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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第16話 海を見るか

第16話 海を見るか


“まあホークスさんは『ケミカルテイルズ』の人だから…別格だよ”


まずはゴールデンルーラーさんが返信した。

これは返信の返信だからわかる。


“は? ホークス? 早くあんなの追い抜いて潰しちゃえよ”


和田さんの発言もわかる。

彼は銀鷹丸さんを思っているらしいから。


“つまり、銀さんがホークスさんを潰して、

代わりにケミテイル後衛に入ると…これはこれは楽しみだね”


ツナサシミーさんもニヤニヤの顔文字付きで発言した。

いいぞ、もっと煽ってやってくれ。

でも反応はそれだけで、手がかりはつかめなかった。

そうこうしているうち、銀鷹丸さんが目を覚ました。


「…私の代わりに参戦してくれたのですね、ありがとうございます」

「勝手にいじってすまなかった」

「いいのですよ…それよりもここは海が近いのですね。

波の音がよく聞こえます、今朝は余裕がなくてちっとも気付かなかった」

「そりゃ、あんた朦朧としてたから…海を見るか?」


俺は銀鷹丸さんを起こして、肩につかまらせて、

自分の部屋へと連れて行き、窓をがらりと開け放った。

風と共に海が部屋に流れ込んで来る。


「ああ…これは凄い…」


銀鷹丸さんは息をのんで、家の前の海にじっと見入った。

よそから来た人にとって、この景色は感動の美しさのはずだ。


「俺はこんな、目の前が海なんか嫌だね」

「どうして? 私はうらやましく思いますけど…」

「実際暮らしていくと大変だよ、塩害とか砂とか。

それにこの田舎の象徴みたいでさ…俺も姉もハーフだから、ここじゃ異質なんだよ。

いくら海でも異質は飲み込めないさ」


俺は姉の部屋に敷いてあるふとんを、自分の部屋へと運び入れた。


「気に入ったらこの部屋で寝たらいい、交代で俺が姉の部屋を使うから」

「ありがとう、でも私帰らないとお店が…」

「ダメだ、ここはちゃんと休まないと。

そんな身体でどうやって東京まで運転するんだ?

そうだな…葬儀終わって俺が帰る日まで、のんびりしてたらいい。

遠慮はするな、この家にはもう俺しかいない…これは彼女命令だ、いいな」

「彼女命令」


銀鷹丸さんはぷはと笑い、指先を揃えて敬礼した。


「は、了解であります、彼女殿」



母が死んだと言うのに、なぜかそんなに悲しくはなかった。

悲しむにはあまりにもいろいろあり過ぎる。

ひとりになってみたら、涙ぐらいは出るかと思って、

夕方、家の前の砂浜に降りて行って、波打ち際を歩いた。

すると、道路を走る白の汚れた軽トラが停まり、その窓から男が顔を出した。


「秀忠くん」

「なんだ、よしのりか」


よしのりは近所の子で、俺より5歳下だ。

年下だから、唯一俺をいじめなかった人物である。

ただ、「よしのり」、「よしのり」としか呼んで来なかったので、

漢字でどう書くのかは未だに知らない。


「秀忠くんのとこ、大変やねえ…俺も手伝いに行くわ」

「ああ、ありがとう」

「ところでさ」


よしのりは軽トラの窓から身を無理矢理乗り出した。

すっかりでかくなった身体とごつい筋肉で、枠が曲がりそうだ。

昔は小柄だった俺よりもさらに小さかったくせに。


「秀忠くん、彼女連れて来てるてほんまなん?」


もう噂が回ってやがる…。

だから嫌なんだよ、田舎は。


「…ああ、姉ちゃんから連絡来たのが夜中だったから、車で送ってくれた。

疲れて熱出して寝込んでる」

「え〜らい美人らしいやん? …てか、思い切り水商売の女やん」

「変な想像するな、友達の同業者だ」


俺は話を打ち切り、また砂を踏んで歩き出した。

ここじゃひとりにもなれない。

俺は家の前まで歩き、道路を渡って散歩をやめた。


家に近づくと、座敷に灯りがついてなんだか騒がしかった。

近所の人たちがもう通夜の準備に来ているのか。

そう思って座敷に行くと、俺は目をむいた。

なんと、近所のおっちゃんらが飲んだくれており、

彼らを銀鷹丸さんがもてなしていた。


「あ、おかえりなさいまし」


姉ちゃんの服を着た銀鷹丸さんは振り返って、笑顔で迎えてくれた。

その手には料理を盛った大皿があった。


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