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94/124

94、リュックが怪我をする

 猿に変わったロックワーム達がさっきまで居た場所の地面が盛り上がり、人が空洞内に放り出されていった。


 猿に変わっていないゲジゲジが何体も地中からはい出し、その度に十数人の人を運んできている。空洞内に放り出された人達は、私の姿を見て悲鳴をあげていた。


 猿が私に媚びるように、私の目の前にやってきてチョロチョロしている。餌をこの場所に運んできたから、褒めてくれということなのかしら。


 ガァウゥ〜


 私が声を発すると、また怪獣のような声になった。すると、猿はぴょんと飛び上がって逃げていった。



「ローズさん、魔力を循環させれば話せるはずですよ」


 ルークさんにそう言われて、身体の中にマナが流れるイメージをした。すると、目から何か熱線のようなものが放たれた。


(えっ? ビーム……かしら)


 私の視線の先の地面は、熱で焼かれたように焦げていた。誰かを見ていなくて良かったわ。


 それを見て、カバンがまた大笑いしている。


「ローズ、おまえ、何やってんだよー。話すんじゃねーのか。なんで攻撃してんだよ、あははは」


 私は、カバンをキッと睨んだ。だがビームは出ない。どうすればビームが出せるんだったかしら。


「ローズさん、それ、強烈だからやめてくださいね。アルさんに当たると死にますから」


(えっ!? そんなに?)


「一撃で殺すから、デスゴリラなんですよ。魔族の中では最も知能が低くて扱いが難しい種族なんです。すぐに怒るし暴れるので、魔族の中ではデスゴリラは、魔物と考えている種族もいます。一応話せるから、魔族に分類されているんですが、知能が低いため人の姿に変身できません」


 ルークさんの説明で、なぜカバンが笑っているのか、わかった気がする。どの種族になるかはランダムだと言っていた。それを私は……一番、知能が低い魔族に変わったからだわ。


 カバンをチラッと見ると、まだ笑っている。ほんと、失礼ね、バカじゃないの!



 不思議なポーションの種族逆転というのは、人族が飲むと魔族に変わり、魔族が飲むと人族に変わるようだ。


 カバンが、空瓶をすぐに回収していたのは、取り扱いに配慮が必要なのだろう。確かにこんなポーションが存在するなんてわかれば、魔族との戦乱はもっと激化しかねない。弱い人族の国は、どんな武器よりもこのポーションを欲しがるだろう。


(危険なポーションね……)


 ロックワームに使うと猿に変わった。ということは、魔物に使うと動物になるのね。




「おーい、ローズ、ほえろー」


(は? なんですって?)


 カバンがニヤニヤしながら、何を言っているのかしら。


「ローズさん、ロックワームが運び終えたみたいです。蹴散らしてほしいという意味だと思います」


 ルークさんにそう言われて、私は声を出した。


 ガゥウワァ〜!


 ちょうど猿が近づいてきたときに、私が声を発したことで、また奴らは驚いて逃げた。だが、少し離れた場所で、ジッとこちらを見ている。


 私は、猿の方へ近づいた。巣から空洞に運び出された人達は、私に向かって手を広げていた。何人かの手から攻撃魔法が私に向かって放たれた。


(えっ!?)


 避けようとして飛び上がると、空洞の高い天井付近まで跳躍した。そして、地面に降り立つと、ものすごい地響きがした。


 ガァー!


 地面の揺れで、捕まっていた人達は倒れた。猿がまだ居たので、私は猿を蹴散らした。奴らは何かを察知したのか、サッとどこかへ走り去った。ゲジゲジも、地面や壁の中に逃げていった。



「あははは、ローズ最高! めちゃくちゃカッコいいじゃねーか」


 カバンが、ゲラゲラ笑いながら近づいてきてきた。私はキッと睨むと、目から熱線が出た。


(あっ!)


 私の目から出たビームが、カバンの左頬をかすった。彼のほおに血がにじんだ。


(マズイわ)


 私が焦っていると、カバンは、ほおの血をぬぐい、ニヤッと笑った。


 捕まっていた人達は、倒れたまま、ジッとこちらの様子を見ている。私に向けられる目は、恐怖と憎悪だ。戦場で敵に向けられる目と同じね。



「ローズ、飲めるか」


 そう言ってカバンは、私に小瓶を放り投げた。受け取ってはみたものの、今の私は、人の倍以上あるゴリラだ。こんな小さな小瓶の蓋を開けることなどできない。


 私が蓋を開けようと四苦八苦していると、カバンはまたゲラゲラと笑っていた。開けられないとわかっていて、わざと渡したのかしら。




 突然、少し離れた空間に歪みが起こった。これは、転移の歪みだわ。


 転移渦から、黄色っぽい制服を着た兵達が現れた。この制服は、女神様の城の軍隊だわ。白地に黄色いストライプが入ったアイドルのようなデザインは、遠くにいても目立つ。わざと目立たせて抑止力にしているのだと聞いたことがある。


 彼らは私を見て、一斉に剣を抜いた。


(ま、マズイわ)


「ローズ、さっさとクリアポーションを飲まねーから剣を抜かれるんだぜ。あははは」


 ガゥウー


「えっ? デスゴリラにクリアポーション? ライトさんの変身ポーションを使っているんっすか」


 城兵の一人が、私に向かって問いかけた。


 私はウンウンと思いっきり頷いた。そして、手に持っているクリアポーションを見せた。


「デスゴリラは、子供ならまだしも、大人では小瓶は開けられないっすよ。不器用なんすよ」


 その城兵は、私の手から小瓶を取ると、蓋を開けてくれた。私は二本の指でそっと受け取り、中身を一気に飲み干した。


(この兵は、紳士ね)


 ポーションが身体を駆け巡り、私は元の姿に戻った。


「ありがとう、助かったわ」


「わっ、もしかして、ローズさんって、アマゾネスっすか」


「ええ、そうよ」


「へぇ、貴女みたいな人だとは……いてっ!」


 兵は、カバンに殴られていた。何なの?


「ジャック、何、口説いてんだよ。自分の仕事しろよ」


「ちょっと、リュックくん、いきなり何するんすか。あれ? 怪我したんすか? まさかロックワームで?」


「あんな虫に怪我させられるわけねーだろーが。これをやったのはローズだよ。至近距離から熱線を出してきたんだぜ? ひどいだろ、痛いぜ、ほんと」


「熱線を出されるようなことをしてるからっすよ。瓶の蓋を開けずに渡して、からかってたんじゃないっすか」


「なっ!? からかってねーよ。笑いが止まらなかっただけだぜ」


 ジャックと呼ばれた兵は、呆れた顔をしていた。そして、私に向き直った。


「ローズさん、魔人がこんなイタズラをするのは珍しいんす。リュックくんは、ティアちゃんに似たところがあって……悪気は全くないと思うっす」


「そ、そう」


(なぜ、そんな風に擁護するのかしら)


「ジャックは、さっさと仕事しろよー」


「救出してくれたんすね。あれで全員っすか?」


「あぁ、ローズがビビらせて救出したんだぜ、うぷぷ。それから、2匹は星に帰したが、1匹はハロイ島に入ったみてーだぜ。湖上の街にはまだ入ってねーけどな」


「了解っす。あとは、こっちで片付けるっす」


 彼は兵に指示を出し始めた。城兵の指揮官なのかしら。捕らわれていた人達を次々と回復し、そして順に空洞内からどこかへ移動させていた。




「じゃあ、俺達も戻ろうぜ。ギルドに一応、状況報告しに行かなきゃな。リュックさんもご一緒してもらえませんか」


「いや、オレは、ちょっと忙しーんだよ。ってかギルドは行きたくねーから」


「わかりました。助けに来てくれてありがとうございました。じゃあ、俺達はこれで」



 シャインくんが、手を上げて、天使ちゃん達を呼んだ。


 天使ちゃんの数体が、カバンにキラキラした息を吹きかけたが、彼はとっさにバリアを張って、それを防いだ。


「ん? リュックくんのほおの怪我を治そうとしたんだよ?」


「余計なことするんじゃねーぞ。どーせ、放っておいても、すぐに治っちまうじゃねーか」


 シャインくんは首を傾げている。治癒の息を吐いた天使ちゃん達も不思議そうな顔をしている。


「リュックくん、その怪我が嬉しいの?」


 ルークさんが、妙なことを言った。すると、カバンはニヤッと笑った。そして、その場からスッと消えた。


(な、何? 気持ち悪いわね)



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― 新着の感想 ―
[一言] 多分気持ち悪い事を考えてるんだろうけど… そういう事には勘が鋭いんだな…( ̄▽ ̄;) 有る面だと鈍いのに…(´ー`).。*・゜゜
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