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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第21話 関係が終わるとき

第21話 関係が終わるとき


まずは加藤。

加藤には行きのサービスエリアから、忌引きの連絡を入れてあるが、

仕事の連絡だったらしい。


それから安田。

彼には母のことを言っていないので、心配しての連絡だろう。


そして和田さん。

どうせ銀鷹丸さんの居場所と、あれこれ想像して嫉妬の連絡に違いない。


「これは…もう正直に話した方がよろしいのでは?」

「…それであいつらに分かってもらえると思う?」

「うーん…」

「俺たちは利害の一致した、名前だけの婚約者、

最後までそう通した方がいいんじゃないかな」

「最後って?」


そういや…終わりなんてないかも。

俺たちは彼女と彼氏になってしまった。

やはり正直に話さねばいけないのだろうか…。

それはいつ? どんなタイミングで?


「あんたがここに越して来たタイミングでどう?」

「それまで秘密に出来ます? 難しくはないかしら」

「それもそうだな、和田さんがもう疑ってる」

「あ、いい考えがあります、帰りに少し付き合ってくださいな」


あの赤い国産車を交代で運転し、途中でサービスエリアの売店を冷やかし、

交代でごうの様子を見て、交代で眠る。

帰りは楽しいドライブデートだった。


最後は車の所有者である、銀鷹丸さんの運転だった。

相変わらず、飛ばすくせに安全運転だった。


「もう東京に入ったが、どこへ付き合えばいい?」

「すぐ近くですよ」


車はコインパーキングで停まり、そこから少し歩いてビルに入った。


「区役所…」

「これです」


銀鷹丸さんは役所の届け用紙の棚から、1枚取って、

鼻息を荒げて、得意げに俺に見せた。


「実際に入籍してしまえば、誰も文句は言えません」

「なるほど、確かにそうだな」


銀鷹丸さんも案外子供っぽい。

いつもの大真面目な和装との差に俺は笑った。


「でもそれじゃ、あの家の売買は成立しなくなるぞ?

そうだな…共有の財産てことでどう?」

「あの家はずっとホークスさんのご実家ですもの、それで行きましょう」


俺たちは記載台に向かって、うんうん唸りながらあれこれ書き込んだ。

必要な書類は揃っている。

身分証明書もある、はんこもある。

銀鷹丸さんは仕事のために一式を持ち歩いているし、

俺も今回は母と家のことで持っていた。


ふたりで用紙を窓口に出し、手続きの様子をどぎまぎしながら見守った。

そんな俺たちをよそに、申請はあっさりと受理された。

彼女と彼氏の関係は、あっという間に終わってしまった。


「意外とあっさりだったな」


コインパーキングへの道を歩きながら、俺は銀鷹丸さんに話しかけた。

銀鷹丸さんもうなずいた。


「…実感が湧きませんね」

「どうやって実感する? 結婚式か何かした方がいい?」

「要りませんよ、そんなの…流れの中のひとつ、それでいいと思います」

「それもそうだな、ずっと続いて行くんだし」


車の中ではごうが、例のセンターパーツみたいな茶色のぶち模様と前足を、

後部座席からだらしなくはみ出させていた。

俺は彼女の腹を揺すって言った。


「ごう、お前に報告したいことがある」

「とても嬉しいことですのよ」


俺たちが夫婦として最初にした事は、ごうという家族への報告だった。



「やっと来たか、ホークス」


和田さんが鬼の形相で俺を迎えた。

その翌日、仕事帰りに加藤を連行して「ユニティ」を訪ねた。

相変わらず流行らない店だが、それでも困らないのは知ってる。

和田さんもまたヤクザで、他にも収入源がある。

銀鷹丸さんも仕事を抜けて先に来ており、

「猛戦」とか、安田と同じ甘いカクテルを舐めていた。


「あ、俺もうホークスじゃない」

「は?」

「ですよねえ、赤坂さん」


銀鷹丸さんもうふふと笑って言った。


「私ね、旧ホークスさんと昨日入籍いたしましたの。

だって面倒くさいのですもの」

「あれはナイスアイデアだったな、俺も正直面倒だったし」


俺たちは普段通り、何も変わらない。


「えっ、マジ! 本当に結婚しちゃったんだ!」

「嘘だろ、『結婚』じゃなくて『結託』の間違いじゃね?」

「赤坂さん、なんでホークスとかと…!」


加藤は食べかけのハンバーガーを落とし、

安田はカクテルのグラスを倒し、

和田さんはくわえていたたばこのフィルタを噛みちぎってしまった。

銀鷹丸さんは3人に向かって、きっぱりと言った。


「私も旧ホークスさんは夫としては今ひとつと思います。

年下だし、稼ぎも良くない、男らしさもない。

けれど、私の妻としては申し分ないと思っています」


結婚なんかより、そっちの方が俺たちにとっては大事な本題だ。


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