第30話 困った事
第30話 困った事
新川さんの発言には和田さんが答えていた。
“ホークス? いや、違うな…あいつは銀鷹丸さんとこクビになってたし”
“ホークスじゃムリだろ、あいつの性格じゃこんなにぶっ飛べない”
そのホークスがデッキを見てる。
でもその先は…。
銀鷹丸さんはその後の参戦でも、
あの「ケミカルテイルズ」で活躍し続けた。
デッキの内容も、より戦力と精度があがって来た。
掲示板や外部チャットのログから、誰かに教わった訳ではないようだ。
全ては銀鷹丸さんが自分で考えたことなのだ。
コミュニケーションは彼女の十八番、
連合員たちとも楽しくやるどころか、
誰かの話には耳を傾けながら、話題と愛嬌を絶やさず、
もはや連合の中心になりつつある。
俺は心底驚かされた。
恐ろしいほどの能力だ。
俺や和田さんは少し教えただけ。
その先を開花させ、連合での存在を確立したのは彼女自身。
これが別ゲーの覇者、銀鷹丸さんの正体なのだ。
ただの強者じゃ「ケミカルテイルズ」ではやって行けない。
実際、何人もの強者が連合に来ては、連合に疲れて退いて行った。
でも銀鷹丸さんの馴染みようはどうだ。
その証拠に、れいなんこさんから俺に連絡があった。
“ホークス、銀鷹丸さんば『ケミカルテイルズ』にくれんね、
あげん凄かプレイヤーはおらん”
断る、本当はすぐにでもそう答えたい。
“それは銀鷹丸さん個人が決める事だから…”
そう曖昧にしか返事できなかった。
男としては淋しい、女としては誇らしい。
曖昧な俺は内心も曖昧で、複雑だった。
「アンブレラアカデミー」でも、クエイベ期間最終日が近づくにつれ、
銀鷹丸さんの事が話題に出て、連合員たちの心配の種になっていた。
“銀さん、帰って来ないかもね”
最初にそう言ったのは、軍師のフランベルジュさんだった。
“そりゃ『ケミカルテイルズ』でやる方が、ずっと楽しいに決まってるさ”
“そうだよな…あっちは最高の連合、何もかもが揃っているんだ”
ゴールデンルーラーさん、ツナサシミーさんも同調した。
俺も自分の意見を書き込んだ。
“帰って来ないんじゃなくて、帰りたくても帰れないと俺は思ってる。
『ケミカルテイルズ』が銀鷹丸さんを返してくれない、そう見ている”
“…あの、ホークスさん、それって引き抜きって事?”
前衛のミラージュ城さんも会話に入って来た。
“この連合ではぽんこつ盟主もいいとこだけど、『あの指示』だし。
でも銀鷹丸さんは、別ゲーで覇軍のマスターをやってた人だよ。
もともとの能力が俺らとは全然違う、そこを買われたんじゃない?”
“えっ! 普段は『むきゅ』とか、『コンボ&エコ』なのに…?”
“その証拠が『ケミカルテイルズ』での活躍だよ。
盟主の『レイにゃんこ』さんも、銀鷹丸さんは凄いって言ってる”
俺らのこの会話はすぐに現実となった。
翌日の夜中、仕事から帰って来ると、
銀鷹丸さんがかつて寝床にしていたソファで、
スマホ片手に眉を寄せて、眉間に大きなこぶを作っていた。
「うーん…」
「どうした?」
「あ、お帰りなさい…困った事になりましたの」
銀鷹丸さんは俺にそのスマホを差し出した。
画面を見ると、「ケミカルテイルズ」の連合員一覧が表示されてあった。
でも盟主がれいなんこさんではなくなっていた。
新しい盟主は銀鷹丸さんだった…。
「…盟主!」
「だから困っているのです」
盟主は連合移動が出来ない。
俺はすぐ、れいなんこさんに抗議の連絡を入れた。
普通なら非常識極まりない、こんな真夜中の連絡だが、
彼もまた、俺たちと同じ夜型の人間だ。
こんな真夜中じゃないと彼は捕まらない。
「断っ、あげんわっぜか人材、誰が手放す」
れいなんこさんは、まるで普段の銀鷹丸さんのように、
きっぱりと言い切ると、電話を切った。
そのままなかなか寝付けず、昼過ぎに起きて、
ゲームを立ち上げると、連合でも銀鷹丸さんの話題でもちきりだった。
そこへ、盟主代行のゴールデンルーラーさんから、
外部の個人チャットに連絡が入った。
“銀さんはもう戻って来れない、
俺が代行とは言え、いつまでも盟主を空席には出来ない。
そこでホークスさんに新しい盟主を頼みたい”




