95、ローズ、巨額な報酬を得る
私達は、天使ちゃんと呼ばれるワープワームを使って、ハデナ火山の地下迷宮から湖上の街に戻ってきた。
かなりの距離を移動したのに、ワープは、ほんの一瞬だった。アマゾネスのワープワームとの能力の違いを、私は実感した。
(まるで、別の種族かのようね)
ギルドに調査完了の報告をすると、解決報酬が支払われた。カバンが一番の功労者なはずだが、ミッションを受注していなかったらしく、報酬はすべて私達に支払われた。
私がデスゴリラに変身したことでロックワームが怖れたため、ギルドからの解決報酬は、私が一番高かった。
貧乏だった私はこれで、探偵へ支払う依頼料の心配がなくなった。まさかの金貨30枚を受け取ったのだ。
金貨1枚は銀貨100枚、そして銀貨1枚は銅貨100枚と同じ価値だ。銅貨1枚は日本円で考えると100円、銀貨は1万円、金貨は100万円くらいかしら。
(日本円なら、三千万円よね)
他の人達も金貨10枚以上はそれぞれ受け取っていた。そして、集めていたロックワームの魔石をアルフレッドが換金した。これが全部で金貨300枚ちょっとになった。
(日本円なら、三億円だわ)
私は、数個しか集められなかったから、この分配は少なくしてもらった。それでも金貨30枚を渡された。
アルフレッドは、他の人達には金貨50枚ずつ配っていた。バートン、ルークさん、シャインくん、ケトラさんの五人で分けても、まだ20枚以上余っていた。
「余りは、どうしよっか。誘わなかったタクトは、拗ねてるだろうな」
アルフレッドが、ルークさんにそう言うと、彼は苦笑いをしていた。それを言うなら、シャラさんやノーマンにも声をかけていないわ。
「アル、じゃあ、これからみんなでメシを食うときは、その金を使えばいいんじゃないか」
「バートン、それ、いいな。そうしよう。しかし、何年分あるんだ?」
「大丈夫だぞ。ルークは育ち盛りだから、たくさん食べるぞ。いま、はっきり言って、腹が減りすぎだぞ」
ご飯の話をすると、キュルキュルと、ルークさんのお腹が悲鳴をあげた。
「す、すみません」
ルークさんは、顔を真っ赤にしてうつむいた。でも、シャインくんもお腹を押さえている。私も確かにお腹ぺこぺこだわ。
「あはは、じゃあ、みんなで飯行くぞ! ケトラさんも一緒に行くよな?」
「うん、そうね。じゃあ、お兄さんの店に行く? シャインは、他の店は緊張するから」
「じゃあ、決まりだな」
(お兄さんの店?)
ギルドを出て、私達は街長のバーにやってきた。時間の感覚がなかったけど、もうカフェタイムは終わり、バーの時間になっていた。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
「お兄さん、みんな空腹で倒れそうなの」
「おや、かしこまりました。ケトラちゃんは今日はお客さまなんだね」
「うん、あたしがこの店にしようって連れてきたのー。シャインくんは、ここじゃないと落ち着かないでしょ」
マスターはニコニコとして、ケトラさんと話している。ケトラさんは、お兄さんと言っているけど、兄妹なのかしら? 種族は違うわよね。
「ローズさん、ケトラちゃんのお姉さんがシャインのお母さんですよ」
「あっ、また、思念が漏れていたかしら」
「ええ、少し……」
私は、ルークさんが気を遣ってくれていることに気づいた。たぶん、みんなに聞こえていたのじゃないかしら。
私達が席につくと、すぐにパンが出てきた。すかさず、シャインくんとルークさんが、ほぼ同時にパンをつかんだ。
そしてスープやポテトサラダが出てきた。作り置きされていたのだろう。腹ペコ客が多いのかもしれないわね。
「お兄さん、支払いは大丈夫だから、お肉いっぱい食べたいの」
「ええ、ご用意していますよ。もう少しお待ちくださいね」
そうマスターに言われて、ケトラさんは少し恥ずかしそうにしている。うん? なんだか、ケトラさんって……マスターのこと、好きなのね。マスターを見る目がキラキラしているわ。
私がそんなことを考えていると、ケトラさんがパッと私の方を向いた。
(あ、また思念が漏れていたのね……)
「ローズさん、あたし、大人になったら、お兄さんと結婚するの」
「えっ!? そ、そうなんですね」
私はチラッとマスターの方を見ると、少し困った顔をしているようだった。でも、否定はしないのね。
「ケトラちゃんが大人になるのは、まだ何百年も先のことだから、そのうち気が変わるんじゃないかな」
「えっ? バートン、いま、何百年って言ったのかしら」
「言ったぞ。ケトラちゃんは守護獣だから、成長が遅いんだぞ」
「へぇ……私はとっくに死んでるわね」
「ローズさん、ティアちゃんに瀕死の状態から回復してもらったのよね?」
ケトラさんが私の顔をマジマジと見ながら、そう言った。
「ええ」
「じゃあ、うーん、あれ? かなり傷ついているのかな? あと百年ちょっとかも……。お兄さん!」
彼女は、マスターを呼んだ。ちょうど肉料理が大量に出来上がったところだった。しかし、すごい量のサイコロステーキね。
「うん? ケトラちゃん、どうしました?」
「ローズさんの核がかなり傷ついているの。治せる?」
「ケトラさん、寿命は十分よ。ありがとう」
「いやいや、ローズさんがよくても、リュックくんはよくないでしょ。ローズさんの命が尽きると、きっと荒れるよ」
「そんなことないわ」
マスターが、ジッと私を見ていた。目が合わない。えーっと、何をしているのかしら。
「ローズさん、マスターはたぶん、ローズさんを透視していますよ。神族は不思議な『眼』を持ってるんです」
「透視?」
「たぶん、身体の中を見ているんだと思います」
(そんなことができるの?)
やっとマスターと目が合うと、彼はやわらかく微笑んだ。
「あ、突然すみません。ちょっと見せてもらいました。リュックくんが、ローズさんの寿命を気にしていましてね……」
「そう、何かわかったのかしら?」
「かなり、封印によって生命エネルギーが削られてしまっていますが、治せると思いますよ。急ぐことではないので、治したいと思うようになったら、お声がけください」
「わかったわ、ありがとう」
マスターは、やわらかく微笑んで、カウンターへと戻っていった。
(そっか、マスターは治せるのね。でも必要ないわ)
「ローズ、食わないと無くなるぞ」
「へ?」
アルフレッドに声をかけられて、テーブルの上を見ると、あんなに大量にあったサイコロステーキがほとんど消えていた。
「す、すごい食べるのね、みんな」
「成長期の食いしん坊が三人もいるからな」
「ふふ、確かに」
「お兄さん! おかわり〜。まだローズさんが食べてないのに、消えちゃったのー」
ケトラさんは、マスターにとても甘えているようだ。勝ち気でやんちゃなイメージだったから、私は少し驚いた。
「はーい、少しお待ちくださいねー」
マスターは、おかわりを予想していたかのようだった。すぐに、次の肉料理が出てきた。
(からあげだわ!)
「ん? 何だ? この料理、見たことないぞ」
「トリのからあげですよ。百面鳥がたくさん手に入ったんです」
「バートンは、共喰いになるからやめとけよ」
アルフレッドがそう言ったが、バートンは気にせず手をのばしていた。
「俺、鳥系の獣人だけど、百面鳥じゃないぞ。マスター、からあげ美味いぞ」
「ふふ、よかった。次は、この島のワームを焼きますね」
(この島のワームって、あの巨大ミミズ?)
マスターの予告に、ルークさんは、パッと顔を上げ、手をブンブン振り回した。シャインくんも、ルークさんの真似をしている。ケトラさんは、ニッコニコだ。
「よく食うな〜。俺はワームに備えて、からあげは1個で我慢しておくよ」
アルフレッドがそう言うと、バートンは嬉しそうな顔をした。バートンは、からあげが気に入ったらしく、ワーム予告を気にせず、ガンガン食べている。
(ほんと、よく食べるわねー。種族の違いかしら)




