84、またまたマリーと長話
「きっと、ローズには長く生きていてほしいのねぇ。勝手なことしちゃって〜」
「困るわ。私はアマゾネスの次期女王なのよ」
「ん? それなら寿命が増えてよかったわよぉ」
「なぜ? 普通とは違うと、アマゾネスではない別の種族の血が濃いということになるわ」
「でも、増えてなかったら、女王になれないんじゃなぁい?」
「えっ? どういうこと?」
そう聞き返すと、マリーは、バイキングを取りに行くからちょっと待っててと制した。なぜ、そこでご飯のおかわりを取りにいくのよ。
私は、小さなため息をついた。でも、マリーは、料理を取りながらときどき変な方向を向いている。あ、もしかしたら、誰かと念話しているのかしら。
マリーは、また皿にこぼれそうなほど、たくさんの料理をのせて戻ってきた。
「マリー、いま、誰かと念話していたのかしら」
「うげっ、な、なんでわかるのぉ? 変な能力も身につけたのぉ?」
「いえ、マリーがときどき、ぼんやりしていたから」
「えー? やだぁ、人族に見抜かれるなんて〜」
そう言いつつも、マリーは全く気にしていないようだ。ほんとに、見た目どおりの天真爛漫な子供のようね、ふふっ。
「誰かに確認をしたのね」
「あー、うん。パパ達に聞いていたら、ティアちゃんが割り込んできて……ローズと話しながら念話できなくなっちゃって」
「パパ達? あ、そっか、マリーのお父さんは何人かいるんだったわね」
「うん、怪盗もね、パパの一人なんだよね」
「ええっ!? そ、そうなの?」
「あ、あわわ、怒られた。言っちゃダメって」
「そうよね、怪盗は正体がバレると記憶を消してしまうのよね。捕まるからかな」
「うーん、正体不明な方が、カッコいいからじゃない?」
「そう?」
「だって、アニメに出てくる怪盗って正体は隠してるよぉ」
「隠しているから怪盗と呼ばれるのかもしれないわね」
私がそう答えると、マリーは食べるのをやめてパッと顔を上げた。目が大きく見開かれている。
「そうだよ、ローズ、天才じゃない! 前世でおばちゃんだっただけのことあるわぁ」
「ちょっと、おばちゃんじゃないわよ! あ、小学生から見れば……おばちゃんなのかしら」
「あたしのママの妹、大学生だったけど、おばちゃんって呼んでたもん」
「…………じゃあ、おばちゃんでいいわ」
「うふふっ、勝ったわぁ」
マリーはガッツポーズをキメて、ニコニコと笑っている。ふふっ、ほんとに子供みたいね、私より長く生きているのに。
でも、シャインくんみたいに成長が遅い種族なのかもしれないわね。ドラゴンの生態なんて、わからないわ。
「ん? ドラゴンっていっても、バラバラなのよぉ。でも、だいたい生まれて数日で、人族よりは強くなるわぁ。あたしは、ママが特殊だから成長が遅いのぉ。でも、こんな風に話してるのはローズだけよぉ」
「また、覗いたわね」
「あはは、怒られちゃった」
マリーは、叱られるのが嬉しいのか、ペロッと舌を出して、笑っている。そっか、みんな、マリーを怖がるんだっけ?
「それで、どういうこと?」
「ん? なんだっけ?」
「寿命が増えなかったら、私が女王になれないみたいなことを言ってたじゃない?」
「あー、うんうん、言ってた〜。封印を解いたときに聞かなかったのぉ?」
「何も聞いていないわ」
「ふぅん、まぁ、あの人、口下手だもんねぇ」
「あの幻術士?」
「うん、あたし、嫌〜い」
「悪い人じゃないわよ。それで?」
「ローズ、顔がコワイわぁ」
「えっ? マリーが話をそらしてばかりだからでしょ」
「あはは、怒られちゃった」
また、マリーは嬉しそうにしている。話が進まないわ。
「そーれーでー?」
「うふっ、楽しー」
「マリー!」
「あー、わかった、わかったよぉ、あはは」
(もう、仕方のない子ね〜)
マリーは、またペロッと舌を出して、ようやく話を始めた。
「あたしもだけど、地球が爆発して印をつけられたのが、100人だったでしょぉ? まだ50年くらいしか経ってないのに、生存者が21人って言ってたじゃない?」
「そうね、私は99番目だったわ。何の番号かしら」
「たぶん、転生順じゃない? あたしは12番だったよねぇ」
「そう、私は遅かったのね」
「だから助かったのよぉ。ローズはただの人族だもの。生存していない人達は、ほとんどは寿命で死んだんだと思うよぉ」
「えっ? 50年よりも寿命が短い種族に転生したの?」
「違うわよ。神が転生させたなら、普通は人系になるわぁ。弱小神にはエネルギーがなかったのね。だから、印は、私達の生命エネルギーを使ってたのよぉ」
「マリー、意味がよくわからないわ」
「たぶん印をつけたときだけじゃなく、封印が解けるまでの封じるエネルギーも生命エネルギーを使ってたみたいだから」
「それで、50年以内に寿命が尽きてしまうの?」
「そうよぉ。あたしの封印は、ママがすぐに解除したみたいだけど、それでも20年分くらいが失われたって言っていたわぁ。まぁ、あたしの場合は、20年なんて誤差だけど、人族ならねぇ」
「そ、そうね。じゃあ、私は16歳まで封印があったから、もっと生命エネルギーが減っていたのね」
「うん、たぶん、あと20年も残ってなかったと思うわぁ。封印を解いても印の維持に使われてたし、もっと短いかもねぇ」
「じゃあ、私は女王を継承する頃までの命がもたなかったかもしれないのね」
「まぁ、たぶん誰かが何かしてくれたとは思うけどねぇ。パパは、あたしの封印のことを知っていたし、ローズの封印も、同じものだとわかっていたはずだもの」
「えっ? でも、そんな私の寿命に誰かが何かしてくれるのかしら」
「ローズが、必要な存在なら、誰かが何かするわよ」
「ただの人族よ」
「ティアちゃんの役に立つわよぉ」
「私が? どうして?」
「ローズがアマゾネスの女王になれば、魔族との話し合いもできそうじゃない? クラスメイトに有力な魔族がいるものぉ」
「ルークさんのことかしら」
「うんうん、ルークは、大魔王の後継者よぉ。悪魔族は、百年後には、ルークが族長、つまり悪魔族の魔王になるわぁ」
「ええっ? 百年後のこと、もう決まっているの?」
「その一族で一番強い者が長になるのよぉ。ルークの父親が最有力って言われているけど、性格的に甘いのよ。長の器じゃないの。だからドラゴン族は、ルークが後継者だと考えているわぁ」
「そ、そうなの」
「ローズは、あたしと同郷だったから、ティアちゃんとしては、ローズは絶対に死なせたくないはずよぉ。それに、ローズが死んでしまうとパパが荒れるだろうから……うん、たぶんこれが一番重要かもねぇ」
「荒れるって? カバン……じゃなかった、リュックさんとは、別に何も特別な関係ではないわよ」
「ええ〜? あー、うーん、ふわぁ〜……そうだけどぉ〜」
なんだか、マリーは、何かと戦っているようにみえた。また、念話かしら? 一人で百面相をしている。
「とにかく、ティアちゃんはみんなが仲良く暮らせる星にしたいんだって。だからローズは、それでいいのよぉ」
「うーん、そう言われても……。私は何年くらい生きられるようになったの? アマゾネスには、どう説明すればいいのかしら」
「普通の神族は、同じ種族の10倍長生きだわぁ。ローズの場合は、その半分の半分くらいかな? 封印の影響が大きいみたいだもの。でも、傷ついた核は、街長なら修復できると思うわよぉ」
「そう。それなら普通の人族の2.5倍? 二百歳近い寿命があるのね。十分だわ」
「えー、やだぁ、あたしが大魔王になるまでは生きていてよぉ」
「マリー、大魔王になるの?」
「ルークの次あたりかなーって思ってるのぉ」
「それって何年後?」
「そうねぇ、早ければ五百年くらいかなぁ」
「そんなの無理よ」
「じゃあ、あたしと仲良くしてくれる女の子作ってよ。あっ! パパの子なら、あたしの妹よね? 完璧だわぁ」
「ちょっと待ってマリー、どのパパのこと? 私はリュックさんとはそんな関係じゃないわよ」
そう言っても、マリーはワクワクしていて、人の話を聞いてくれない。
(嫌な予感がするわ……)




