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81、二人とも好き

「とりあえず、ローズの飯だな。食べなきゃ元気にならないもんな」


「男子は先に店に下りて席を取っておいてよ。まさか着替えを覗くつもりじゃないわよね」


「そうだな、シャワーして着替えればスッキリするよ。俺達は先に店で席を取っておくか」


 そう言うと、アルフレッド達は部屋を出て行った。シャインくんが出て行くか悩んでいるようだったが、ルークが声をかけて、連れて行った。


「ローズさん、シャワーしてきて。着替えはある?」


「ええ、大丈夫よ。あ、あれ? 枕元に置いていた袋、知らない?」


「ん? 枕元? あ、これかな? 不思議な袋ね」


「それ、地球で怪盗が買ったのよ」


「えっ? 中を見てもいい?」


「ええ」


 シャラさんは、袋の中からコミック本を出して、変な顔をしていた。


「怪盗に、それは返さなきゃ。私が人質、じゃなくて、もの質にしていたの。シャワーを浴びてくるわ」


「あ、うん、待ってるね」


 私は、シャワーを浴びた。マスターにシャワー魔法をかけてもらったから、そんなに汚れている感じはしなかったが、熱いお湯はやはり頭がスッキリする。


 着替えて、部屋に戻ってくると、シャラさんはコミック本を読んでいるようだった。


「シャラさん、お待たせ」


「ローズさん、この絵本、いったい何? どうしたの?」


「だから、地球で買ったのよ」


「文字は全く読めないけど、なんとなくわかるわ。この男性が不思議な道具を使って敵を倒すのね。でも、なぜこの男性は、女性にハンマーで殴られているの?」


「あー、あはは、そういうコメディだから」


「ふぅん。劇場で公演されている芝居に似ているわ」


「そうなの?」


「うん、普段はダラダラしている男性が、実は凄腕のハンターだったという話よ。面白いらしいよ。男の子向けの芝居だから、私は見たことないけど」


「へぇ」


「ということは、さっきのローズさんの話は、夢じゃなくて本当のことなの? 私達も怪盗に会ったの?」


「ええ、本当のことよ。でも、みんな覚えていないのね。怪盗が記憶を消したのね」


「おとぎ話では、確かに仕事が終わるとみんな忘れるはずだけど、なぜローズさんは覚えているの? あ、でも、その話を聞いても、すぐに忘れてしまうのかな」


「どうかしら……」


 怪盗があのとき言っていたことは、嘘ではなかった。私の記憶は消さない、そう言っていたっけ。


(どうしよう、やっぱり私、怪盗のこと……)



「ローズさん、そろそろ店に下りましょう」


「そうね」


 シャラさんは、私にコミック本を渡してくれた。私は袋の中に買ったときのようにキチンと入れた。

 これを返すからという理由で彼を呼び出すのは……やはり、おかしいわよね。




 シャラさんの後について、私は1階のバーへと下りた。私には時間の感覚がなかったが、店はカフェ時間のようだった。


(カフェタイムなのにマスターがいるの?)


 私の姿を見て、マスターはふわりと微笑んで、自らクラスメイトが座っている席に案内してくれた。


「ローズさん、体調はいかがですか?」


「ええ、もう大丈夫よ。雑炊おいしかったわ」


「お口に合ってよかったです」


「マスターは、カフェタイムはお休みじゃないの? もしかして、私が眠っていたから居てくれたの?」


「まぁ、それもありますが、カフェタイムに来客もありましてね」


(やはり、私が心配させていたのね)


「私は、どうやって戻って来たのかしら? 怪盗のことを、クラスメイトは忘れているのよ」


「ローズさん、怪盗のことは一部の人以外は忘れてしまうようです。貴女が忘れていないなら、それは彼が……いえ、僕の予想を話しても意味ないですね、すみません」


(彼が、私が忘れないようにしたということね)


「マスター、私は女神様の城で倒れていたと聞いたわ」


「あー、シャインですか。口止めされていたのを忘れているのですね……。困った子ですねぇ」


 マスターのその声に、少し離れた場所に居たシャインくんがパッとこちらを向いた。驚いた顔をしていたかと思うと、みるみるうちに目に涙がたまってきた。


「いえ、シャラさんから聞いたのだけど……」


 シャラさんを見ると、苦笑いをしていた。なるほど、シャラさんは、シャインくんから聞いたのね。

 シャインくんは叱られると思ったのか、口をへの字に曲げている。目にたまった涙は決壊寸前だった。


(ふふっ、かわいい)


 その様子にマスターも苦笑いをしていた。


「みんな、私がうっかり女神様の城へ行ってしまったと思っているみたい」


「ローズさんの症状は、キツイ転移酔いでしたからね。僕もいまだに転移魔法陣を使うと、長距離移動だと失神します」


「そうなの?」


「はい。ワープなら大丈夫なのですが……。女神様の転移魔法は揺れるんですよね。転移魔法陣はすべて女神様が作ったものだから……」



 タタタと誰かが近づいてくる足音がした。


 振り返ると、そこには不機嫌そうな顔をした猫耳の少女がいた。


「何じゃ? 妾にケンカを売って……な、なんでもないのじゃ」


「ふふ、やはり、この方が早いですね」


 そう言うとマスターは、ぺろっと舌を出した。猫耳の少女は、しばらく私達をジッと見ていた。チッと小さな舌打ちが聞こえたような気がしたが……。


「なんじゃ、みんな、妾のことを知っておるではないか。我慢して損したのじゃ。ライトはしょぼいのじゃ」


「ティア様、何をぶつくさおっしゃっているんですか。ローズさんが、なぜ、城にいたのか知りたいそうです」


 マスターがそう言うと、クラスメイトはこちらに注目した。シャインくんはまだ目に涙をいっぱいためている。


「シャインがバラしたのじゃな。秘密だと言うたではないか」


「ティアちゃん、シャインは隠し事なんてできないですよ。俺の頭の中からも、怪盗に依頼したはずの記憶が消えているんですが……」


「ルークもまだまだじゃな。消されたくなければ、アイツを超えればよいだけじゃ。アイツの記憶操作能力などしょぼいのじゃ」


「ということは、やはりローズさんは怪盗に依頼して、それが解決したのですね。地球がどうとか言っていましたが、ローズさんは、その場所との移動で転移酔いになったんですね」


「なっ!? ッチ」


「ふふ、ティア様もしょぼいですねぇ。ルーク様の誘導尋問に簡単に引っかかってしまいましたね」


 ティアさんは、マスターをジト目で睨んでいた。でも、沈黙は肯定ということね。


「ローズ、違うのじゃ。アイツがひどいのじゃ。おなごを魔法袋なんかに入れるからじゃ。妾は、揺れないように気をつけたのじゃ」


「えっ? なぜ、ティアさんが出てくるの? あ、もしかして、私をここに戻してくれたのは女神様?」


「そうじゃ。アイツには、地球を往復する魔力くらいしかないからの。じゃが、星の消滅を防ぐにもかなりの魔力が必要じゃ。妾が迎えに行ってやったときは、魔力切れ寸前だったのじゃ」


「女神様が迎えに?」


「ちがーう! 妾はティアじゃ」


「ティアさんが迎えに?」


「うーむ。女神の姿で行ったのじゃ」


(ん? えーっと……)


 私は返事に困っていると、マスターは苦笑いをしていた。女神様っていつもこんな感じなの?



「なぜ、ティアちゃんが迎えに行ったんですか? 怪盗とは仲が悪いんじゃ……」


「ルークはアイツの正体を知っておるのじゃな。他の子は知らぬか。まぁ、知ったとしてもすぐに記憶を消されるじゃろうが」


(やはり、ルークさんは知っているのね)


 私は、少しドキドキした。ルークを経由すれば彼と会えるのかも……いや、それなら、なぜ、謎解きを一緒にしたのかしら。


 女神様とルークさんがパッと同時に私を見た。


「ローズさん、俺は彼を怪盗として呼ぶ方法は知らないです。普段、どこにいるかもわからないですし」


「そ、そう。また思念が漏れていた、のね……」


「ローズさん、まさか怪盗を? 探偵事務所の所長さんのことが好きだったはずでは?」


「ローズ、二股か?」


 アルフレッドは目を見開いている。


「いえ、えっと……」


(そうだわ、私、二人とも好き……だわ)



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[一言] ローズさん江 つアテント様…(*´・ω・`)b
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