第27話 無難の人
第27話 無難の人
家族、銀鷹丸さんのこの発言には、ゴールデンルーラーさんがすぐに反応した。
“銀さんの家族もこのゲームやってるんだ?”
“私より日数長いです”
“前衛? 後衛?”
フランベルジュさんも軍師らしい質問で、会話に入って来た。
“後衛だな。まあ、弱くはないけど、これって売りのない無難なプレイヤーだよ”
銀鷹丸さんの代わりに和田さんが答えた。
無難…悔しいが当たってる。
和田さんは続けた。
“ぱっとはしないけど、俺と同じくらい作戦や戦い方には詳しいし、
俺も知ってる人だから、よく頼んでおくよ”
“えっ…和田さんと同じくらいって、フェスのトナメ決勝レベルでは?”
優勝だって何度も経験したぞ。
連合への招待はもうもらってある。
俺は「銀鷹」として、最初で最後の挨拶を書き込むと、
「アンブレラアカデミー」から独立させ、
「ホークス」側で招待に乗った。
そしてまた掲示板に書き込んだ。
“無難なホークスです、またよろしくお願いします。
皆さまにはいつも主人の銀鷹丸がお世話になっております”
“ぶっ、ホークスさん!”
フランベルジュさんが驚きの顔文字と共に反応した。
いつもは寝落ちしているはずのツナサシミーさんも書き込んだ。
“えっ、家族って夫婦?”
“はい、銀鷹丸が主人で、ホークスがその妻です”
“えっ、でもホークスさん、ボイチャでは『俺』って言ってましたよね…?”
俺は笑顔の顔文字だけ返してごまかした。
戸惑え、戸惑え。
“ホークス、俺はもう移動するけど、俺の代わりに連合を頼むよ”
和田さんが移動の挨拶のあと、そう書き込んだ。
“了解、そのうちお前らぶっ潰すのでよろしく”
“楽しみにしてる、俺もまた時々顔を出すよ”
和田さんが「ケミカルテイルズ」へ戻り、
翌日から俺が連合員たちへの指導をする事になった。
まずは連合からの連絡には必ず返信すること、
軍師の指示は必ず見ること、そこからだった。
「もし人数足りないなら、俺が探しておこう」
和田さんには、「ユニティ」に行った際、
連合のその後の様子を報告するようになった。
「感謝する」
「で、『銀鷹』の方はどうなった?」
俺は和田さんにその後の「銀鷹」について話した。
あれから、「銀鷹」での研修も進み、
次からは営業時間に出て、実際に客を相手にする事となった。
加藤の奥さんの倫子さんは経験者だから、先に入社して事務所で働いている。
「銀鷹」はすでに法人化されていたので、
俺と加藤は今の会社をたたんで、そちらに入社する事に決めた。
銀鷹丸さんも引退の日取りを決めた。
俺たちの定着を見届けて、翌年の3月16日とした。
俺と加藤の入社は正月明けだった。
銀鷹丸さんの厳しい研修のおかげで、仕事はスムーズに始まった。
そんなある日の開店早々、一色さんという病院をやっているお客さんが、
出張のお土産を持って、事務所にまで顔を出してくれた。
お土産は倫子さんが受け取った。
すると、一色さんは彼女に聞いた。
「倫子さんはお店には出ないのですか?」
その時、ちょうど俺と加藤も事務所にいた。
倫子さんはうふふと笑って否定した。
「私は経理担当の事務員なんですの」
「もったいないなあ…こんなにきれいだし、明るくて愛嬌もあるのに」
「加藤が許しませんわよ」
銀鷹丸さんもやって来て、笑い声を添えた。
「一色さま、倫子さんは影のママですのよ。
女の子たちも私も、倫子さんを頼りにしている。
うちの家内も加藤も頭が上がりませんの」
「三人が入って、『銀鷹』はより楽しくなったね。
中でも新しくマスターになられた秀忠くんは…」
一色さんはあの三浦さん同様、開店当初からの古いお客さんだ。
その彼に俺が評価される…!
俺はどきんとした。




