92、リュックの説得
「なんだと? 我々に星へ帰れと言っているのか? 魔人の分際で、神に対して、なんという口の利き方だ」
金髪の男は、リュックに激怒している。一方で、赤い髪の男は黙って静観しているようだ。
「おまえ、何様のつもりなんだよ。ここは、イロハカルティア星だぜ。この星の神は、あの女神だけだ。そして、オレ達は、その女神の魔力から生まれたんだからな」
「は? だからなんだ? おまえ達のような魔人が偉そうに。女神が生み出したから、我々より上だとでも言うつもりか」
「オレ達は、女神の考え方を理解している。それに反する厄介な邪神は、強制的に帰らせてもいーんだぜ」
リュックは、金髪の男を睨んでいた。すぐ近くには赤い髪の男がいる。どちらも赤い星系の神々、すなわち武闘系だ。
レイは、じわじわと距離を置こうとしていた。魔人レイは、万能タイプだ。そのため、リュックほどの戦闘力はない。リュックに任せて、巻き込まれないように避難しようとしているようだ。
「青の神も、魔人を欲しがるんじゃないか」
赤い髪の男は、金髪の男にそう言って、振り返った。あちこちキョロキョロと、老人の姿を探していた。
「あの爺さん、どこへ行ったんだ?」
赤い髪の男が、ポツリと呟いた。
「あー、自分の星に帰ったぜ。一応、聞いておく。おまえら、捕らえた住人を返して、自分の星に帰る気はあるのか」
「はぁ? 魔人ごときが何を言ってるんだ。青の神はなぜ急に帰ったんだ?」
金髪の男はわかっていないようだ。だが、赤い髪の男は、その理由に気づいたらしく、警戒を強めた。
「オレの大切な友達を殺そーとしたから、強制的に帰ってもらったんだ」
「魔人が友達だと? おまえ、やはり不良品か。言動もなんだかおかしいと思っていたのだ」
「ふーん、神々は、魔人を自分の道具だとしか考えていねーよーだがな、全部が同じなわけじゃねーぞ。で? 返事は?」
「せっかく集めた下僕を返すわけないだろう。ったく、不良品なら始末しておくか。爺さんには、不意打ちでも仕掛けたんだろうが、我々は武闘系だぜ? 不意打ちは効かないからな」
「おい、油断するなよ。共同でいくか」
赤い髪の男が、彼らに近づいていった。金髪の男は、チラッと見て、頷いた。
「どこから忍び込んだか知らぬが、身の程をわきまえないから死ぬことになるんだ、不良品よ」
金髪の男は、挑発するようなことを言っていた。神々は、互いに頷き、そして同時に剣を抜き、リュックへと襲いかかった。
キィン! カン! ズザザッ
リュックは、赤い髪の男の剣を受けて弾いたあと、金髪の男をなぎ払った。そしてバランスを崩した金髪の男にすかさず剣を振るった。金髪の男は、光の粒子に変わった。
「なるほどな。やはりおまえは、あの島の湖上の街の長に仕える魔人だな」
「別に仕えているという関係じゃねー。相棒だ」
「神殺しという二つ名を持つ神族は、おまえのことか」
「それは、オレじゃねーよ。街長のことだ。あいつを怒らせると、オレも冷や汗が出る」
「そうか。だからあんな街の長が務まるのだな」
そう言うと、赤い髪の男は剣を下ろした。
「金髪頭は帰ったぜ。おまえも帰る気になったか?」
「いや、俺は帰る星がない。俺の星は青の神に消されたからな。俺は、殺されると復活に時間がかかる」
「じゃあ、捕らえた住人を返してここから出ていけよ」
「ここから出ていくことは可能だが、捕らえた住人がどこにいるのかはわからぬ。あの爺さんが牢を作ったようだが、俺には知らされていない」
「おまえは、信用されてねーってことか」
「ふっ。星を失った神は、序列がガクンと下がるからな。下っ端には教えないんだろう。爺さんは青の神だ。そもそも俺達のような赤の神を信用していない」
「あー、うぜー序列なんか、なくせばいいのに。黄色の星系には序列はねーぞ」
「あぁ、だからここに来た。ただ、あの島には多くの移住した神々がいるから近寄りがたかった。この火山で狩りをしているときに、あの二人が来たんだ」
「ふーん……。じゃあ、女神に言って、湖上の街に住めばいいんじゃねーか。街長は種族関係なく、みんな平等だと考えている。神だからと威張りちらしても、あの街では誰も相手にしねーぞ」
「怖れないということか?」
「星を失った神を怖れるわけねーだろ。あの街には、おまえより圧倒的に強い奴らがウヨウヨしてるんだからな」
すると、赤い髪の男は、目を輝かせて笑った。
「それは面白そうだな。悪目立ちして、すぐに他の神にケンカをふっかけられるかと危惧していたが……」
「目立つわけねーよ。それに、戦闘力を隠す能力がないなら、街の魔道具屋に行けば、能力を隠せる魔道具も売ってる。買う金がねーなら、ギルドで冒険者登録をして、ミッションを受けて稼げばいい」
「は? 神が冒険者の仕事だと? そんな、民の仕事を奪うようなことを……」
「ギルドの仕事は多いから、気にしなくていい。それに、女神も、冒険者ランクを上げることにハマってて、ミッションを大量に受注してるぜ」
「ええっ? 黄色の太陽系の創造神が、そんなことをしているのか」
「あぁ、ティアという名で、姿を変えてやっている。街の住人の半数以上は、ティアが女神イロハカルティアだと知っているけどな。姿を変えるのはオンオフの区別なんだろーと思うぜ。ティアのときは、はちゃめちゃだからな」
「そ、そうか……」
「あの街の塔の近くに、街長のバーがある。ティアは、そこの常連だから、その店に行けば、女神と連絡が取れるぜ」
「ふっ、わかった。行ってみるよ」
そう言うと、赤い髪の男はリュックに微笑み、その場からスッと消えた。
「さてと……」
リュックは、空洞内を見渡した。金髪の男がロックワームを操っていたのだろう。追いかけっこは終了し、逆にワラワラと虫が出てきているようだった。
魔人レイは、リュックが戦闘を始めた瞬間、遠くへ避難していた。レイは自分の仕事をしているようだ。
「ったく、小悪魔レイは使えねーな」
リュックは、ロックワームがワラワラ集まっている場所へと移動した。
「シャインくん、どうしよう? あの二人、大丈夫かな」
「大丈夫だと思います。あ、リュックくんも片付いたみたいだから、なんとかしてくれるはずです」
「えっ? カバ……じゃなくて、リュックさんは、他の神々も殺したの?」
「ここからは見えないですよね。金髪の方は光の粒子に変わったけど、赤い髪の方は出ていったみたいです」
「逃げたのね」
「いえ、話をして、出ていったみたいです。説得したんじゃないかと思います」
「そう……」
(カバンが説得? まさか……)
「ローズちゃん、リュックさんの評価低いんだよな。普通の女の子は、みんなリュックさんと目が合っただけで騒いだりしてるぞ」
「バートン、ローズは所長のことが好きだから、他の男には興味ないんだよ。なぁ? そうだろ?」
「えっ? あ、ええっと」
(怪盗も好きだなんて、言えないわ……)
「ふぅん、ローズちゃんの好みがよくわからないぞ。所長は、いい人だけど、学生にしかモテてないぞ?」
「バートン、学生も、臨時で教師をしている所長より、課外授業のサポートに来るリュックさんの方が、人気高いらしいけど」
「あー、そういえば、人気投票あったもんな。一位を当てると学園内の銅貨1枚ショップでパンをくれるやつ。リュックさんとマスターで、いつも一位争いしてるらしいもんな」
「俺はマスターに入れたぜ。一位を当てるというより、一位になった人に投票した人にもらえるんじゃなかった?」
アルフレッドとバートンは、よくわからない人気投票の話で盛り上がっている。
マスターも教師をしているんだったわね。私はマスターの授業に出たことがない。教師の人気ランキングということなら、なぜ、カバンが出てくるのかしら。
すると、突然、カバンが目の前に現れ、わらび餅バリアを消した。
(な、何するの!?)




