来てた。
美人や可愛い系、そりゃもういろんなタイプが入れ替わり立ち替わり…。
俺にそんな普通の手が通じるかっての」
「確かにな、乙女なホークス相手じゃな。
お前のその趣味、こないだもボイチャで赤坂さんが言ってたよ」
くそ、銀鷹丸さんめ…。
今度連合掲示板で、在りし日のゲーマー部屋の惨状を話してやる。
和田さんは安田を手招きした。
安田は身体ごと、片耳を俺たちの方に傾けた。
「現状、ホークスと赤坂さんは、れっきとした法律上の夫婦だ。
そして、本人同士に離婚の意思はない」
「そうだ」
「しかもふたりの特殊な事情から、別れさせ屋も無効」
安田がにやにやしながら、うなずく俺に言葉を添えた。
「そんなふたりを別れさせるには…安田、お前ならどうする?」
「…殺るしかないよね。ま、これはうちでなんとか阻止しよう」
「相手は上級国民様だぞ?」
「その上級国民様から、ホークスとか小物1匹をわざわざ殺しに来てくださる。
俺らはそれを阻止するだけ、何をしても裏側の事さ」
普段は「星火」だの「猛戦」だの、くそ甘いカクテルをちびちびと舐め、
いまだに部屋住みで、夜も遅くまでゆっくり出来ない安田だが、
一応は暴力団の会長らしい。
「それ、俺もふたりの後見人として、ちょっと参加したいわ」
「和田さんも若いのみんなと来たらいいよ。
せっかくだから、何かイベントみたいにしちゃおうか?」
「いいね、若いやつらもいい勉強になる」
「なら、若いやつらの研修会て事にしてさ、
俺も上の組に何か賞品か賞金を頼んでみるよ」
安田と和田さんまで…俺の命の危険はイベントかよ。
帰りは安田が迎えの車に一緒に乗らないかと言ってくれた。
運転手つきなので、後部座席に並んで座っていると、
安田が不意に言った。
「…まだ時間あるし、うちに寄って行かないか?
まだうちに来た事ないだろ? 俺の家族に会ってほしい」
安田の家族…?




