第31話 エージェント
第31話 エージェント
俺が「アンブレラアカデミー」の新しい盟主に…?
“ゴールデンルーラーさん、なぜ俺?”
“ホークスさんなら、リアでホークスさんの端末を通して、
銀さんが直接連合の様子を見られると思うんだよ”
“ああ…確かに、そういう事なら引き受けよう”
“ホークスさん頼んだよ、銀さんもきっと連合の事は気にしてる”
その後、通勤前にもう一度ゲームを開くと、
俺に盟主の役職がついていた。
俺は挨拶を書き込み、事情を説明した。
それから据え置きのゲーム機をつないだモニタに、
びったりと貼り付いている銀鷹丸さんに言った。
「銀鷹丸さん、俺が『アンブレラアカデミー』の盟主を引き受けた。
必要なら、いつでも俺のスマホを使ってほしい」
「本当?」
銀鷹丸さんは古いシューティングゲームを中断し、
とんとんと軽い足取りで、嬉しそうに近づいて来た。
せっかく仕事を辞めたって言うのに、家でも和服かよ。
せいぜい白っぽい訪問着から、濃い色の小紋に変わったぐらいだ。
「では、ホークスさん、お昼は寝ていることですし、
12時の合戦の時は私とスマホを交換しませんこと?」
「…いいね、懐かしい。
俺が『銀鷹丸』で、銀鷹丸さんが『ホークス』だな」
俺は笑って、自分のスマホを差し出した。
それからの12時、俺が「銀鷹丸」として、
「ケミカルテイルズ」の合戦に出ることになった。
久しぶりに出てみて、俺は驚いた。
どういうことか、合戦がつまらないのだ。
「ケミカルテイルズ」は最高の連合のはずだ。
和田さんや安田、れいなんこさんはじめ、強い人が揃っている、
連合にないスキルも、奥義もない、
何も不足はないはずだ。
それなのにつまらないのだ。
盆休みに銀鷹丸さんと田舎へ行き、姉も加えて移住の準備をした。
海っぺりの実家は、姉が時々掃除してくれてはいたが、
それでも砂は入り込み、畳や床をざらざらとさせ、
塩は浸食して、ガレージに放置してあった、
何かの部品や、古い鉄板をぼろぼろにした。
よしのりの一家が余った魚で食事会をしてくれ、
近所の人らも集まった。
俺は銀鷹丸さんを無理矢理座らせ、女の人たちに混じって立ち働いた。
そうしていたら、やはりおっさんらに言われてしまった。
「秀忠、なんで嫁にやらせへんのん?」
「彼女は嫁じゃない、赤坂家の…俺の主人だ。
嫁はこの俺、間違えるなよ」
俺はめいっぱい怖い顔を作って、彼らを睨みつけた。
よしのりのおっちゃんが、それを見て笑い出した。
「そうそう、秀忠が赤坂家の嫁やねん」
「えらいごつい嫁やけどな」
よしのりも吹き出しながら言った。
姉もにやにやしながら話に加わった。
「うちがそれ勧めてん、こんな田舎ならホークスとか苗字より、
赤坂のが絶対ええてな」
「いやあ、うちも最初はえーって思うてたけど、
こうして見てたら、それでええんやないかって思うわ」
台所からビールを運んで来た、
よしのりのおばちゃんもそう言って、金歯を覗かせた。
銀鷹丸さんもしゃんと正座して、なかなかの主人ぶりだ。
帰省がこんなに楽しいのは初めてだった。
眠る銀鷹丸さんとごうを後ろに乗せて、帰りの車を運転しながら、
俺は彼女たちが田舎で暮らすのも、
俺がそこへ行き来するのも悪くないなと思った。
東京に帰って来ると、ちょうど次の合戦イベントが近く、
不足の人数を埋めるべく、勧誘をかける必要があった。
前に和田さんが探してくれた人たちは短期で、
その後も短期の人でやりくりしていた。
不足は3名、これはすぐに埋まった。
勧誘を見て、外出するフレンドを3名紹介したいという申し出があった。
紹介者は俺が「ケミカルテイルズ」の前にいた連合、
「上都キサナドゥ」の盟主をしていた、「ハリス」さんという人だ。
ハリスさんは俺の師匠にあたる人だった。
ハリスさんからの紹介なら大丈夫だろうと、
俺はゴールデンルーラーさんとフランベルジュさんに、
この事を連絡し、3名に連合への招待を送った。
その翌日の午後、出勤のために食事をしていると、
玄関のチャイムが鳴ったので、銀鷹丸さんが出た。
「鷹子、これはどういう事だ!」
「帰ってください、今さら話すことなどありません!」
銀鷹丸さんが客と揉めている、俺も出ることにした。
客は茶の濃淡でまとめた和服を着込んだ、熟年の大柄な男だった。
「あのう…?」
「君が秀忠くんか、赤坂鷹司…鷹子の父です」
銀鷹丸さんの父…!




