87、ハデナ火山の地下迷宮へ
「シャインが呼んでくれたみたいですね」
今にも決壊寸前の涙目を見て、みんな苦笑いしていた。
シャインくんは、泣き虫で礼儀正しいというイメージしか私にはなかった。でも、守護獣なのよね。
さっき、手合わせした赤髪のケトラさんは、半端なく強かった。シャインくんも強いのかしら。
「ローズさん、シャインはどちらかと言えば、魔導系です。シャインの両親はどちらも魔導系ですからね」
「えっ? じゃあ、地下迷宮の手伝いを頼まれたと聞いたけど……」
ルークがチラリとシャインくんを見た。シャインくんは、うんうんと頷いている。
「守護獣は、精霊の加護があるから、多少のチカラは使えると思います。迷宮内はマナの流れを阻害されているみたいだけど、精霊ハデナは普通にチカラを使えるようですからね」
「あ、ルーク様、違うんです。僕は、天使ちゃんのお世話係をしてって、ケトラちゃんが言ってました」
「天使ちゃん?」
「あ、あの、父さんのワープワームです。家族は使えるんですが、ケトラちゃんの言うことはあまり聞かないから」
(あー、あの可愛らしいボールみたいな子達ね)
「あの子達を何に使うんだろう? まぁ、でも火山なら強いよね」
「ルークさん、ワープワームは弱いわよ?」
「あの子達は特殊なんですよ。魔族の国では、ワープワームにも上下関係があって、マスターが支配権を持つ一族は、ワープワームの中では一番上の地位にあります」
「へぇ、そうなの」
「はい、それにあのワープワームの族長は、下手な魔族よりも知能が高いですよ」
「ええっ!? 魔物なのに?」
「そうだなー。この星の共通語は、普通に話すんだよな。俺も初めて見たときはびっくりしたぞ。族長だけじゃなくて、その側近みたいな奴らも、カタコトだけど話すんだぞ」
「バートン、それ、マジかよ。めちゃくちゃ興味ある」
アルフレッドは、なぜか興味津々のようだ。確かに、ワープワームは、支配権を持つ主人の影響を強く受ける。
アマゾネスの女王が代々支配権を持つワープワームは、プライドが高い。今は支配権はお婆様が主人だけど、確かにお婆様はとてもプライドが高いものね。
天使ちゃんと呼ばれる子達は、いつもニコニコとしていて楽しそうだ。主人であるマスターが穏やかな平和主義者だから、あんな雰囲気なのだろう。
「アルフレッド、所長さん、忙しいのかしら?」
「ん? あぁ、ローズの依頼の件が、とてもおおごとになってるんだよ。女神様の城兵まで、同じ件で調査を始めたぜ」
「あー、それ、寮長から聞いたわ。寮長も女神様のミッションで調査に行ったって」
「所長も、直接調べに行ったりしてるみたいだぜ。危険なことは、自分でやる人だからな」
「えっ……じゃあ、所長さんが危険なことを?」
「ふふふ、結局、やっぱローズは所長のことが心配なんだな。でも、あの人は大丈夫だぜ? 逃げるのが上手いからな」
「所長さんの戦闘力って高いの?」
「んー、よくわからねぇが、たいしたことないんじゃないか? 強ければあんなに魔道具を集めないだろうしな」
「そっか……。変な依頼をしてしまったわ」
「いや、ローズの依頼があるから、神族が、アマゾネスにも使者を送ることができたらしいぞ。じゃなきゃ、閉鎖的なアマゾネスには近寄れないからな」
「そう……」
「そんな顔するなよ。なんとかなるからさ。それより、ギルドに行くぞ。もう手続きは終わったらしいから」
「えっ? どういうこと?」
「ローズさん、ケトラちゃんが俺達をスカウトしたと、ギルドに連絡したようです。そうだよな? シャイン」
「はい、早く来いと言ってます」
「じゃあ行かなきゃ」
私達は、学園を出て、ギルドへ向かった。
ギルドに着くと、シャインくんが3階だと言うので、みんなで3階へ上がった。そこには、待ちくたびれた顔をした見知らぬ男がいた。
「わっ、ベアトスさんのとこの魔人です」
「えっ? クマさんマークの工房のベアトスさん?」
「はい。ベアトスさんに仕えている魔人のレイさんです」
すると、ギルドの職員さん数人がすっ飛んできた。その場で私達は、ギルドの登録者カードの提示を求められた。
そして瞬く間にミッションの受注が完了した。報酬も前払いで、一律で、一人金貨1枚だった。
(こんな高額な報酬……)
ギルドの職員さん達からは、ロックワームの魔石を取ってきてくれたら買い取ると言われた。
「高額で買い取るんだよな? ロックワームの魔石が欲しいから報酬がショボいんだろ」
バートンがなんだかおかしなことを言っている。報酬、高くて驚いているんだけど。
「もちろん、規定の価格で買い取ります」
「ちょっと、あんた達、いつまでしゃべっているわけ? それに、魔石はアタシのものよ」
「小悪魔レイ、おまえ、なんで男のフリしてんだよ。キモイぞ。オネエ言葉みたいになってるぞ」
バートンが、魔人レイを睨んでいる。小悪魔レイ? なんか噂は聞いたことあるわね。サキュバスみたいな女性の魔人じゃなかったかしら?
「男のフリじゃない。この姿の方が戦闘力が高いの。それに、魔人に性別なんてないわよ。あー、一部のバカな魔人は、男だったかしらぁ」
(それって、あのカバンのこと?)
黒髪の妙な色気のあるイケメンが、そんな話し方をすると、私もオネエにしか見えなくなってきたわ。
「なんでおまえがここにいるんだよ」
「うるさい獣人ね。あの迷宮は珍しい鉱石の宝庫だから、シャインに同行して鉱石を採掘してきなさいって言うんだもの」
「主人に従うなんて珍しいじゃないか。何かしでかした罰か?」
バートンがそう言うと図星だったらしく、キッと睨んでいる。魔人か……あまり関わらない方が賢明ね。
「よし、じゃあ、行くか。転移陣は用意されてるのか?」
「はい、ハデナに繋いでいます。皆さん、こちらへ」
私達は、奥の事務所の中へと案内された。そこには、転移魔法陣が起動されていた。バートンについていくような形で、次々と転移して行った。
(長距離の転移よね……)
私が少し戸惑っていると、左手に小さな手が触れた。
「お姉さん、一緒に行きましょう。ケトラちゃんが、お姉さんと手を繋ぎなさいって」
「シャインくん、ありがとう」
私は、小さな手を握った。そして、転移魔法陣の中へと入った。ぐにゃりと揺れる感覚が、少し気持ち悪かったが、なんとか我慢した。
「暑っ! 火山ってこんなに暑いの?」
すると、シャインくんは、モコモコの帽子の中をゴソゴソと探っていた。
「お姉さん、はい、これ飲んでください」
「シャインくん、これは?」
「父さんのポーションです。火無効の効果があるんです」
「もらってもいいの? 高価なものなのに」
「大丈夫です。父さんから、ミッションで必要なときに使いなさいと渡されています」
「ありがとう」
私は、ポーションを飲んだ。転移酔いの不快感は消えた。それに、地面から沸き立つような熱が気にならなくなった。
「カシスオレンジみたいな味ね。ちょっと甘すぎる気もするけど美味しいわ。冷やせばちょうどいいようにしてあるのかしら」
「あー、自販機は冷やして売ってるから、そうかもしれません」
「すごく計算されて作ってあるのね。さすが伝説のポーションね」
私が驚いていると、シャインくんは少し得意げに微笑んでいた。
「ケトラちゃんが、早く来てって言ってます。ワープワームを呼びます」
シャインくんがそう言った瞬間、空からはらはらと赤黒い雪のようなものが大量に降ってきた。キレイね。
スッと、シャインくんの前に数体が現れた。
「皆様、ケトラさんがこの異常の中心となっている地下空洞に、入られました。我々が皆様をお連れします。剣を抜いてご準備を」
「わっ! 喋った。キミが族長なんだな?」
アルフレッドは目を輝かせている。
「いえ、私は族長の側近を務めております。族長は、主人の許可がないと、危険な場所へは行けませんので」
足元に、ワープワームのクッションができていた。
(ワープ先は、戦乱中なのね)




