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76、懐かしい街、怪盗とショッピング?

『では、キーホルダーを盗りに行きましょうか』


 そう言うと、怪盗は、私を再びお姫様抱っこした。そのまま、スーッと、地球に吸い寄せられるように落ちていった。


(ええっ! 大気圏で……燃えてしまうわ)


 私は思わず、彼にしがみついていた。落ちていく感覚が消え、目を開けると、そこは健とよく話をしていた海辺だった。

 夜だから海は真っ暗だけど、灯台の灯りで、ここがあの場所だとわかったのだ。


 怪盗は、私に何かの術をかけた。すると私を覆っていたバリアが、パリンと割れた。バリアが無くなると、潮の香りがした。はぁ、懐かしい。夜が暗いのも懐かしいわね。




「懐かしいですか。私はこの星の、この時代は初めてです。この街も来たことがないかな」


 初めて怪盗の声を聞いた。どこかで聞いた声だと思い、振り返って、私は驚いた。あのマスターなの? でも、なんだか、少し違う?


「えーっと、ダメでしたか? じゃあ、別の人に化けようかな」


「い、いえ、ダメではないけど。アナタって何者なの? マスターのお兄さん? それに言葉を話せるの?」


「ふふ、それは秘密です。正体を知られるといろいろ面倒なので、記憶を消すことにさせてもらっています。だから、詮索しないでください。言葉は、イロハカルティア星の共通語は話せますよ」


「そう、わかったわ」


「それから、これを飲んでください。マスターから買ったポーションです。体調不良が治るはずです」


「これ、伝説のクリアポーションじゃない!」


「ふふ、マスターは伝説のポーション屋ですからね。でも、これはあの店の自販機で売っていますよ」


(なるほど、いつも売り切れの自販機ね)


 私は、蓋を開けて少し匂いを嗅いだ。ポーションは上質なものでも、胃薬のような味がする。でもこれは、レモンのような香りがする。


 私は一気に飲み干した。体力も回復され、不調も吹き飛んだ。それに美味しい。フルーツエールみたい。


「カクテル風味だそうですよ。何のカクテルか、わかりますか?」


「フルーツエールかと思ったけど……パナシェかしら?」


「おっ、正解です。さすが、マスターと同郷なだけありますねぇ」


「そう? でも、なんだかマスター似の人にそんなことを言われると、変な感じだわ」


「じゃあ、別の人の姿に……」


「そのままでいいわ。親しみやすい感じだもの」


「そうでしょう? それを狙ってみたんですよ」


 そう言うと、彼はニカッと笑った。この笑い方、健とそっくり。それに先輩も、それから所長も、ついでに失礼なカバンも……。


 私は、この少年のような笑顔が好きなのかもしれない。すべての元凶は、幼馴染の健か……。いや、でも失礼なカバンのことは別になんとも思っていない。この笑い方をする人、すべてを好きになるわけでもないわね。



「では、ここからは、旅行者という設定でいきましょうか」


「ええ、わかったわ」


「私も、この国の言葉はだいたいわかりますが、ボロが出ないようにカタコトの日本語にしておきますね、ふふ」


「なんだか、怪盗さん、楽しそうね」


「楽しいですよ、素敵なお嬢さんとデートができて。ローズさんと呼んでも構いませんか。私のことは、アールで」


(デート!?)


「構わないわ。確かに怪盗さんと呼ぶのもマズイわね」


「まぁ、言語が違うので、わからないでしょうけどね」



 私達は海辺を離れ、街へと向かった。あの日と同じ景色だわ。私はあちこちの風景を目に焼き付けた。もう、この景色を見ることはできない。


 一度くらいは、タピオカミルクティを飲んでみたかったわ。それに、新しくできたあの商業施設にも行ってなかったわね。


 懐かしい景色とともに、いろいろな記憶が蘇ってきた。私はずっとこの街で暮らしてきた。もう戻ることはできないのよね。私は、もう美優ではない、ローズなんだから。


「ローズさん、あの大きな店には本屋はあるでしょうか」


「えっ? あの商業施設? あると思うわ」


 すると、彼はニカッと笑った。何かを思いついたのかしら。彼は、少しキョロキョロとしていたが、何かを見つけると、私の手をつかんで歩き出した。


「アール、どこへいくの?」


「私はこの世界のお金を持っていないんですよ」


「あっ! 私も日本円なんて、持っていないわ」


「ふふ、でも大丈夫です。いい店を見つけました。話を合わせてくださいね」


 そう言うと、彼は悪戯っ子っぽく笑った。そして連れて行かれたのが、質屋だった。


(なぜ、質屋? 私は行ったことなんてないわ)



 扉を開けて店内に入ると、店員さんがこちらを見て怪訝な顔をした。そりゃそうね、日本人から見れば、怪しい外国人だわ。


「あの、換金、デキマスカ」


 彼は、ほんとにカタコトな日本語を使っている。


「何を換金されたいのですか」


「これ、デス」


 彼は、金色の指輪を出した。小さな石が付いている。店の奥から、店主らしきおじさんが出てきた。この人も私達を変な目で見ている。客に対する態度じゃないわね。


『ローズさん、こんな感じで大丈夫ですか? 私の言葉は』


(ええ、カタコトの日本語、上手ね)


 念話って便利だわ。言葉を発しなくても伝わる。彼は私が褒めたことが嬉しかったのか、ニコッと笑った。


「あんたらは観光かい? なぜ、指輪を換金したいんだ」


 そう言いながら、おじさんがルーペで指輪を見ていた。


「財布、なくした、のデス」


 その言葉で、店主は警戒を解いたようだ。


「なるほどな、気の毒に。じゃあ、なるべく高い値で買い取らせてもらうよ。純金のダイヤのリングか。プラチナならもっとよかったんだけどな」


 結局、ぼったくられている気もするけど、2万円という買取価格がついた。すると彼は、ブレスレットも出して店主に渡した。キラキラとした宝石がはめ込まれている。こちらには、5万円の価格がついた。


「もう失くさないようにな」


 サービスだと言って、財布もつけてくれた。売れない質流れ品なのだろう。ブランド物の少し古い財布だった。




 店を出ると、彼は嬉しそうにしていた。


「アール、どうしたの?」


「この時代って、お札の顔が違うのですね。私が知っている時代のお札は、聖徳太子という人の顔が描かれていたんですよ」


「へぇ、それって昭和のお札かしら? 見たことがないわ」


「五千円札や、千円札や、五百札も、お札の顔が変わっているのかな。ワクワクしますよ」


「そ、そう? ん? 五百円札なんてないわよ。五百円は硬貨よ?」


「えっ!? 百円硬貨より上の硬貨が作られたのですか! それは、ぜひ入手しなければ」


 彼はとても楽しそうにしていた。あ、そっか。怪盗だから、収集癖があるのかもしれないわね。


「さっきの換金したアクセサリーは、よかったのかしら」


「ええ、構いません。買い物用に持っているものです。お金だと、場所が変わると使えないので、私達のような仕事をする者は、だいたい貴金属などを換金して現地の通貨を得るんですよ」


「へぇ、なるほどね」

 


 ふと、彼は空を見上げた。しばらく黙って何かを確認しているようだった。また、魔法攻撃が降り注いでいるのかしら。


「ローズさん、美優さんは何時頃に、あのバーに行かれたか覚えていませんか」


「えーっと、うーん。あ! テレビの臨時ニュースを見たわ。確か、夜10時以降の番組だったはずだわ」


「では、まだ時間がありますね。あの大きな店に行って、ゆっくり見て回れそうです」


「そうね」


 私達は、来た道を戻り、大きな商業施設へと入って行った。ショーウィンドウに映った私達は、恋人同士に見えた。


 店の中を歩いて気づいたが、私達は日本人より少し背が高い。たまに振り返って見られたり、スマホで隠し撮りされることもあった。彼は全く気にしていないようだったが、元日本人の私は、少し戸惑いを感じた。


「ローズさん、私に協力してください」


「何を?」


「五百円硬貨と、五千円札と、千円札を手に入れたいのです」


「ふふっ、わかったわ。買い物に付き合えばいいのね」


 そう言うと、彼は少し照れたような笑顔を浮かべた。


(ふふ、かわいい)



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― 新着の感想 ―
[一言] 昭和経験者だったら確かに紙幣コレクションは楽しいだろうな… つ二千円札 つ記念硬貨 つギザ10 つ不良硬貨 一説に依ると不良硬貨(穴の開いてない硬貨)は不幸を呼ぶって話しも有るんだけどね……
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