表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/124

82、まさかの大魔王

 テーブルには、ランチプレートのようなものが運ばれてきた。私の分だけ、メニューが違う。卵料理を中心とした胃に優しそうなものばかりだった。


「とりあえず、食おうぜ。ローズの二股疑惑の件は、後にしよう」


「アルフレッド、二股って……別に付き合っているわけじゃないんだから」


「ローズちゃんはアマゾネスだから、何人いてもいいんじゃないのか?」


 バートンは、フォローのつもりで言ってくれたのだろうが、フォローになっていなかった。アルフレッドやノーマンの視線が痛い。


「ローズは、探偵と怪盗のどこが好きなのじゃ? こないだチューをしたカバンのことはどうなのじゃ?」


 なぜか学生に混ざって、ランチプレートを食べ始めた猫耳の少女が、爆弾発言をした。


「ちょ、ちょっとティアさん!」


「ローズちゃん、チューって、何? 誰かとここで、キスしたってことなのか」


「バートン、勝手に……いえ、ちょっとぶつかったようなものよ」


「ふぅん……」


(な、何? ニヤニヤして……)


「もう、みんな、ローズさんが困ってるじゃない。そういう女子トークは、女の子だけでするもんなんだからね」


「じゃあ、妾も女子トークに混ざるのじゃ」


「いえ、あの、それより、ティアさん、なぜ私は城で倒れていたんですか。魔法袋に入ったせい?」


「ふむ。魔法袋のせいじゃ。妾はそっと運んだのじゃ」


「だから、城に着いたのね。城からここへは……」


「怪盗が適当な城兵をたぶらかして、運ばせたようじゃ。自分で運べばよいのに。訳の分からぬことを言っておった」


「ん? 訳の分からないこと?」


「ふむ。自分で運ぶと部屋を間違えるとか何とか……。おぉ! 自分の部屋に連れ込む気じゃったのかもしれんの」


「えっ!? 怪盗はこの街に住んでいるの?」


「当たり前じゃ! あ、いや、うーむ、なんだかややこしい話になっておるようじゃの。妾は……黙秘権じゃ」


(この街の住人なんだわ)


 猫耳の少女は、知らんぷりをしている。私の頭の中を覗いているはずよね。この街の住人で間違いないんだわ。



「ティアちゃん、なぜ怪盗に力を貸したんですか」


 ルークが真面目な顔をしている。そういえば、さっき、女神様と怪盗は仲が悪いと言っていたわね。でも、なぜそんな真剣な顔をしているのだろう?


「ルーク、おぬしが心配するようなことはないのじゃ。アイツは、まだまだ怪盗をして遊んでいたいはずじゃ」


「でも……協力したんですよね」


「仲良しになったわけではない。たまたま利害が一致したのじゃ。怪盗の受けた依頼は、女神が解決すべきことでもあったのじゃ」


「どういうことですか」


「はぁ、ルークを使って聞き出そうという魂胆か。大魔王もしょぼいのじゃ」


『なんだと?』


 突然、頭の中に直接声が聞こえた。念話だわ。しかも、嫌な感じがする声だった。


「知りたいなら、ここに来ればよいのじゃ。その代わり、ランチプレートのお代はすべておぬしが支払うのじゃ」


「ティアちゃん、ほんとに来ちゃいますよ」


 ルークが焦った顔をしている。来るって、まさか大魔王?


 ピンと、空気が張り詰めた。



 カランカラン



 店に入ってきたのは、40代後半くらいに見える男だった。威圧感が半端ない。店内は、シーンと静まり返った。


「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ」


 マスターは全く動じる様子はない。いつも通り、にこやかに客を案内している。


 その男は、ぐるりと店内を見回した。


「魔族が人族の機嫌をとって、ヘラヘラしているのか」


 店内のあちこちにいた学生が引きつった顔をしている。確かに魔族の男が、人族の女性と親しくしている。バートンの顔も引きつっていた。


「メトロギウス、やきもちか?」


「は?」


「まがまがしいオーラを垂れ流して、恥ずかしい奴じゃ」


「なんだと?」


「品がないのじゃ。この街では力のある者は、みなチカラを隠しておるぞ。ダサいのじゃ」


「ティア、おまえな」


「爺ちゃん、この街では種族の違いはただの個性だよ。街のルールに従わないと追い出されるよ」


「ルーク、俺を呼んだのはティアだろう?」


「でも、ルールは守らないと……」


 大魔王メトロギウスが、イライラしていることは私にもわかった。ティアさんは、なぜ、煽るようなことを言うのかしら。


「お二人とも、ケンカするなら出て行ってもらいますよ。ティア様、わざと煽るような話し方はやめてください。出入り禁止にしますよ」


「なっ!? なぜじゃ、妾は何も悪くないのじゃ」


「メトロギウス様、店がピリピリしてしまいます。オーラを隠してくださいませんか」


「なんだと? 死霊の分際で……」


「ここは僕の店です。他の方に迷惑ですから。従っていただけないなら、怒りますよ」


 マスターは、ニコニコとしながら、そんなことを言った。笑顔でそんなことを言っても効果なんて……あるのね。


 大魔王のまがまがしさがフッと消えた。チカラを隠したようだ。彼はマスターをキッと睨んでいる。


「うっかり者の死霊に、うっかり殺されてはたまらんからな。それで、ティア、何の用だ?」


(マスターって、そんなに強いの?)


「メトロギウスには言っておくことがあるのじゃ。話のついでに呼んだのじゃ」


 店内の客すべてが、ティアさんに注目していた。


「ティア、なぜ怪盗に力を貸したのだ? アイツとは仲が悪いのだろう? まさか、俺を騙していたのか」


「たまたま利害が一致しただけだと言ったじゃろ。アイツが受けた依頼が、あの妙なブラックホールの出現を阻止することに繋がるとわかったのじゃ」


「青の太陽系のゆがみか?」


「うむ、そうじゃ。時代も正確な場所もわからなかったがの。ゆがみが消えたのじゃ、正解だったようじゃ。妾が行って、そのあたりには、魔防バリアを張っておいたのじゃ」


「では、その調査はもう不要か」


「調査は不要じゃが……」


「なんだ?」


「うむ。ブラックホールの原因を作った奴らが、昨日処分されたらしいぞ。大勢が居場所を無くしたようなのじゃ。おそらく、この星に来るじゃろ。地上で暴れる奴は、神族が厳しく取り締まるのじゃ」


「嫌な予感しかしないが……」


「地底の魔族の国に、なだれ込むじゃろ。よろしくなのじゃ」


「おい、まさか、そいつら、神か?」


「そうじゃ。怪盗より、そいつらに地位を奪われぬように気をつけるのじゃ。十数人いるやもしれん」


(えっ? 怪盗は、大魔王の地位を狙っているの?)


「ティア、おまえ……」


「地底が退屈じゃと言うておったではないか。しばらくは賑やかになりそうじゃぞ?」


 大魔王は大きなため息をついた。だが、ギラギラとその目は好戦的に輝いている。


「強い配下を、俺にくれるのだな」


「邪神を配下にできるかは知らぬのじゃ」


「ふっ、邪神狩りだな。ドラゴン族より先に優秀な神々を捕まえねば。ティア、情報感謝する。それと、くれぐれもアイツを俺に近づけるなよ」


 なぜか大魔王は、最後の言葉をマスターに言ったように思えた。怪盗を近づけるなということよね? この街の住人だからといって、すべてを街長がコントロールできるわけないわ。やはり大魔王だけあって、無茶苦茶だわ。


 すると、大魔王が私をチラリと見た。目が合っただけで、背中を嫌な汗が流れた。


「爺ちゃん、ローズさんには世話になっているんだよ。算術を教えてもらっているんだ」


 ルークがそう言うと、大魔王の表情は急にやわらかくなった。孫をかわいがっているのだとわかる爺の顔だ。


「そうか……。ローズ、か。なるほどアマゾネスか。アイツの本性を知らぬようだな。どんな術をかけられているかは知らんが、やめておけ」


「えっ?」


「ルークの恩人なら悪いようにはせぬ。何か困ることがあれば、一度だけなら力を貸してやってもよい」


「ローズ、悪魔の言葉に耳を傾けてはいけないのじゃ」


「ふん、俺はアマゾネスのような小国には興味はない。まぁ、覚えておけ」


 大魔王は情報料だと言って、ティアさんに金貨を放り投げ、その場からスッと消えた。


(足がまだガクガクしているわ……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 猫に小判ならぬ女神に金貨… きっと菓子に化けるな…(*´・ω・`)b
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ