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61、バートンの大切な人

「バートン、諦めろ。手続きはしてるんだろ? 順番待ちをすればいいじゃないか。それより、今日は虹色花束の謎を解くぞ。祭りで人が多いから、チャンスだぜ」


「手続きはしてるけど、順番待ち……まだ50年先になるんだぞ」


「でも、寿命は大丈夫だろ?」


「俺は大丈夫でも、死んだ嫁は手遅れになるかもしれないんだ」


(奥さんなんだ)


「バートンさん、普通の生まれ変わりは魔族の場合は、百年以上先だと思います。間に合いますよ」


「もう百年、経ったかもしれない……。死体も魔法袋に入れて保存しているのに、骨だけになってるんだけど」


「えっ? バートンさん、それなら奥さんは、もう生まれ変わってどこかに居ますよ」


「ルーク、まじかー! 探しに行かないと〜。どうすればいいんだ?」


「バートンさん、生まれ変わっていると前世の記憶は普通は消えてしまいますから……それに、どんな種族になっているかもわかりませんし」


「俺のことを忘れているのか」


「はい……」


 バートンは、呆然としていた。いつも騒がしい彼が言葉を失うなんて……。亡くなった奥さんを、百年もずっと大切にしてきたのだと思うと、私もかけるべき言葉が浮かばなかった。


 私は、アンデッドになってよみがえるより、新たな命として生まれ変わる方がいいのではないかと思った。でも、これは、人族の考え方なのかもしれない。



「俺も、怪盗を呼ばなきゃ!」


「へ? バートン、何を言ってるんだ?」


「俺、ユーリスを探さないといけないんだぞ。あいつは、すぐに迷子になるから、俺がいないとまた迷って、氷山に挟まれて死んでしまう……」


 バートンは、うつろな目をしていた。彼女は、氷山で死んでしまったということなのだろうか。いつものお気楽な笑顔は消えていた。


「おい、バートン、しっかりしろ」


「アル、俺、怪盗を呼ぶ方法、探すぞ」


「その前に、トリ頭は白魔導士を探す方がいい」


「シャラ〜、ちょっと来てくれ」


「アル、シャラには無理だ。こんなイカれた頭を治すのは……」


「アルさん、街長のとこに行きましょう。バートンさんの混乱をなんとかしてくれるはず……」


 バートンは、何も聞こえていないようだ。うつろな目をしたままだった。いつもヘラヘラしていた顔が笑っていないせいか、少し怖かった。


「祭りだけど、街長は店にいるのかな? とりあえずみんなで行くか。ついでに怪盗の話も聞けるかもしれないし」


(泥棒の話を街長にしてもいいのかしら……)




 私達は、あのバーへと向かった。広場を横切ると、バートンは何人かに声をかけられていたが、全く気づいていないようだった。呆然としたまま、ただみんなについて行っているような感じだ。


「シャラさん、バートンは大丈夫かしら」


「うーん、魔族の感覚はわからないんだよ〜。でも、転生し続けたりする種族もいて、他の種族に生まれ変わることがよくないみたいなんだよね」


「シャラさん、ローズさん、大丈夫ですよ。バートンさんは、混乱しているだけです。ずっと大事に守っていた奥さんの身体には、もう魂が宿らなことがわかってショックなんだと思います。あと……」


「あと、何?」


「うーん、心配なのは下位種族に生まれ変わっていないかということです。いっそ、人族になっていればいいんですけど……」


「ルーク様、普通なら生まれ変わった者を探すことはできません。気にされなくてもいいかと」


「タクト、でもバートンさんのあの様子だと、奥さんを探し当てないとおさまらないよ」




 店に着くと、朝食客がチラホラいたが、マスターの姿はなかった。マスターは夜担当だから、虹色ガス灯が水色にならないと店には来ない。


「いらっしゃいませ〜」


「あの、マスターは今どこに居ますか? ちょっとクラスメイトが困った状態になってしまって……」


 店のカウンター内にいた店員さんは、少し困った顔をしていたが、アルフレッドの真剣な顔を見て、少し待つようにと言われた。


 しばらくテーブル席を2つ占領して待っていると、マスターが店に入ってきた。店員さんが呼んでくれたらしい。



「お待たせしました。どうしましたか? 皆さん」


「マスター、クラスメイトのバートンが……」


 アルフレッドが話し始めると、マスターはちょっと待てという仕草をした。マスターはどこか遠くを見ている。念話を受信しているのだろう。


「事情は、ルークさんのお父さんから今、聞きました。バートンさん、その彼女の身体は今もお持ちですか?」


 バートンは、うつろな目をしていた。マスターの声も聞こえていないようだ。


「ライトさん、俺がバートンさんに、もう生まれ変わっているだろうと言ってしまったから、こんなことになったんです。なんとかしてください。お願いします」


 ルークは、さっきまでとは違って、泣きそうな顔をしていた。自分のせいでバートンがこんなことになったと責めているかのようだった。

 でも、ルークは事実を伝えただけで、それを隠す方がおかしなことになると思う。



「ルーク様、大丈夫ですよ。ちょっと場所を変えましょうか。皆さんで2階へ移動してください」


 マスターは優しく微笑んで、みんなを2階へ誘導した。奥から二番目の部屋へと案内された。私が以前、泊まった部屋より広い複数人で利用できる部屋だった。


 数人が座れるソファもあり、アルフレッドは、バートンをそこに座らせた。



「バートンさん、奥さんの身体をお持ちですか」


 だが、相変わらずバートンは、ボーっとしている。バートンに変わって、アルフレッドが答えた。


「魔法袋に入れているって言ってましたよ。たぶん、持ち歩いているんじゃないかな」


「わかりました。ちょっと探ってみますね」


 そう言うと、マスターは、肩から紐のようなものをヒュルヒュルと出した。そして、その紐はバートンの腰ベルトにプスリと刺さったようにみえた。


 それと、同時にマスターは、自分の手をバートンの腹部にスッと入れて何かを唱えた。すると、バートンの身体から、黒い炎のようなものが出てきた。


「うわっ!? バートンは呪われていたのか」


 ノーマンは引きつり、タクトはルークをかばうように前に出た。な、何? 呪い?


「タクト、ライトさんの前でその行動は、失礼にあたるよ」


「いや、ですが……怨念ですよ。死体が抱えていた怨みが、バートンを乗っ取ったのでは……」


「皆さん、死者をよみがえらせようと長期間保管していると、持ち主に死者の呪いがかかることが多いのです。よくあることですよ」


 マスターは、やわらかな笑みを浮かべたまま、ジッとバートンの身体や黒い炎を見ていた。そして、紐が突き刺さっているバートンの魔法袋の一つに触れた。すると、その中身がドサッと飛び出してきた。


「キャーッ!」


 それを見て、シャラさんが悲鳴をあげた。私も思わず顔を背けたくなるようなゾンビ化したような死体だった。

 その死体に、バートンから出ていた黒い炎が、スッと吸い込まれるように入っていった。



「あれ? ユーリス? なぜ、そんなにボロボロなんだ? あれ? 骨だけになっていたのに、腐ったのか?」


(あ! バートンが正気に戻ったわ)


 ユーリスと呼ばれたゾンビは、ゆっくりとバートンの方を向いた。う、動けるのね……。


「バートンさん、彼女は怒っているようです」


「えっ? あれ〜、マスターじゃん。どうしたんだ?」


「お友達が心配して、みんなで僕を訪ねて来られたんですよ。バートンさん、死者に魅入られてしまいましたね。彼女は、バートンさんの想いに縛られて、困っていますよ」


「ユーリスは、生まれ変わっていないのか」


「生まれ変わっています。でも、ここにも彼女の一部が残ってしまっているので、不完全な生まれ変わりです」


「ッ! まさか、魔物に堕ちたのか」


 マスターは、否定はしなかった。


(えっ……そんな……)



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