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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第28話 代替わり

第28話 代替わり


「秀忠くんはほっとするね。

同じ男だから気持ちも共有しやすいだけじゃなくて、

女の人のような癒しや安らぎもある。

だから、つい何でも話したくなってしまう。

…『銀鷹』はすごい人を手に入れたって、みんな言ってるよ」


俺たち従業員は揃って、一色さんに頭を下げて、

「ありがとうございます」と言った。

それから、一色さんはまだお客が少ないから、

ぱっとシャンパンでも開けて、みんなで飲もうと言ってくれた。



「天職ですね、ホークスさん」


帰りの車の中で、銀鷹丸さんはぽつりと言った。


「正直、あの手の店のママが男の人って、

どうなのって思いましたけど、任せてみて正解でしたわ」

「…それは『銀鷹』が『銀座の高級クラブ』だったからだよ。

安い店じゃ、一色さんや三浦さんのような良いお客には恵まれない、

男のママなんか受け入れられないさ」


銀鷹丸さんは、暗がりの中そっと俺の腕をたぐり寄せた。


「ホークスさん、加藤さん、倫子さん…素敵な3人にお店を譲れるって素敵ね。

私、『銀鷹』を開いて本当によかった…!」


よく見えないけれど、きっと銀鷹丸さんは笑顔だ。

だって声がこんなにも弾んでいる。


それから3月に銀鷹丸さんは皆に見送られて引退し、

「銀鷹」は俺たち3人の代になった。

仕事にも慣れるにつれ、毎夕出勤するのが楽しくなっていった。

銀鷹丸さんは家で移住の準備を始めた。


「えっ、ごうを連れて行く?」

「田舎でごうも一緒に健康ですよ」


銀鷹丸さんはいつものように、高らかに宣言した。

そんな当のごうは、ソファの背もたれの上から、

タオルのように、顔と前足をだらりと垂らして寝ていた。

田舎で少し大きくなったが、また都会の暮らしに戻ってしまい、

それ以上大きくなる事はなかった。


「しょうがないな…まあ、俺も休みには行くからいいだろう」

「ごう、田舎でも私と一緒に暮らしましょうね」


銀鷹丸さんは目を細めてごうのお腹を撫でた。

ごうはぐうと安らかないびきで返事した。

今じゃ、もともとの飼い主の俺より、銀鷹丸さんに懐いている。

その時、テーブルの上で銀鷹丸さんのスマホがテロリンと鳴った。


「あら、和田さんからですわ」

「何て言って来た?」

「今度いちど『ケミカルテイルズ』に来てみないか、ですって」


そう言えば言っていたな…。

和田さんは銀鷹丸さんを引き抜くって。


「銀鷹丸さん、それは引き抜きだよ」

「それは困るわ、私には『アンブレラアカデミー』がありますもの。

けれど和田さんには連合全体でお世話になっている、

断るにも受けるにも難しいですね…」


銀鷹丸さんはそう言うと、連合の外部チャットグループに、

和田さんからの話を書き込んだ。

返信はすぐに来た。


“銀さん、すごいじゃん!”


ツナサシミーさんだった。

俺も連合員として自分の意見を投稿した。


“すごいとは思うけど、これは断った方がいいと思う。

銀鷹丸さんは盟主だし、ゲーム内でも稀少な回復特化。

銀鷹丸さんがいない間、連合は攻撃の要を失うことになる”

“今回はクエイベ期間のみだけだよ”


和田さんからも返信が来た。

うまい事を言ってるけど、俺は知っている。

「ケミカルテイルズ」は、そのクエイベ期間中に使えるか見るって。

でも銀鷹丸さんは一般の応募者とは違う。

最初から引き抜くために、和田さんが自分で育てた人材だ。

テストする必要なんてない。

和田さんは畳み掛けるように続けた。


“『ケミカルテイルズ』はきっと、銀鷹丸さんを強くする。

同時に『ケミカルテイルズ』の戦い方を覚えてもらう。

それは『アンブレラアカデミー』の大きな力になる。

だから今度のクエイベ期間だけ、銀鷹丸さんを貸してもらえないか?”

“なるほど、連合の代表として短期留学て訳ね。

なら、俺が盟主を代行しよう”


補佐のゴールデンルーラーさんが賛成を出した。

すると、他の連合員たちもそれに続いた。


“銀さん、俺らのために頼む”

“ついでに人脈作りもよろしくお願いします”

“『ケミカルテイルズ』からもう1〜2人勧誘もお願いします”


さすがにこれは止められない。

銀鷹丸さんは返信した。


“わかりました、次のクエイベ期間よろしくお願いします”


銀鷹丸さんが「ケミカルテイルズ」へ…!


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