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砂と塩  作者: ヨシトミ
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第12話 ごはんつぶ

第12話 ごはんつぶ


間もなく、連合員たちからお疲れさまの挨拶が、連合掲示板に書き込まれた。


“銀さん、うっそだろ、何あのすごい指示!”

“『あの指示』が超進化してる!”


俺は顔文字の履歴から、にこにこしているものを選んで返信した。


“驚いた…あの指示出しは、まるで上位連合みたいだったよ。

戦力もぐっと上がっている、どこでそんな魔法を覚えたの?”


さすが和田さん、わかるか。

あれが上位連合のやり方だって。

当たり前だ、中の人がその上位連合の人なのだから。


合戦終了後、5分〜10分ほどで結果が発表される。

この合戦で「銀鷹丸」は応援効果も3位と、今までの10位前後から急上昇した。

でも問題はそこじゃなくて、これからだ。

これから、銀鷹丸さんはさぞ苦労するだろうな…一体どうするのだろうね。



ごうを迎えに行って、あの白い乙女チックな部屋に帰る。

餌の支度と、トイレの砂を新しくして、風呂を使った。

浴室も同じように可愛くまとめてある。

洗面台にはスキンケアの化粧品が並んでいる。

女の部屋と違うのは、そこにひげそりがあるって事。

トイレの便座が上がっているって事。


寝室でベッドに横になっていても、なぜか寝付けない。

理由はわかる、脚の間が熱い。

俺は男の肉体を怨めしく思った。

ひとりでする時、いつも複雑な気持ちになる。

身体の淋しさは解消されても、心までは埋まることがない。


それは女を抱いても同じだ。

じゃあ男に抱いてもらえばいいかって言うと、それは違う。

ストレートとも言い切れず、ゲイでもバイでもない。

昔は女と付き合ったことも何度かあったけれど、やっぱりだめだった。

だからずっと独り、あの人はこんな気持ちもわかるだろうか…?



「…こないだもらった菓子折り、まだ食べ切っていないのだが?」


その週末の昼前、インターフォン越しに「赤坂です〜」というのどやかな声がして、

銀鷹丸さんはまた、風呂敷包みを持ってうちにやって来た。


「お礼なのは同じですが、今日は趣向を変えてみましたの」


風呂敷の中は重箱に入ったお弁当だった。

どこかの料亭に作らせた物らしい。


「ホークスさんと一緒にいただきたいなと思って」

「旨そうだな…俺もあんたに聞いてもらいたい事がある」


俺がお茶を入れて、銀鷹丸さんが机の上を片付けてお弁当を開いた。

お弁当は当然の旨さだった、こんなの俺じゃとても買えない。

食べながら、こないだの夜感じた事をそのまま彼女にぶつけてみた。


「そうですね…私も仕事なら割り切れるのですが、

プライベートでは、やっぱり男の人とのお付き合いに違和感を感じます。

男と女ですから、違わなくはないのですが…」

「でも同性愛者じゃないから、同性と付き合う気にもなれない。

両性愛者でもないから、両方とも付き合えない」

「だからずっと独り、ホークスさんもそうでしょう?」


その時、きれいにマニキュアの塗られた指が、俺の頬に触れた。


「ごはんつぶ」


銀鷹丸さんはくすりと笑った。

そして、白い指は俺の閉じた唇を撫でてから、割って中に滑り込んだ。

指は動く、俺の中の女を犯して動く。

…ずっと誰かにこんな風にして欲しかった、そう気付いた。

俺は自分の舌で、入って来た指を包んだ。


「ホークスさん、私の彼女になってくださらない?」


指を引き抜いて、唐突に銀鷹丸さんは言った。


「彼女…」

「私がホークスさんの彼氏になります」


俺を除名した時と同じように、お詫びを申し出た時のように、

銀鷹丸さんはきっぱりと言い切った。

…変な告白。

女ならそこは頬を染めてもじもじと言うところだろが。

でも実に的確だよ、あんたの告白は…。


俺はぷっと吹き出した。

それからテーブル越しに彼女の肩を抱き寄せると、

キスをひとつ奪って、それを答えにした。



俺に彼氏ができた、でもその彼氏は女。

誰にも言える訳はなかった。

それでも良かった、俺をわかってくれる人がいる。

こんな俺でも愛してくれる人がいる、それだけで十分だった。


でも現実には問題が山積みらしい。

それから数日たったある晩、「ユニティ」で和田さんが言った。


「銀鷹丸さん、こないだからずっと指輪してるけど、

あれ、お前が贈ったの?」

「まさか。あの指輪、こないだ新宿であの人が自分で買ってたよ」

「ホークスには名前借りるって言ってたけど、実際にはどうなんだろう?

赤坂さん、彼氏いるのかな…ホークスお前何か知らない?」

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