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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第3話 格上戦

第3話 格上戦


和田さんに紹介された銀鷹丸さんは、なんと女の人だった。

名前も捕鯨船が由来だし、ゲーム内でのやりとりから、

てっきりどこか海沿いの田舎町で、漁師でもしてるおっさんかと思っていた。

それがまさか、女の中の女を、そのまま具現化したような人だったとは…。


歳の頃は俺より少し上、和田さんと同じくらいだろうか。

美しい人だ、だかそれ以上に恐ろしく金のかかった女だ。

着ている和服もだが、持ち物も、髪型も、化粧も、

爪の手入れまでまったく隙がない。


「初めまして、俺はホークス秀忠…『ホークス』でわかると思う」

「あ…もしかして」

「その『ホークス』だ、今朝あんたが連合から除名にした。

銀鷹丸さん、どうして突然俺を除名にした?」


和田さんが俺の隣の席を勧めると、

銀鷹丸さんは浅くこしかけて、「迅雷」という軽いカクテルを注文すると、

小さなかばんからシガレットケースを取り出して、たばこに火を点けた。


「…あれね、実は連合の者から私のところに苦情が来たのです。

ホークスさんが女漁りをしているって…」

「俺はオフパコなど目的にしていない。

彼女らとの方が話が合う、ただそれだけだ」

「女の人たちはそれをわかっているし、私もそう思っています。

でもねホークスさん、男の人たちはそう思わないの…それでよろしくて?」


安田はやはりカクテルをちびちびと舐めながら、

俺たちのやりとりを横目で眺めていた。


「良くないね、おかげで今度の合戦イベント、

ホームにも戻れなくて、ぼっち連合から参戦だ。一体どうしてくれる?」

「お詫びはいたします、なんなりとお申し付けくださいまし」


銀鷹丸さんは顔を上げて、きっぱりと言い切った。


「そうだなあ…」


とは言っても、何をさせようかちょっと思いつかない。

銀鷹丸さんはにこりと笑うと、帯の間に手を差し込み、

金の帯地のカード入れを取り出して、名刺を俺の前に差し出した。


「ホークスさん、今すぐでなくても結構です。

私ももうすぐお店に戻らなければなりません。

思いつかれたらこちらに連絡くださいな、直接お店にいらしてもかまいません。

店の者には私から話を通しておきますので」

「いいだろう、あんたにはとびきりの屈辱をもって償ってもらう」

「楽しみにお待ちしております」


彼女は笑みを崩さなかった。

くそ…なんか俺がいいようにあしらわれているみたいで、すげえムカつく。



それから銀鷹丸さんは店に戻る時間だと言うので、

「迅雷」にもほとんど口をつけずに帰って行った。


「ホークス、あれはまずいだろ。

リアルではあっちのがはるかに格上だ、敵いっこない」


安田が渋い顔をした。

それは和田さんも同じだった。


「銀鷹丸さん…赤坂さんは銀座の最高級クラブ『銀鷹』のオーナーママだよ。

こんな『ユニティ』とか、経営も客もヤクザな店なんかとは訳が違う」

「はん、そんなの関係ないね。

あの女には絶対最高の屈辱を味わわせてやる」


俺はつーんと口を尖らせた。


「で、銀鷹丸さんに何させるつもりなんだ? 

せっかくだからやらせてもらえよ、何でもするって言ってんだからさ」


安田はにやにやしながら俺の脇腹をつついた。

和田さんはそれにぷっと吹き出した。


「やるどころかホークス、お前が社会的に潰されるよ。

あの人のそうそうたるお客さま方が黙っちゃいない」

「俺もやるとか考えていない、そんなのあの女にはちっとも効かなさそうだ。

何かもっとこう、いい方法はないかな…」



この出来事を会社で加藤にも話して聞かせてみた。

すると、加藤はフライドポテトを喉に詰まらせ、

たっぷり30分はむせてから、こう言った。


「そりゃホークスお前、結婚しかないだろ」

「やめろ、俺の人生に結婚とか汚点など不要だ」


加藤は特大のコーラの容器をわしづかみにした。


「結婚…最高じゃね? あ、いや、この場合なら最悪か?

敵がぜいたくに慣れ切った、銀座の最高級クラブのママなら、

年下のくせに、もう介護の必要な母親付きで、

給料の半分近くを、安田のソシャゲに廃課金してるような貧乏で、

しかも乙女趣味全開なお前との結婚なんか、屈辱でしかない」

「ぐっ…」


嫌な事ばかり言うが、実に的確だ。

返す言葉が見つからない。

その翌日、俺は渡された名刺の電話番号に連絡して、

銀鷹丸さんに結婚を言ってみた。


「あのさ銀鷹丸さん、こないだの話だけど…俺と結婚でどう?」


さすがにこれは断るだろう。

俺もネタのつもりで軽く言った。

ところが。


「いいですよ」


彼女はあっさりそう答えた。

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