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99、探偵事務所での経過報告

 私は、マリーに意味深に微笑まれながら寮を出て、探偵事務所にやって来た。


「所長さんはいらっしゃいますか」


「いらっしゃいませ、あいにく所長は出ていますよ。ご用件は?」


「そう。依頼している件なんだけど、まだ依頼料を手付金しか支払っていなくて……」


 私がそう言うと、すぐさま応接室に案内された。名前を聞かれて告げると、少し待つようにと言われた。

 そして、応接室で、しばらく待っていると、書類を持った年配の男が入ってきた。


「ローズさん、お待たせしてしまってすみません。経過報告を、私からさせてもらいます。お時間は大丈夫ですか」


「ええ、大丈夫よ。今日は依頼料の支払いと、わかったことを知りたくて来たから」


 年配の男は軽く頷くと、書類を確認しながら話し始めた。



「まず、アマゾネス国の周辺ですが、今は争いはありません。女神様の軍隊が調査に入られました。そのため、一時的におさまっているだけだと考えられます」


「そう、やはり侵略なの?」


「そのようです。旧帝国時代の中央部には、他の星からの移住者が集まっているようです。あの大陸すべてを支配しようとする動きがあったため、女神様の軍隊が動きました」


「じゃあ、安心ね」


「いえ、それが……ちょっと問題があります。女神様の軍隊は、どこかの国の防衛に力を貸すことはできません。他の星からの移住者は、まず人族の国から攻め落とそうとしているようなのです」


「えっ……」


「それに、特色のある国は目立ちます。移住者は、ほぼ男ばかりですから、その……」


「アマゾネスが狙われているということなのね」


「おそらく。その確認と調査のために、今朝早くに所長が向かいました」


「所長さん、ひとりで?」


「はい、隠密行動が得意な人なので、緊急性のある調査は、所長が単独で行うことも多いのです」


「そんな、危険だわ」


「それは大丈夫です。彼は少し特殊な神族ですから」


 私がよほど心配そうにしていたのか、年配の男は、所長は逃げるのが得意だとか、たくさんの魔道具を持っているとか、いろいろと思いつく限りのことを話してくれた。


(所長は、特別強いわけではないのね……心配だわ)


 前に手合わせをしたときは、どこに打ち込んでも必ず受け止められてしまった。彼は、私よりもかなり剣の技術は高いと感じた。でも、それは相手が魔族や、ましてや他の星からの移住者に通用するとは限らない。



 コンコン


「あの、ローズさんに、お客様がいらっしゃいました」


「えっ? 私ですか」


 年配の男は、ささっと書類を片付け、どうぞと返事をした。扉を開けて、入ってきたのは懐かしい顔だった。


「ローズ様〜、探しましたよ〜」


「ミュー、久しぶりね。私もミューを訪ねて、一度宿に行ったわよ。伝言だけを残して、急に居なくなっていたから驚いたわ」


 ミューは、部屋に入ってきて、年配の男に軽く挨拶をしていた。なんだかとても親しそうに見える。


「で、何の話をしていたんですかー? アマゾネスのことだったりしますぅ?」


「ミューさん、先日の件の報告をしていましたよ。ローズさん、ミューさんとは、学園で同級生だったんですよ」


「探偵さんと、ミューが同級生?」


「あはは、驚かれますよね。ミューさんは全然、姿が変わらないから……。もう40年以上……」


「あーわーわー、もうその話はなしですよー。ミューは年齢不詳がウリなんですからねー」


(ウリだったの?)


「あはは、相変わらずですね。ある意味うらやましい」


 ミューは、バタバタと手足を動かしたり、とにかく相変わらず騒がしい。アマゾネスが深刻な状況ではないのだろう。ミューが元気な様子を見て、私は少しホッとしていた。


「報告は終わりですかー? 終わりならミューから依頼があるんですけど」


「経過報告は終わりましたよ。ミューさんの依頼というのは?」


「その前に、私の依頼料の支払いを、忘れないうちにしておくわ」


「かしこまりました。ただ、まだ確定しませんので、預り金という形にさせてもらっていいでしょうか」


「ええ、かまわないわ」


 私は、以前、所長が金貨3枚程度だろうと言っていたことを思い出した。年配の男が出してきた請求書は、金貨2枚になっている。私は一応、金貨3枚を渡した。


「余った分は、金額が決まりましたら精算させてもらいます」


「ええ、足りないときは、追加を支払うわ」


「貧乏なローズ様が、なぜ金貨なんか持ってるんですか」


「ちょっと、ミュー、失礼ね。私だって、冒険者をして稼いでいるのよ」


「ふひー、驚きました〜」


 ミューは、大げさに驚く素振りを見せた。ほんとに、お調子者なんだから。


「あはは、じゃあ、次はミューさんの依頼をうかがいましょうか」


「あのねー、ローズ様を一時帰国させなきゃならないの。でね、こないだ調査に来てた人達の誰かに護衛をお願いしたいの」


「調査に行った者じゃないとダメなのですか」


「うーん……アマゾネスに入国する条件って厳しいんだって知ってるよね?」


「ええ、それは。だから、ミューさんに、お願いしたじゃないですか」


「うん、そうなんだけど……ミューでも、ただの知り合いを入国させるわけにはいかなくって……その……」


 ミューは、なぜか私をチラチラと見ていた。何かしら? ミューは、なんだか言いにくそうにモゾモゾとしている。


「ミュー、いったい何?」


「ひゃ! ローズ様、すぐに怒らないでくださいよー」


「別に怒ってないわよ」


「うーん、あの、落ち着いて聞いてくださいね。あの……あの中に、ローズ様の伴侶候補がいると言ってしまったのですぅ」


「は? 私は伴侶は、まだ決めるつもりはないわよ」


「だって、そう言わないと入国させることなんて難しいですよー。ローズ様が心配しているから調査に来たってことになってるんですからぁ」


「心配したから、探偵事務所に依頼したわ。間違っていないわよ?」


「そこが無理なんですよぉ。男達にお金を払ってお願いしたという感じが〜」


「あー、確かにそうね。探偵なんて職業は、アマゾネスにはないわね。でも、だからって、伴侶候補にしなくても」


「マリーさんが、それでいいんじゃないかと知恵を貸してくれたんです〜。お知り合いなんですよね? 魔王の娘のマリーさんって」


 彼女の名前が出ると、年配の男は少し緊張したようだった。私と目が合うと、愛想笑いをしてごまかしていたけど。


「ええ、さっきも寮で会ったわ。彼女がアマゾネスにいたの?」


「念話ですぅ。ミューは、困ったことがあると、マリーさんに相談することにしてるんです〜。マリーさんはたくさんパパがいるから、コワイけど、とても頼りになるのですぅ」


「そう。もしかしてミューがここに来たのも念話で聞いたの?」


「いえ、寮に行ったら、マリーさんが、探偵事務所に借金を払いに行ったって教えてくれたから〜」


「借金じゃないわよ。まぁ、支払いが遅くなったけど」


 私達が言い合いをしているのを、年配の男が困った顔で見守っていた。ついついミューのペースに巻き込まれてしまったわね。


「ミュー、さっきの話、逸れているわよ」


「あー、そうでした。というわけで、こないだアマゾネスに入国した人を護衛で借りたいんですよ〜」


「ミューさん、こないだは、私以外は、冒険者を連れて行きましたから、ギルドに相談してもらわないと……。まぁ、でも、いちいち、入国した者の顔は覚えていないのではないですか?」


「入国したことのない人は、結界で弾かれるからバレちゃうんですよぉ。どうしよう……」


「ミュー、私が説明するわ。調査を依頼したのは私だもの」


「でもぉ〜、女王陛下にもそう言ってあるので、嘘をついたとバレるとミューは、牢屋行きですぅ」


「えっ? お母様にも言ったの……。それは、マズイわね」


「やっとローズ様が伴侶候補を選んだと、喜んでおられました」


「そ、そう……」


(はぁ、マズイことになったわ)



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[一言] リュッ君「聞いてないよー (作者を)訴えてやる」
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