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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第25話 招集

第25話 招集


「俺は出来ればあいつを『銀鷹』に連れて行きたい。

あいつの人をたらし込む能力は『銀鷹』でも必要だ。

そして加藤本人もそれを望んでいる」

「なら、話は簡単じゃないか」


和田さんはわかっていない。

彼はずっと夜の、しかも社会の裏側で生きて来た人間だ。


「ところが簡単なようで簡単じゃない。

夜の、しかも女の子を置いている店での仕事だ。

あいつの奥さんが賛成すると思う?

何年かして、成長した子供が父親の仕事をどう思う?」

「それもそうだな…しかし閉店は惜しい。

お前が加藤に今の会社を譲るのはどうだろう?」


加藤に会社を譲る…いいかも。


「俺がこの会社を?」

「今はそんなに儲かっている訳でもないし、

新しく人を雇う必要はあるけど、大きくしていく事も不可能じゃない」


翌朝、ハンバーガー屋のでかい袋を両手に、

出社してきた加藤にさっそくこの話をもちかけてみた。


「ぐぎぎ…俺は『銀鷹』のがいい」


加藤は歯をむいて、紙袋をぐしゃりと握りしめた。


「お前の奥さん説得出来ると思う?」

「してやる! 絶対してみせる!」

「さあ、それはどうかな」



加藤が奥さんを説得出来るはずはない、そうたかをくくっていた。

ところが、俺たちは昼間の「銀鷹」で、

オーナーの銀鷹丸さん、それから出資者の三浦さんと、

店の譲渡についての話し合いの席についていた。


「…で、加藤。なんでお前の奥さんまで一緒なんだ?」


なんと、加藤は奥さんと一緒にこの話し合いに来ていた。

加藤はげっそりとやせ細っているくせに、

その奥さんの倫子さんはふっくらとしている。

どこか陰のある銀鷹丸さんとは違うが、こちらもまた美人だ。


「一緒に来たいってのが説得の条件だったから…」

「それは私も一緒に働きたいからです」

「え…倫子さんも?」


俺は隣に座る銀鷹丸さんに視線を投げかけた。

加藤の奥さんは銀鷹丸さんに言った。


「私はキャストには向きませんが、独身時代は会計事務所で働いていました。

裏方で必ずお役に立てると思います」

「それは嬉しいですが、倫子さんにはお子さまがいらっしゃいます」

「その子供にこれからお金が要りますし、主人と一緒なら私も安心して働けます。

勤務中は近くの両親が見てくれます、どうかお願いします」


銀鷹丸さんは倫子さんの方を向いて、頭を下げた。


「そんな、倫子さん…こちらこそ『銀鷹』をよろしくお願いします」

「新しく入られる方も決まった、これからの事を話しましょうか。

私も出資者としてぜひ、みなさんの力になりたい」


三浦さんが目をきらきらとさせて言った。

それから話し合いの内容は具体的なものになり、

それ以来、俺と加藤夫妻の3人は夕方、

開店準備中の「銀鷹」へ新人研修に通うことになった。


「ホークスさん、それはお客さまに失礼です」


銀鷹丸さんの指導は厳しいが、フロアに出る俺には特に厳しかった。

歩き方、座り方、グラスの持ち方…。

どんな細かいミスも決して見逃しはしない。



あれから引っ越しは、週末の昼間に、

最後の大きな荷物を業者に頼んで運び込み、

俺が住んでいたマンションを引き払って、無事完了した。

あの散らかったゲーマー部屋は、一部屋を片付けて夫婦の寝室となった。


朝、目が覚めると隣に銀鷹丸さんが寝ている。

もうすぐ田舎へ移住してしまうのはわかっていても、

彼女の寝顔を見られるのは、その体温を隣に感じられるのは、

とても幸せなことだった。

店では厳しい銀鷹丸さんも、家では可愛らしい主人だった。


可愛らしいのは結構だが、安田のソシャゲでは相変わらずの低戦力で、

合戦終わりの連合内ランキングでも、

トップになる事がないのはいただけない。

主人としても、上司としても、盟主としても頼りなさ過ぎる。


そんな合戦イベントが近づいたある日。

12時の合戦終わり、連合掲示板に和田さんから書き込みがあった。


“合戦イベント前日、ホーム連合から招集かかったので戻ります”


和田さんのホームも当然、俺と同じ「ケミカルテイルズ」だ。

なのになぜ俺には招集の連絡が来ない?

俺は盟主の「レイにゃんこ」さんに連絡をとった。

すると、彼から電話がかかって来た。


「ホークス、貴様はクビじゃっど」

「はあ!?」

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