第24話 存亡の危機
第24話 存亡の危機
「えっ…」
応接室の革張りの大きなソファに埋もれた、
三浦さんは言葉を詰まらせた。
「主人はかねてより体調がすぐれず、療養に専念したい意思が固いです。
…ですが、先日お店を訪ねてみて、それはもったいなく思いました。
『銀鷹』は三浦さんをはじめ、お客さまも従業員も人に恵まれています。
そういう方たちが集まれる場所がなくなるのは惜しい、
けれど彼女にもここはきちんと休ませてやりたい、どうしたらいいか…」
「…そうだったのですか、話してくれてありがとう」
三浦さんはふうと大きく息をついて、それからにっこりと微笑んだ。
「では赤坂さん、こういうのはどうでしょうか?」
「はい?」
「銀座のああいう店にママはほぼいるけれど、必ずしも必須ではない。
あなたがマスターとして、『銀鷹』を引き継いでみては?
赤坂さん、あなたはママ…オーナーのご家族になられた。
家族がその跡を継ぐなら、誰からも文句は出ないと思います」
「俺が…?」
驚きに目を丸くしている俺に、三浦さんはもう一度微笑んで手を差し出した。
「もちろん、その時は私も協力は惜しみません」
その日の晩、泊まるつもりでゲーマー部屋に寄った。
引っ越しも小さい物は少しずつ運び入れており、泊まる分には困らなかった。
ごうも最近は両方の部屋を行き来しており、
昨日からゲーマー部屋にいる。
三浦さんから持ち帰った話を、帰って来た銀鷹丸さんにしてみた。
銀鷹丸さんはごうを抱き上げて言った。
「そうですね…それは私にとっては願ったり叶ったりの良いお話ですが、
ホークスさんにはご自分の会社がおありのはず。
加藤さんの事を考えると、とても受けられません」
銀鷹丸さんのきっぱりとした物言いは、
こういう時、にべもなくなってしまうのか。
「解雇するにしても、『銀鷹』で雇用するにも、
加藤さんのような善良な、しかも家族持ちの方は難しいです。
『銀鷹』は夜のお店ですから…」
「それもそうだな、あいつの奥さんが気にするかあ…」
翌日、会社でフライドチキンにかぶりつく加藤に、この事を相談してみた。
会社なのに、しかも一人前なのに、バーレルかよ。
「いいなあ、出来るなら俺も『銀鷹』で働きたいよ」
「そうだろうな、無理だろうな、お前の奥さんが夜の仕事なんか許さないさ」
「俺自身は今すぐにでも『銀鷹』に転職したいね。
何しろ子供生まれたから、これからうんと金が要るんだ」
俺も加藤が一緒に来てくれたらなと思う。
ふたりだけの会社だから、加藤も当然経営に参加している。
俺なんかよりずっと人当たりも良い。
加藤が「銀鷹」の裏側に入ってくれたら、これほど心強いことはない。
だがその奥さんを説得するのは難しそうだ。
やはり「銀鷹」は閉店になるのか…。
「で、加藤はまた赤ちゃんマンタイムか?」
和田さんが事務所から出てきて、渋い顔をした。
その週末、久しぶりに「ユニティ」へ行った。
「らしいな」
「今日こそあいつを太らせようと、特大のピザを用意してたのに」
「残念だったな」
「ホークスお前も合戦には出てるようだけど、最近ちっともここに来ないようだが?」
「俺は引っ越しを控えてるんだ、
銀鷹丸さんのゲーマー部屋が凄過ぎて、片付けが大変なんだよ」
俺は和田さんに、銀鷹丸さんのゲーマー部屋の様子を話して聞かせた。
和田さんは腹を抱えて大笑いした。
「あの人らしい」
「その銀鷹丸さんが店を閉めたがっている事は、
前にもちらりと話したと思う」
「うん、聞いた」
「でもあれほどの店を閉めるのはもったいない。
こないだ銀鷹丸さんに連れられて、『銀鷹』のパーティに出て思った。
あの店は従業員も客も、人間に恵まれている。
俺らで言う『ケミカルテイルズ』みたいなもんだ」
「ケミカルテイルズ」は最高の連合だ。
連合員の全員が全員、最高の前衛と最高の後衛で、
揃わないスキルなどひとつもない。
勝てない合戦などない。
「それが『銀鷹』って店だよ…俺も前に言ったはずだ。
『ユニティ』とか、こんな経営も客もヤクザな店とは訳が違うと。
俺みたいなヤクザが関わっていい店ではない。
…でも閉店は惜しいってのは俺も同じ」
「俺が継いだらって話もある」
「それがまっとうで自然だね」
和田さんは新しいショートカクテルを出してきた。
濃い紫の液体に、飾りにバニラと薄黄色の花びらが沈められてある。
味も香りもあの「猛戦」よりずっと甘い、まるで花の髄のようだ。
それでいて後味は非常にさっぱりとしている。
嘘みたいだ、こういうの嫌いじゃない。
「『神懸り』、お前こういうの好きだろ?」
「まあ好きだね…あのさ、和田さん。
俺、『銀鷹』をやってみたい…そのために、俺は加藤をどうしたらいい?」




