第29話 後見人
第29話 後見人
週が明けて月曜日の夜、和田さんからの招待を受けて、
銀鷹丸さんは「ケミカルテイルズ」へ連合移動した。
そして翌朝、姉が東京へやって来た。
「赤さんから電話では聞いとったけど、ほんまにふたり結婚したんやね。
いやあ『赤坂秀忠』…ホークスとかよりずうっとええ名前やわあ」
姉はテーブルの上のダイレクトメールの宛名を見て、
にやにやした視線を俺に投げかけた。
「で、何しに来たん?」
「だんなの兄さんの嫁さんの加代子さん、あの人の父親が亡くなってん。
ほら、加代子さんて鎌倉の人やん?」
「ああ、あの膝抱えてしゃがみ込むおっちゃん。
うちのおとんの通夜と葬式間違えて来た…」
「そうそう、増田のおっちゃん。
しょっちゅうしゃがみ込んだはったのは、心臓悪かったかららしい。
ほんでその葬式終わって、帰るついでやねん」
そこへ、銀鷹丸さんがでかい買い物袋をいくつも提げて帰って来た。
「わ、お姉さん! わざわざ来てくれたのですね、嬉しい!」
銀鷹丸さんは買い物袋を置くと、
満面の笑みで、俺と姉のいるリビングに駆け込んで来た。
「珍しい人やね、小姑が来てこんな嬉しがる人はおらんで?」
「だって本当に嬉しいのですもの。
ね、お姉さん、もちろんうちでお昼食べてくださるわね?
ちょうどいろいろと買い込んで来たところですの」
お昼は都会の料理が珍しいだろうと、
銀鷹丸さんがイタリアンの献立を用意した。
くそ、和食だけじゃないのか…。
「で、赤さんはいつこっちに来るん?」
「今年の秋にはと考えております」
「こっちはいつでも来てええで〜?
よしのりとおっちゃんも冬には山行くって、めっちゃ楽しみにしとるで」
「大丈夫です、私も猟銃の免許更新しておきますし」
「山なら秋はきのこやら何やらで宝の山やで、ど? 一緒に行かん?」
「わ、きのこ! ぜひ!」
姉と銀鷹丸さんは食後もずっと、田舎の話で盛り上がっていた。
俺にはあの田舎のどこがそんなに魅力的なのか、さっぱりわからない。
俺は寝室に下がって、出勤まで少し寝ることにした。
身なりを整えて、美容院に寄ってから、
「銀鷹」に出勤すると、すごくほっとする。
洗練された内装に、こだわりのインテリアが華やかで、
ゆったりとくつろぐお客さんたちがいて、きれいに着飾った女の子たちがいて、
それを支える加藤夫妻をはじめ従業員たちがいる。
19時、お客さんもまだ少ないので参戦する。
銀鷹丸さんはあの「ケミカルテイルズ」でどうしているだろうか。
デッキは俺がいじったが、まだ戦力もスキルも足りない。
きっと苦労しているだろうな…。
夜中に帰宅すると、テーブルの上でコードにつながれているスマホを手にした。
銀鷹丸さんは寝ている。
「ケミカルテイルズ」の連合掲示板、そして外部チャットを見る。
“今日からお世話になります銀鷹丸です、よろしくお願いします”
“俺が育てた人だ、皆さまどうかよろしくお願いします”
和田さんめ、すっかり後見人気取りかよ。
とりあえずその和田さんの後押しで、銀鷹丸さんは受け入れられたようだ。
俺は画面をスクロールし、合戦終わりの書き込みを見た。
“和田さん、銀さんすごいっすね!”
“何あの回復連打! 山場ギラギラ立ちっぱ!”
…苦労どころか賞賛されまくりじゃないか。
そんな中、後衛筆頭の新川さんの発言に目がとまった。
“てか、通常の応援効果も結構高くね?”
“えっ、おかしいな? 俺はただ回復にだけ特化させたつもりだけど?”
和田さんは前衛特化、参戦の都合で時々は後衛に入るが、
本職の後衛ならではの細かいところまではわからない。
また少し画面をスクロールすると、
銀鷹丸さんのデッキを見た感想が、
新川さんと盟主のれいなんこさんによって書かれてあった。
“戦力こそ低かけんど、まこち良かデッキじゃっど”
“秘技とか極意とか、レアなスキルは少ないけれど、
必要なスキルはきちんと積んである。
これは先が楽しみなデッキだね”
でも新川さんは本職の、それも最高の後衛だった。
“和田さんが直々に育てただけあって、
銀さんは戦い方もよく訓練されてあるけど、
それだけじゃこんなデッキは組めないよね、上位のデッキを熟知している。
例えばこの『ケミ弓』、弓スキルだから普通の後衛は積まないけど、
後衛からも敵を潰すためにちゃんと積んで、それに関連した補助も積んでる。
…誰か、強い後衛が銀さんの後ろについている?”




