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7、妙なこだわり

「ローズ王女がいらっしゃいました」


 大広間には、たくさんの着飾った来客がいた。この国の有力者達だ。

 私は、騎士の正装を身にまとい、マントをなびかせて、女王陛下の元へとスタスタと歩いていった。

 近衛兵が誘導し、来客達はサッと私が通る道を空けた。


「ローズ、こちらへ」


「はい、女王陛下」


 母は、私の正装した姿を感慨深げに少し眺め、そしてその視線を、近衛兵および来客達へと向けた。


「我が娘、ローズは本日16歳の成人となりました。よって、ローズを次期女王候補として正式に任命します。継承は慣習に従い、ローズが35歳となったとき、もしくは私の命が尽きたとき、いずれか早い方となりましょう」


 私は、女王陛下にかしずき、受諾の意を表した。


 その瞬間、ワッと歓声が上がった。




「お集まりの皆さんへ、もう一人の娘のお披露目もいたしましょう」


 母がそう言うと、母の後ろから、まだ赤ん坊の妹を抱いた先輩が現れた。先輩も騎士の正装を身に着けていた。ただ、男性用のものにはマントがないのだが…。


 これは、妹のお披露目というよりは、その父親のお披露目の意味の方が強いような気がする。


 来客達はコソコソと、いろいろなことをささやいていた。ほとんどが、先輩に対するねたみや嫉妬のような言葉だった。



 ダンッ!!


 私は、剣の鞘で、床を強く叩いた。


 剣を使って床を叩くという行為は、アマゾネスの国では、うるさい、黙れ、という意味を持つ。

 私の行為に、来客達はシーンと静まり返った。


「あら、ローズの方が先に怒るとは意外だわ」


 母は、チラッと先輩の方を見た後、来客達へ向き直った。来客、すなわち、この国の有力者達は、母の言葉を待っていた。



「皆さん、予想外だったのでしょうね。彼は低い身分ではありましたが、私の血を引く娘の父親となりました。これより、彼の身分に関する誹謗中傷は許しません」


 凛とした母の、女王陛下としての言葉に、来客達は口を閉ざした。まだ恨めしそうな顔をして、先輩を睨んでいる男達もいたが…。


「それと、ローズ。16歳を迎えた今、貴女の伴侶選びがどうなっているのか、この場でキチンと説明しなさい。貴女のお祝いにと駆けつけてくれた皆さんが、最も気にしていることですからね」


「かしこまりました、女王陛下」



 私は、手に持っていた剣を左腰に下げ、母の側へと近寄った。母の立つ場所には、拡声用の魔道具が置かれている。私は、拡声用の魔道具の前に立った。


「ローズ・シャリルでございます。本日16歳の成人となりました。お祝いに駆けつけてくださった皆様、ありがとうございます。そして、正式に次期女王としての命も承りました。今後も、より一層の努力をしていきたいと思います」


 わーわーと歓声が上がった。私はその声を、手をあげて静めた。そして、来客をぐるりと見渡した。


 着飾った有力者達は、若い男を連れて来ている人が多かった。護衛の下僕なら、この大広間に入ることはできない。おそらく、私への売り込みだろう。

 私が目を向けると男達は、みな緊張した様子で、私の方を真剣な表情で見ている。



「私の伴侶選びについてですが、私には三つの条件がございます。それゆえ、いまだ一人も選んでおりません」


 そう話すと、私を見るたくさんの目が、私の言葉に集中するのを感じた。一言も聞きもらさないようにしようとするかのように、この大広間は、シーンと静まり返った。

 これなら、拡声用の魔道具は不要かもしれない。


「まず、一つ目の条件は、私と会うこと。会わずに肩書きだけで決めることなどできません」


 来客達は安堵の息を吐いている。連れてきてよかったわと言う声も聞こえる。


「次に、二つ目の条件は、私に意見を言うことのできる者。何でもはいはいと従うだけの小心者は嫌いです。私に意見を言う覚悟のある者でなければ、側に置く意味がありません」


 これには、どよめきが起こった。普通とは逆の条件だ。男が女性に意見を言うことは、下手をすればその場で斬り殺されても仕方のない、非常に無礼な行為だとされている。


 だがこれは、男達の気持ちの切り替え次第でなんとかなることだ。斬り殺されるかもしれない、という恐怖への覚悟を持てばいいだけだ。


 しばらくすると、この場にいる男達は、その母親達に何か言い聞かされたのか、思い詰めたような覚悟を持った表情を浮かべる者が増えてきた。


(ふっ、いい目をしている者もいるわね)


「最後に、三つ目の条件は、私より強き者、もしくは私より何か秀でた才能を持つ者。私は、弱き者にかしずかれることには飽きました。私が嫉妬を感じるような、才能を持つ者にしか興味はありません」


 私がそう言うと、大広間はシーンと静まり返った。女性達は、驚きで言葉を失っているようだ。男達は、肩を落としている。自分に自信がない証拠だ。



 母は、盛大なため息をつきつつ、ニヤリと笑った。何かを画策しているときの表情だ。私が母を見ていることに気づくと、母は手で私に下がるようにと指示した。


 私は、拡声用の魔道具の前から、後ろへ下がった。



「ローズ、なんだか、アルのことが欲しいと言っているように聞こえるわね」


(なっ……まさか、気づいているの?)


「お母様、先輩は私の妹の父親ですわよ」


「だって、今の条件に当てはまるのは、アルくらいしかいないじゃないの?」


「そうかしら? まぁ、女の子を授かるとわかっていたなら、先輩を伴侶にすると予約しておけばよかったわね」


「貴女との間に、女の子ができるとは限らないわよ」


「ふっ、まぁそうね」



 母は、やれやれという呆れ顔を作り、拡声用の魔道具の前に立った。妙な雰囲気になっていた来客達だが、女王陛下に目を向け、その言葉を待っていた。


「皆さん、ローズが伴侶を選んでいない理由が、おわかりになりましたか」


 来客達は、頷きながらも、シーンとしている。


「次期女王は、一瞬で皆さんを凍りつかせてしまいましたね。困ったものです」


 そう言って母は私の方を向いた。拡声用の魔道具を使って、公開説教でもするつもりなのだろうか。


「ローズは、魔法の適性があるのに簡単な治癒魔法さえ使えません。これにも困ったものです」


(ミューと同じこと、言わないで)


「ローズがこのように考えている以上、強引に伴侶を決めるわけにもいきません。そこで、気分転換のためにも、彼女を留学させようと考えました」


(えっ? 何? 聞いてないわよ)


 母は、チラッと私を見た。そして、またニヤリと笑った。やはり、あの島へ私を追放するってことね。


 私の呪いの封印のことは、おそらくアマゾネスの民には知らされないはずだ。だが、呪いがこの国の害になるかもしれないのだから、母は私を遠ざけたいのだ。


 大広間はざわざわしていた。


「女王陛下、留学とは一体…。もしや、神族の街の魔法学園ですか?」


 来客から、母へ声がかかった。見ると、この国で一二を争う名家の当主だ。この家には、王族からずっと何代にも渡って、男が生まれると下僕に出されている。

 そう、彼女は、今朝来ていた義理の姉の母親だ。


 母は、彼女へ肯定の意を込めた笑みを浮かべ、そして、話を続けた。



「ローズは、しばらくの間、ハロイ島にある神族の街の魔法学園へ留学させます。その中で、彼女自身の考え方が変わるかもしれませんからね。それに、あの島には様々な種族がいる。きっといい刺激になるでしょう」


(やっぱり……島流しね)


「それはいい! あの島には、ローズさんの条件に合う男がたくさんいますわ。条件に合う伴侶を一人見つければ、二人目からは、こだわりが消えるかもしれませんわ」


「そうね、私も一人目には、こだわりがあったわ。変なところが似てしまって……ほんと、困ったものだわ」


(えっ! お母様も?)



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