86、武闘系のクラスメイトを集める
「剣術の試験、受けてみればいいよ。評価はB以上に上がってると思うよー」
「はい、手合わせありがとうございました」
「うんうん、あ、そうだ。ハデナの地下迷宮って知ってる?」
「いえ、ハデナ火山には行ったことないです」
「今ね〜、ギルドミッション出てるよ。王国のギルドにだけ出してたけど足りなくて、この街のギルドにも依頼を出したんだ〜。剣士大募集なの」
「私はギルドランクは低いんですが……」
「能力測定したでしょ? 今回は特殊だから、ギルドランクじゃなくて武闘系という条件で募集してるよ。報酬は低いけど、得るものは多いから、よかったら参加してね。あたしも、この後ハデナに戻るから」
「あの、先生、私も受注できますでしょうか」
「リーダーさんは、ちょっと厳しいかな。気持ちは嬉しいけど、今、地下迷宮内は魔法が使えないからねぇ。補助魔法もバリアもなしで、ロックワームから逃げられるかな?」
「ええっ? そ、それは、死んでしまいます」
「また別のミッション、お願いするねー」
「……はい。剣術、もっと練習します」
「うんうん、頑張って〜」
そして、先生の解散! の声で、みんなそれぞれ、ホールから出て行った。
私は、ハデナ火山のミッションの話を誰かにしようと考えたが、クラスのみんながどこにいるかはわからない。とりあえず、掲示板へと向かった。
すると、掲示板前でオロオロしているシャインくんを見つけた。何か困っているのかしら?
「シャインくん、こんにちは」
私が声をかけると一瞬、首を傾げたが、すぐにパアッと明るい表情になった。思い出してくれたのかしら。
「お姉さん、こんにちは!」
「誰かを探しているの?」
「はい、ケトラちゃんが居るはずなんですけど、学園内のどこにいるか教えてくれなくて……」
「私、さっき、ケトラさんの授業に出ていたわよ」
「ええっ? ホールにいたんですか」
「そうよ」
「うぅ……わからなかったです。もしかして女子だけの授業でしたか」
「ええ」
そう答えると、シャインくんはなぜかホッとした顔をしていた。
「女子だけの授業なら、いつも居場所を教えてくれないから、よかったです。ケトラちゃんが怒ってるのかと思って」
「どうして? 何か怒られるようなことがあったの?」
「あぅ……はい、ケトラちゃんに手伝ってって言われたけど、あの、先にお手伝いをしていたから……」
(もしかしたら、私のせいかしら)
「私に付き添いをしてくれていたから? ごめんなさいね」
私がそう言うと、シャインくんは驚いた顔をして、頭をフルフルと振っていた。
「ケトラさんの手伝いって、ハデナ火山の迷宮かしら?」
「はい、そうだと思います。地下迷宮に何か仕掛けられたみたいで、魔法が発動できなくなってるんです。その調査を頼まれて……」
「私も、いま、その話を聞いたわ。ギルドミッションになっているから、受注してねって。だから、クラスメイトを探そうとしていたところよ」
「あっ、じゃあ、僕も一緒に行きたいです」
シャインくんは、キラキラとしたつぶらな瞳で私を見つめている。そんな顔をされたら、ダメだとは言えないわ。
「わかったわ。でも、クラスメイトがどこにいるか……」
「僕が探しますっ」
そう言うと、シャインくんは何かを始めた。念話なのか、サーチなのかはわからない。真面目な顔をしている。
しばらくすると、ルークが、タクトと共にやって来た。
「ローズさん、ハデナのミッションを受注するんですか」
「ええ、さっきケトラさんからその話を聞いたのよ。シャインくんが、ルークさんを呼んでくれたのね」
「はい、シャインから、ローズさんが迷子になっていると念話が届きました」
「えっ? 迷子?」
「あはは、シャインは一人になると、すぐ迷子になったと叱られるからですね。ミッションの件で、クラスメイトを探しておられるのだとわかりましたけど」
「そう、よかったわ」
ふと見ると、なぜかシャインくんの目に涙がたまっている。えーっと、何か傷つけることを言ったかしら?
そんな様子を見て、タクトがフンと、鼻で笑っていた。ルークの配下になりたい気持ちがそうさせているのかもしれないけど、大人げないわね。
「シャインくん、ルークさんを呼んでくれてありがとう」
そう言うと、シャインくんは驚いた顔をしていた。私を見上げた顔は、やはりまだ涙があふれそうになっている。
私はそっとシャインくんの頭をなでた。モコモコの帽子が今日はより一層モコモコしていた。たくさん何かを入れているのかしら。
頭をなでると、涙はスーっと引いていった。照れたように微笑む笑顔がかわいかった。
「シャインは、ほんと、ローズさんに懐いてますね。やはり、ローズさんはマスターに似ているから安心するんでしょうね」
「似ているかしら?」
「ええ、同郷だからでしょうか。あ、でも、シャインは、マリーさんのことは苦手だな」
「ルークさん、マリーとは直接交流があるの?」
「えっ? いや、交流というか、常に命を狙われているような気がするんですけど……。ローズさんには、別の顔を見せているんですね」
「あー、そっか。魔族の権力争いとは私は無縁だからじゃないかな?」
「そうかもしれませんね。あ、バートンさんも来ましたね。アルさんには、まだ伝わっていないかな?」
「シャラさんやノーマンにも知らせたの?」
「あの二人は、このミッションは受けられないので知らせてないです。もちろん、タクトも受けられないので置いて行きますけど」
ルークに置き去り宣言をされたタクトは、顔をひきつらせていた。魔法が使えない場所に、黒魔導族が行っても、確かに何もできないわね。
「ルーク、あれ? ローズちゃんもいるのか。何の用事なんだ? ちょっと良さげなミッションを見つけたんだぞ」
「バートンさん、そのミッション、ハデナの地下迷宮ですか?」
「へ? なぜ知ってるんだ? まだ、一般掲示はされていないはずだぞ」
「俺はシャインから聞きました。ローズさんは、ケトラちゃんから聞いたようです」
「ケトラちゃんから? 依頼主だぞ?」
「バートン、さっき、ケトラさんの授業に出ていたのよ」
「そっか、直接スカウトされるなんて、ローズちゃんすごいな。気のせいかもしれないけど、なんか急に生命エネルギー増えてないか?」
「俺も、聞こうと思っていたんです。かなり増えているけど、まだゲージは半分以下ですよね、身体ダルいでしょう?」
「ええ、ダルいわ。マリーから聞いた話だと、私が死にかけたときに女神様が回復してくれたから寿命が増えたんだって言っていたけど……」
「転移酔いじゃなくて、それであんなに眠っていたんですね。なるほど、わかりました。ちょっとサーチしてもいいですか?」
「ん? ええ」
ルークは、何かを唱えた。すると私の身体を、何かが駆け巡るような気持ち悪さを感じた。
「あと160年くらいです。ローズさんの生命エネルギーの容量が増えました。前は、あと22年くらいだったんです」
「残り寿命ね? 普通の人族の倍ね。すごい能力ね、ルークさん」
「悪魔族なら、赤ん坊でも持つ能力ですよ。でもよかった。ローズさんとは長く友達でいたいですから」
「そう? 嬉しいわ」
「生命エネルギーの容量タンクが増えたけど、エネルギーは眠らないと溜まっていかないから、しばらくは身体がダルいと思います。回復魔法では、増やせないから」
「わかったわ。なるべく睡眠時間は確保するわ」
「ちょっとしか増えてないんだな。女神様が命を救ったんなら、転生みたいなもんなのに」
バートンがなんだか文句を言っている。近くにティアさんがいなくてよかったわ。
そのとき、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。まさかと思って振り向くと、アルフレッドが息を切らして走ってきた。
「待たせたなー。所長に念話したの誰? 今、忙しいのにわざわざ俺を探してくれたんだぜ」
すると、シャインくんの目には涙が……。
(シャインくんは、所長さんとも念話できるのね)