67、湖底の花屋
私達は、湖底の花屋さんの配達を待つ間、銅貨1枚ショップで買い物をすることにした。
よくある100円ショップが、この世界に合うように発展したような感じだった。品揃えもずいぶん違う。
100円ショップには腐りやすいものはほとんど置いていないが、この店では、スペースの約半分は、生花を含む生鮮食品や弁当だった。魔法のあるこの世界では、劣化を防ぐことは簡単なのだ。
(100円ショップとコンビニのいいとこどりだわ)
100円ショップは、やはりテンションが上がる。何時間でも見ていられそうだ。だから、店内はこんなに混み合っているのね。
「まいど〜、お客さんは?」
銅貨1枚ショップに、白い髪の元気な女性が入ってきた。一瞬、白髪かと思ったが20代前半にみえる女性だ。
「あー、お花屋さん、こちらの方々です」
白い髪の女性は、私達に人懐っこい笑顔を見せた。でも、この人、もしかして……日本人だったのかしら?
「まいど〜、えっと右上の写真に見えたのは、どの子なん?」
「私です。あの……」
私は、日本人だったのか聞きたかったが、手で制された。
「ここでは、話できへんわ。2階行こかー。事情を知ってる子はついてきてええで」
(やはり、これって関西弁だわ)
花屋の女性の後について、私はバーの方へと移動した。もちろん、クラスメイトは全員ついてきた。
「おっちゃん、2階の空きあるやろ? ちょっと借りるで」
「おや、ミカさん、こんばんは。はい、どうぞ。皆さんもこんばんは」
マスターは、おっちゃんと呼ばれ慣れているのか、普通に対応している。
私はマスターに軽く会釈して、2階へと上がった。しかし、街長に対して、おっちゃんって……。
彼女の後を追って、一番手前の部屋に入った。ここは一人用の部屋のようだ。クラスメイトもいるから、かなりパンパンな状態だったが、彼女は特に気にしていないようだった。
「さてと、手短に説明するけどな、その前に確認せなあかんねん。もし嘘ついとったら、魔石の花は炭化するから、気ぃつけてや。代わりの花はないで」
そう言うと、彼女は魔法袋から花束を出して、私に渡した。そして、さっきのと同じ写真を見せて同じ質問をした。
私が、右下のように見えたと答えると、手に持つ花束が少し光ったような気がした。
「うん、合格や。じゃ、お代は銀貨1枚になります〜」
私は、花束をいったん彼女に預け、銀貨1枚を支払った。私には聞きたいことがたくさんあった。だが、アルフレッドが先に口を開いた。
「花屋さん、俺達は、水色以外は枯れた花に見えたんですけど、どういう仕組みなんだ? それにライトブルーだけじゃなくて、七色の花束を配達されたのは……」
「このお嬢さんが、全部揃ってたからやで。今夜はまた街長が闇を放出するねんで。だから、ついでに他の花も揃えてきたんや。今から草原に摘みにいくと、間に合わへんかもしれんからな」
「花屋さん、私が七色に見えることが、揃ってるということなの?」
「そうやで。お嬢さん、怪盗に会ったやろ? 怪盗が許可した者が謎解きを終えると、あのオブジェの花束は虹色の七色に見えるんや。普通は、魔石の花以外は枯れて見えるはずやねんけどな」
(えっ? 私が怪盗に許可されたの? 何も話してないけど)
「怪盗に……やはり、イビル大商会のときに見たのは、怪盗なのね」
花屋の女性は、うんうんと頷いている。イキイキとしていて、目ヂカラの強い女性ね。人族なのかしら? でもこんな真っ白な髪の種族は聞いたことないわ。
「ファイルの写真は、なぜ4枚あったんだ? それなら、2枚だけでいいんじゃねぇのか?」
「それやと、適当に答えて当てる人が多いんや。無駄足になるから困るねん。それに、魔石の花まですべてが黒く見えるなら、その人は何か呪いを受けてるから、役所に行きやって言うてあげられるやろ」
「呪いで役所?」
「役所の塔には治療院があるから、呪いの解除してもらう方がええやろ」
「じゃあ、もう一枚の、六色が生花のようで魔石の花が白く強く輝いている写真は?」
「生花に見えるなら、怪盗の許可があるんや。でも魔石の花が白く光って見えるなら、まだ謎解きができてへんから、マスターにヒントを貰えばええねん」
この仕組みを考えたのは彼女なのだろうか。説明してくれる表情は、誇らしげにみえた。
「あの、貴女は、日本人だったの?」
「はぁ? 急に何を言うてんねん。ウチは、生まれも育ちもこのハロイ島やで」
「言葉が、関西弁かと思ったわ」
「あー、これは、ウチの爺が神族やからな。話し方が似てしもたんかもしれん。爺は、そういえば日本人だったらしいわ。お嬢さんも日本人やったん? あれ? 女神様の転生者なら神族なはずやけど?」
「私は、神族ではないわ。そう、ありがとう。いろいろとスッキリしたわ」
「それならええねん。あ、せや、その花束は使う時まで、魔法袋かアイテムボックスに入れとく方がええで。ほな、またごひいきに〜」
そう言うと、彼女はさっさと1階へと下りていった。
(忙しそうね)
私は花束を、ミューがくれたブレスレット型のアイテムボックスに入れた。
「なんか、嵐のような人だったな。変わった髪色だし、人族なのか?」
「アルさん、彼女はたぶん、人族と獣人のハーフだと思います。タクトが顔をしかめているから、あの人の子じゃないかな」
全員の視線がタクトに集まった。ふだん注目されることのない彼は、少し動揺したようだった。
「タクトの関係者なのか?」
「バートン、おまえは感知能力もないのか」
「うん? 今の女の子? かわいかったよな、チャキチャキしてていい感じだぞ」
「はぁ、おまえに聞いた私がバカだった」
「そんなことないぞ。タクトは黒魔導族だから、俺よりめちゃくちゃ賢いぞ」
タクトは、呆れ顔でバートンを見つめていた。バートンは、大丈夫だといい、なぜかバートンを励まそうとしているようにみえる。なんだか、かみ合っていないわね。
アルフレッドが、苦笑いをしながら口を開いた。
「タクト、さっきの白い髪の子の親を知ってるのか? 俺もあんな真っ白な髪は見たことないな」
「あっ! そういえば、ルー雪山の案内人が白い髪の男だわ。遭難者が、白い髪の男に助けられたと聞いたことがあるわ」
「ローズ、何だ? 雪山に住む雪男なのか? だから、雪のように真っ白な髪なのか。遭難者を助けるなんていい奴だな」
アルフレッドがそう言うと、タクトがキッと睨んだ。
「いい奴なんかじゃない。アイツは、魔族を虐殺するのが趣味なんだ。なぜあんな奴が守護獣でいられるのか……」
「タクト、神戦争後は、彼は変わったそうだよ。なるほど彼の娘だから、あの花屋さんはライトブルーを手に入れることができるんだね」
「ルーク、その守護獣と氷の魔石の花に、何の関係があるんだ?」
「アルさん、その守護獣マーシュさんは、精霊ルー様に仕える守護獣なんですよ。ルー様が、この世界のすべての氷のクリスタルを生み出しています。そして、ライトブルーは、氷のクリスタルになる前の層に咲く魔石の花です」
「へぇ、そうなのか。魔石の花って、花みたいだからそう呼ぶのかと思っていたぜ。クリスタルの層に咲く花なのか」
「ええ、摘んですぐの状態は、不安定で壊れやすい反面、マナエネルギーがギュッと凝縮されています。だから、魔法袋か何かに入れるように言われたんだと思います」
「なるほど、だからこれが、怪盗への報酬か」
「魔力を必要とするすべての種族は、クリスタルを取り込むことができれば、能力が上がりますからね。吸収できるのは、属性の合うクリスタルだけです。花の状態は不安定だから逆に吸収しやすいんです」
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン
(あっ! 闇の放出の合図だわ!)