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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第32話 道具

第32話 道具


玄関先ではさすがにまずいので、俺が銀鷹丸さんを押し切って、

彼女の父を中に通した。


「…はい、お嬢さまとは友人の紹介で知り合って、昨年入籍しました」

「うちの事は聞いているかね?」

「折り合いが良くない、疎遠とだけ聞いております」

「お父さま、秀忠さんは私がお願いして来ていただきましたの。

この結婚も言い出したのは私から」


ソファに座る銀鷹丸さんの父は、顔を思い切りしかめた。

身体も大きいし、和服だからか、すごい威圧感だ。

そんな彼に、ごうはおびえて別の部屋へ逃げて行った。

銀鷹丸さんの父は、猛獣が唸るように言った。


「それは困る」

「何が困りますの、私たちはとっくに成人しています。

誰の許しも必要ありません」

「鷹子、お前は普通の人とは身分が違う。

結婚も家が決める事だ、お前が勝手に決めていいもんじゃない。

今すぐ別れなさい、縁談がある」


銀鷹丸さんはうつむいた。


「…お相手はどういう方ですか」

「お世話になっている先生が、去年奥方を病気で亡くされて、

後添えを探しておられる。

お前には夫人として次の選挙を手伝ってもらう」

「今さらですか…私はもう40も半ばになりますのに。

水商売に手を染めても、何もおっしゃらなかったのに、

今さら縁談ですか…」


そうつぶやくように言う彼女の、藍の小紋の膝先に、

雫が降って来ては染みを作って重ねた。


「赤坂さん、俺はそちらの事情などほとんど知らずに、

気持ちだけでお嬢さまと結婚しました」

「慰謝料は払う」


金か、こういう相手には愛だの恋だの感情では通じない。


「そうですね…慰謝料はお嬢さまの身柄でいただきたく思います。

ご自分の娘が取引の道具ならば、正式に取引するまで」

「何…!」

「違いますか?」


俺は立って、玄関のドアを開けた。


「お見送りします」



だが、これで銀鷹丸さんの父が諦めるとは思えない。

40も半ばになるまで、彼女が水商売に手を染めても、

俺みたいな、どこの馬の骨ともわからぬ男と結婚しようと、

ずっと放置してきたのを、今さら親しい政治家と結婚しろと言う。

彼にとって娘はただの道具、子供ですらないのだ。


銀鷹丸さんの父は別れさせ屋を雇ったらしい。

俺の目の前にいろんな女がいろんなパターンで現れては、

その全員が運命と言った。

でも彼女たちは知らない、銀鷹丸さんしか知らない。

俺が生粋の男じゃないって。


「こうして偶然が重なるのって、私は運命だって思うの」


また新しい女が目の前に現れて、運命と言った。

出勤途中の駅でだった。


「運命ね…そうだな、あんたが任務に失敗する運命だな」

「えっ…!」

「伝えといてくれ、俺にそんな安い運命など通じないって」


女を置き去りにして、「銀鷹」の事務所で書類仕事をしていると、

もう19時、合戦の時間だった。

客はまだ少ない、30分フル参戦できそうだ。

俺は持参奥義名を添えて、連合掲示板にインを宣言した。


すると、こないだ新しく入った3人組のひとり、

「マグパイ」さんが発言した。


“ホークスさんは開幕、HP上げスキルを撃ち切ったら、

防御上げスキルを2〜3発撃って”


…まあ意味はわからなくはない。

開幕で防御を上げると、その後のマウントが取りやすくなる。

でもなぜ「マグパイ」さんがそれを言う?


“フランさんは欠席ですか?”

“はい! います!”


軍師のフランベルジュさんはいるのか…。

だが結局、19時の合戦はそのまま「マグパイ」さんの指示出しで終わった。

格上に大差をつけての大勝利だった。


その合戦以降、指示出しだけでなく、

作戦の立案までマグパイさんがやるようになってしまった。


奥義と奥義の間は、前衛でマウントを維持する。

そのために消費の軽い、退却発動無効スキルをみんなで積む。

後衛は上げ下げ同時スキルを使って、ステータスを維持する。

わかる、確かにそれは間違っていない。

「ケミカルテイルズ」でもそうだった。

でも、それは何か違う…。


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