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74、約束の夜

 所長が、依頼書の作成のために、応接室から出て行った。少し待っていると、また、アルフレッドが入ってきた。


「ローズ、依頼案件Cらしいぞ。マズイぜ」


「依頼案件Cと言われてもわからないわ」


「難易度だ。A、B、Cの三段階の一番難しい案件だよ。高いぞ」


「えっ……どうしよう」


「ま、まぁ、分割払いできるし、ギルドミッションを受けてガッツリ稼げば……そのうち払える、かも」


「そんなに?」


「広域の現地調査は、かなりの人数を使うことになるからな。あ、俺は内容は聞いてないから、安心しろ」


「そう……別に聞いてくれても構わないわよ。アルフレッドはクラス長だし、信頼しているわ」


「ええっ? マジか。というか、なんだかやめろよ。ローズがそんなことを言うなんて、不吉だぜ」


「どういうこと?」


「今夜、時空を超えるんだろ。そんな、らしくないことを言われると、逆に不安になるじゃないか」


(もしかして、死亡フラグ?)


「あのねー」


「うわっ、おっかねぇ顔〜。ローズはそれでいいんだよ」


(意味がわからないわ)


 私が、いつもらしくないというアルフレッドなりの気遣いかもしれない。だけど、言葉選びが……まぁ、いいわ。




 所長が部屋に戻ってくると、それと入れ替わるようにしてアルフレッドは出て行った。


「依頼書です。これでよろしければ、こちらにサインをお願いします」


「わかったわ」


 私は、依頼書にさっと目を通した。アマゾネスの周辺国の調査のみの依頼書になっていた。その結果を受けて、次の依頼書をという形になっている。

 書類の整理番号のようなところに、Cという文字が見えた。これが、さっきアルフレッドが言っていた依頼案件Cということね。


 そして問題の依頼料は、手付金が銀貨30枚、あとは実費となっている。手付金は足りるが、実費ってコワイわね。


「周辺国の調査のみなのね」


「ええ、もし神族に使者を依頼するなら、これには依頼料はかかりませんからね。おそらく、この事案はそうなると考えています」


「そう、わかったわ。依頼料の実費というのはどれくらいになるのかしら」


「文字通り、実費なんですが、ギルドに護衛の冒険者を依頼して、1つのグループで調査をするつもりです。ですので、冒険者へ支払う料金と、ウチの探偵の出張代などです。おそらく、金貨3枚程度になるかと」


「えっ? 意外に安いのね」


「ふふっ、実費のみいただきます。ローズさんは、アルのクラスメイトなので、お友達割引ということで」


「そうなの? 助かるけど、経営は大丈夫なのかしら」


「ご心配ありがとうございます。今回は神族が調査すべき案件とも言えるので、そちらにも請求しようと考えていますから、大丈夫ですよ」


「それなら、よかったわ」


「ウチの探偵には、アマゾネス国に害を与える可能性のみを調査させます。神族の調査だと、そのような偏った調査はできませんからね」


「なるほど、探偵って面白そうね」


「ええ、面白いですよ〜」


 所長は、ニカッと、少年のような笑顔を見せた。なんだか、かわいい。私は彼のいろいろな顔を知るたびに、ますます魅かれていく自分にハッとした。


(私はアマゾネスなのよ、こんな感情は抱いてはいけないわ)



「えっと、ローズさん、サインをお願いできますか」


「あ、そうね、ぼんやりしていたわ」


 私はサインをして、そして依頼料の手付金として、銀貨30枚を支払った。


「確かに、依頼を承りました。結果報告は、2週間後くらいになるかと思います。その頃、またお越しください。あ、そうだ、結果が出たら、アルに伝言を頼みますね」


「ええ、わかったわ。よろしくお願いするわね」


「はい、ご依頼ありがとうございます。お任せください」




 無事、依頼が完了し、事務所を出ようとすると、アルフレッドがまた近寄ってきた。


「ローズ、いくら足りないんだ? 依頼料はいくら?」


「えっ? えーっと、実費でということだったわ。金貨3枚くらいになるそうよ」


「マジか!? めちゃくちゃお友達価格じゃねぇか。それなら、ダンジョン2〜3回もぐれば稼げそうだな」


「そうね。アルフレッドのクラスメイトだからって」


「こらこら、アル。ローズさんは、依頼主なんだから、事務所内では、お客さんとして対応してくれないかな」


「あっ、そうでした。所長、すみません」


「ふふ、謝る相手を間違えてますよ」


「うっ、ローズ、悪い」


 私は、アルフレッドがしょんぼりする様子がおかしくて、ついニヤニヤしてしまった。所長を見ると、私達の様子を交互に見て微笑んでいた。


(優しい笑顔ね……)


「じゃあ、失礼するわ」


「あっ、ローズ、帰ったらさっさと寝ろよ?」


「なぜ? まだ、昼前よ?」


「夕方まで寝ておけよ。時空を超えるなんて、かなり身体に負担がかかるぜ? 転移の何倍も負担がかかるはずだ」


「そ、そう。じゃあ、寮に戻って少し仮眠するわ」


「あぁ、その方がいい」




 私は、探偵事務所を出て、寮に戻った。寮の入り口には、食堂からいい匂いが流れてきていた。


(昼食を食べておく方がいいかしら)


 私は、食堂で軽い昼食を食べてから、自分の部屋へと戻った。そして、ベッドに横になった。


 いろいろなことが頭をよぎった。ミューに会えなかったことが、やはり心残りだった。いま、どこで何をしているのだろう。

 ミューは、私の精神安定剤のような役割を担っているのだと実感した。すぐ会える場所にいるときには、何ヶ月会わなくても平気だった。でも、会えない状況になると不安になる。


(幼い頃と一緒ね……成長しないわね)


 ミューのことを考えていると、いつの間にか眠っていた。



 久しぶりにあの夢をみた。私は中学生くらいだろうか。幼馴染の健が、なぜか私の家にいた。私の母とつまらない冗談を言って笑っている。


 なぜか私は怒っていた。あー、そうか。これは、健が私と同じ高校を受験すると言いにきた日だ。


 私は、私のことをよく知る人達と離れたくて、隣町の高校を受験することにしたんだ。それなのに、健も受けるというから、怒っていたんだっけ。


 結局あれは、今思えば、アイツの思いやりだったのかもしれない。あの頃の私は、人嫌いだった。信じていた親友に裏切られてから、誰の言葉も信じられなくなっていた。だから、誰も寄せ付けなかった。そんな、荒れていた頃だ。


 夢の中なのに、あの夢のときは、私はいつも傍観者だ。もう別の人間だからということなのだろうか。私は確かに、もう美優ではない。私は……。




『お嬢さん、そろそろ行きましょうか』


(えっ?)


 私は頭の中に直接響いた声に驚いて、飛び起きた。まわりを見回してみたが、誰もいない。


(あれ? 夢かしら)


『ふふ、夢ではありませんよ。お約束の時間になったので、お迎えに来ました。寮の入り口でお待ちしています』


(怪盗アール? もうそんな時間……すぐに行くわ)



 寝ていたことがバレた恥ずかしさで、私は顔が熱くなった。そして慌てて、服を着替えた。一応、持っている服の中で、日本にいても違和感がないものを選んだ。


(顔がそもそも日本人じゃないけどね)


 それに、日本に降り立つかはわからない。できれば、自分と会いたい。でも、それは禁じられていることなのかもしれない。



 私は、部屋を出て、寮のエントランスで、長期外出のメモを残した。じゃないと、また寮長が心配してうるさい。


 そして、寮から出た。だが、入り口にいると言っていた怪盗の姿はなかった。


(あれ? 入り口って言っていたわよね)


 私は、そのまま、数歩、歩いた。すると身体がふわっと浮上する感覚を感じた。


(えっ!? どういうこと)


 私の足元には、湖に浮かぶ街が見えた。


『さぁ、お嬢さん、参りましょう』


 ふわっと、私は何かバリアのようなものに包まれた。そして、怪盗が私の真横に現れ、私の手を取った。


「ええ、お願いね」


 怪盗は、口元にやわらかな笑みを浮かべた。その次の瞬間、強い遠心力のような圧迫感を感じ、私の視界は真っ白になった。



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[一言] 最後の食事になるかもだから美味しい物を食べたら良かったのに…(*´・ω・`)b
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