第11話 いたずら
第11話 いたずら
病院に戻って、銀鷹丸さんに荷物を渡すと、
近くのコンビニでプリペイドカードを買い込んだ。
金はサブの「銀鷹」用に彼女からもらった。
彼女の金を彼女の本垢に使う分には、問題はないだろう。
そして適当なカフェに入って、預かった「銀鷹丸」のスマホを取り出した。
改めてデッキを観察する。
ここまで回復スキルを数積もうという人は、上位でもなかなかいない。
これも和田さんの差し金か。
回復スキルには能力上昇効果つきの物も存在するが、
これはそこそこレアなので、まだ数は少ない。
でも、回復スキルに能力上昇効果を付与する補助スキルは、
きちんと取得してあり、最大までレベル上げしてある。
あちこちに和田さんの色が、濃く反映されている後衛デッキだ。
でも和田さん、あんた前衛だよな?
本職の後衛の、微妙なところまではわかるまい。
あの人の微妙なところまではわかるまい。
ゆうべ22時終わりの点呼で、確か軍師の「フランベルジュ」さんが、
接待で19時と22時を欠席すると言っていたな。
まだ5時だ、時間はある。
ごうは帰省のためにペットホテルに預けてある。
18時半過ぎに移動したファミレスから、サブの「銀鷹」と共にログインした。
連合掲示板に、持参の奥義名を添えてインのコメントを書き込む。
そして、「銀鷹丸」からもうひとつ書き込みをした。
“フランさんが欠席なので、私が指示出しします”
すると、連合員の「ツナサシミー」さんがすぐに返信した。
連合内では古参で、計略が強い。
攻撃主体ルールの合戦でも、隙あらば計略を連打し、
計略奥義をねじ込みたがるのは困ったもんだ。
“ぶっ、銀さんの『あの指示』?”
「あの指示」がどんな指示かは知らない。
どうせ大した指示じゃないて事だけはわかる。
和田さんもインして来た。
“銀鷹丸さん、そろそろ具体的な奥義名も書こうね”
“どうせ前半15分過ぎまで『コンボ&エコ』じゃね?”
補佐の「ゴールデンルーラー」さんもコメントでいじった。
どうやら銀鷹丸さんはいじられ担当らしい。
このレベルの連合なら、奥義もまともに揃わないだろう。
具体的な奥義名ではなく、15分過ぎまでコンボ&エコ、
動きで指示は間違ってはいないと思うのだが…?
俺は返信を書き込んだ。
“開幕闇鶴千本桜、前衛は夜鷹月影または一閃系を連打で手数を稼いで、
HP上げ補助を出来るだけ多く発動させて。
後衛は奥義発動で回復とHP上げスキル交互撃ち”
それは開幕の指示だった。
すると、連合員たちから驚きを表すスタンプや顔文字が寄せられた。
“銀さんがまともな指示を出してる…!”
“どうしたんすか、銀さん”
“千本桜終了後は15分過ぎまでコンボ&エコをどんどん入れよろしく”
かまわず俺はその後の指示を書き込んだ。
コンボ&エコ、あくまでも「銀鷹丸」らしさは残さなければいけない。
そうこうしているうち、開戦時間になってしまった。
最初の奥義「闇鶴千本桜」は倒れても自動でHP回復するものだ。
この発動時間中に前衛が手数を稼げれば、
その分多く、HP上げの補助スキルも発動する。
結果、その後のマウントも取りやすくなる。
15分過ぎまでコンボ&エコは、他の連合より奥義ひとつ分長い。
コンボが優勢なら、山場での与ダメージや後衛の応援効果がその分高くなる。
敵に下げの応援を撃たれても、取り返しやすくなる。
“後衛は次の奥義発動まで、10秒切ったら行動ポイント満タン回復、待機”
コンボ&エコの後は、応援効果を上げる奥義なのだが、
これは敵の奥義を見てからにしないといけない。
応援効果を上げる奥義は必ず後出しでなければ、意味がない。
“次は敵の奥義を見てから”
幸いにも敵が先に応援効果を上げる奥義を出してくれた。
俺は短い攻撃奥義を指示して、時間をずらし、
その後に応援効果奥義を指示した。
“山場は応援奥義後半とラスト、前衛は大技残して。後衛は引き続きコンボ”
その後は短い攻撃奥義をもうひとつ使い、
敵の下げ応援を誘い、奥義を見ながら、時間を調整した。
ラストの奥義は下げ応援をカットするものだ。
“奥義発動で回復を連打するよ。
回復まだある人はフォローよろしく、渾身の上げよろしく。
前衛はステータス出来たら大技解放”
下げ応援をカットする奥義の発動で、俺は回復の連打を開始した。
「銀鷹丸」を回復特化させたのはこのためだろ、和田さん。
そしてサブの「銀鷹」も回復特化させてある…。
「闇鶴千本桜」に下げカットを足したようなものだ。
和田さんはじめ、前衛はマウントを維持できる、
後衛の応援を余すことなく受けられる。
最高のステータスから大技を撃てる。
点数など簡単にひっくり返せる。
「アンブレラアカデミー」は、格上に大差をつけて勝利した。
俺は連合掲示板に「お疲れさま」を書き込んだ。
和田さんは、連合員たちはこの指示にどう反応する?




