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71、マリーの父親の一人は

 目が覚めると、私は、強烈な空腹を感じた。


(いつの間に眠ったのかしら)


 長い昼寝をしてしまった。今朝は朝食を軽く食べただけで、昼食は食べていない。


 私は食堂へと下りていった。


「あ、晩ごはんは、もう片付けてしまったよ。簡単なものならできるけど」


「えっ? じゃあ、外で食べてくるわ。ありがとう」


 食堂は、寮生が自由に過ごしているようだったが、食事時間は終わっていたらしい。


(長すぎる昼寝だったわね)



 外に出て、私は驚いた。虹色ガス灯は深夜を示す紫色だった。空は、赤い太陽が沈みかけている。赤い太陽が沈み、黄色い太陽が昇ると、朝になる。


(一体、何時間寝たのかしら……)


 私は自分で自分に呆れた。晩ごはんは、片付けられていて当然の時間だわ。


 こんな時間に晩ごはんが食べられる店といえば、やはり、あのバーしかないわね。マスターにも、明日……じゃなくて、もう今夜ね、地球へ行くことを話しておく方がいいわね。


 そういえば、寮の管理人をしていると言っていたマリーにも伝える方がいいかもしれない。彼女も、地球からの転生者だ。


 とはいえ、マリーがどこにいるのかはわからない。魔王の娘なら、ふだんは地底の魔族の国にいることが多いのかしら?


 彼女は40代だと言っていたけど、その姿はまだ子供だった。種族的に子供なら、親元にいるのだろうか。


(さすがに魔族の国には気軽に行けないわね)




 カランカラン



「いらっしゃいませ」


 マスターは、やわらかく微笑んでいた。


「こんばんは。あの、食事をしたいのだけど」


「かしこまりました。何か、ご要望はありますか」


「和食が食べたいわ。と言っても急に米は無理よね」


「炊きたてなら時間がかかりますが、保存してある分でよければ、すぐにご用意できますよ」


「それで構わないわ。明日の夜、地球に行くのよ」


「えっ? あー、なるほど……依頼されたんですね」


「ええ。同行させてもらうことにしたんだけど、ルークが危険だって……。ルークは怪盗の正体を知っているようだったわ」


「へぇ、怪盗は自分の正体を知られると、その部分の記憶を消すそうですが……ルーク様は、賢いですからね」


「マスターも怪盗の正体を知っているのね」


「ふふっ、ええ。一度捕まえて、投獄したことがありますからね。それ以来は、無謀なことはしなくなったみたいですけど」


「そう……」


「お待たせしました。ちらし寿司と味噌汁です」


「わおっ、 まさかのちらし寿司?」


「ちょうど、お刺身にできる魚があったものですから。味噌汁は魚のアラを使った赤だしにしました」


「すごいわ、お寿司屋さんみたいね」


「ありがとうございます。最近、困った猫さんが、寿司を覚えてしまいましてね……。ブツクサ言われながら、いろいろと改良しているんですよ」


「ふふっ、彼女、可愛らしいけどマスターには文句が多いわよね。きっと、甘えているのよ」


「そうでしょうか。初めて会ったときから、彼女は、むちゃくちゃなことばかり言う人なんですよー」


 そう言うと、マスターは昔のことを思い出したのか、遠い目をしていた。懐かしいのね、きっと。



 ちらし寿司は、少し甘めだった。一緒に出されたしょう油を少しかけると、ちょうどよくなった。


 魚は、サーモンとイクラとタイのようなものが、散りばめられていた。中からは煮穴子のようなものも出てきた。錦糸卵、そして紅ショウガがのっていた。


「サーモンとイクラとタイ?」


「それに近いものをすぐそばの海で、冒険者の方々に漁をしてもらっています。うなぎみたいなのは、この湖に生息しているんですよ。紅ショウガは昭和の日本で仕入れたものみたいです」


(あ、穴子じゃなくて、うなぎ)


「特殊な仕入れは、あの濃い顔の人よね」


「確かに、ほりが深いですね。ええ、リュックくんも仕入れにつきあっているので、細かな注文が可能なんです」


「へぇ。あ、確かに紅ショウガは、スーパーで売ってるような感じね」


「はい。保存料が入っているのが、ちょっと不評なんですが、さすがに紅ショウガまでは作る気になれないですから」


「ふふっ、確かにね。美味しかったわ、ごちそうさま」


「食後のお飲み物はいかがいたしましょう?」


「もしかして、日本茶があるとか言う?」


「えっ! な、なぜわかったのですか。はい、緑茶を買ってきてもらったのですが、皆さんには苦いと言われまして」


「じゃあ、いただこうかしら」


「はい、喜んで」


「ふふ、なんだか居酒屋さんみたいなかけ声ね」


「あはは、気づいていただけて嬉しいです」


「わざとなのね」


 するとマスターは、悪戯が成功した子供のような顔をした。なんだか、かわいいわね。




 カランカラン



「マスター、パパはどこ?」


 勢いよく入ってきた女の子には見覚えがあった。


「あら、マリー。ちょうど話したいことがあったのよ」


「ローズだぁ〜。夜更かしは、お肌に悪いわよぉ〜」


「それを言うなら、マリーもでしょ」


「あたしは、基本、夜行性なのよぉ」


 私達が普通に話していると、店にいた客の注目を集めていた。うるさかったかしら?


「なんだか注目を集めちゃったわね」


「いつも、みんなに見られるわよぉ? でね、あたしが見ると目をそらすのよねー」


 確かに、マリーが見回すと、みんな目をそらした。そういえば、自分に文句を言う人はいないとか何とか言っていたかしら。


「マリー様も、お茶いかがですか? 緑茶が手に入ったんですよ」


「えっ? 日本茶? 冷ましてくれたら飲むわよぉ。それより、パパがどこに行ったか知らない?」


「うーん、僕は何も聞いていないですが……」


「え〜、ママを説得してもらおうと思ったのにぃ」


 マスターが、私とマリーに緑茶をいれてくれた。マリーの分は、魔法で冷ましていたようだ。


「マリー、何かあったの?」


「たいしたことないの、それよりローズの話って何?」


(話したくなさそうね)


「例の星の件なんだけど、明日の夜、いえ、もう今夜ね、私、怪盗に同行して地球に行ってくるわ」


「ええ〜っ? こんなところから行くの? 怪盗って何者? 時空を超えて往復するほどの魔力あるのぉ? いやいや、往復だけじゃなく、戦乱を止めることなんて不可能だわぁ」


「準備時間が欲しいと言われたから、何かの準備をしているんだと思うわ」


「無謀すぎるわよ。帰還石が必要だわぁ。マスター、時空を超えるものが発明されていたりしない?」


「うーん、帰還石は同じ星の上で使うことしか考えられていないと思いますよ。まぁ、でも、怪盗さんは、昨夜、魔ポーションを買いに来られたので、必要量を売りましたけどね」


「魔ポーションがあるなら大丈夫ねぇ」


「えっ? マスター、怪盗は魔ポーションが効かないのではないの?」


「ローズ、何言ってるのぉ? ポーションは神でも効くわよ。効かないのは、完全耐性がある一部の種族だけよ」


「他の星からの移住者とのハーフなら、ポーションが効かない人もいると聞いたわ」


「ん? そうなの? あー、呪術系ならそれもあるかな。あと、魔人も効かないわね。魔人は、親というか主人の魔力しか吸収できないように、創られた種族だからねぇ」


「主人や親?」


「そそ、主人というより親だわぁ。ミルクをもらって赤ん坊が育つように、魔力をもらって育つからねぇ」


「へぇ、詳しいのね」


「まぁね、あたしの父親の一人は、魔人だからぁ」


「ええっ?」


「あれ? 前に話さなかったかしらぁ? 父は何人もいるのよぉ。あたしは、何人かの種族の遺伝子のいいとこどりした感じだから」


「そ、そう」


「あたしが一番気に入ってる父親は、その魔人なのよぉ。能力はほとんど受け継いでいないみたいだけど、性格が似てるって言われるのー。それに、一番カッコいいし」


「もしかして、リュック、さん?」


「うふっ、そうよぉ。ローズに会ってわかったわぁ。あたしもローズを気に入ってるから。父はファザコン? いやマザコンなのよね。マスターに育てられたから、地球からの転生者は、みんな好きみたい」


(えっ……マリーは、カバンの娘?)



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― 新着の感想 ―
[一言] このチラシ寿司は寿司屋で出るようなやつですね…(゜-゜)(。_。)(゜-゜)(。_。) でも刺身を容れないチラシ寿司の方が好きです…(*´・ω・`)b
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