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60、カボチャ祭り

『朝ですよー、学校ある人は起きなさい〜。虹色ガス灯が紫色になるまでは、通りの屋台は無料ですよ。広場にも特別に屋台が出てますよー』


 私は、昨夜はシャラさんと、やぐらの周りの子供達の盆踊りを見て、祭り気分を満喫した。


 あの猫耳の少女ティアさん、いえ、女神イロハカルティア様も、浴衣に着替えて盆踊りを踊っていた。

 女神様も子供達も、かなり上手だったから驚いた。この街では、盆踊りをよくやっているのだろうか。


(浴衣まで売っているのね、この街は)


 この街には様々な種族がいて、様々な祭りがある。私はこの街に来て、まだ1ヶ月ちょっとしか経っていないけれど、小さな祭りは何度か見た。

 そういえば、祭りのときには猫耳の少女の姿をいつも見かけたような気がする。女神様は祭り担当なのだろうか。




 食堂へ行くと、今朝はバイキングではなく、パンとサラダが並んでいるだけだった。私は、パン2個と紅茶を取って、テーブルに座って食べた。食堂はガラガラだった。


 後から起きてきた人も、食堂を素通りして外へと出ていった。なるほど、みんな屋台へと向かったのね。



「おはよう、ローズ、なぜ食堂でパンなんて食ってるんだ? 今日から50年祭だぞ。昨夜は前夜祭で、サプライズ花火大会があったのは見たか?」


「寮長、おはよう。ええ、昨夜はミッションで設営のお手伝いに行っていたわ。花火も見たわ」


「そうか。いつもなら花火大会は、今夜なんだけど、昨夜だったから驚いたぜ。闇の放出の合図があったときに、おかしいなとは思ったんだけどな」


(花火は、闇の放出後のイベントなのね)


 寮長は、私の前の席に座った。手には何も持っていない。食事ではなさそうね。学生に祭り屋台を案内しているのだろうか。


「花火大会は、毎年やっているの?」


「あぁ、すごく人気があるんだ。島のどこにいても見えるし、海からでも見える。街の空が薄暗くなると、空に花が咲くと言っている種族もあるくらいだぜ」


「闇を放出するのは、花火の日以外にもあるんでしょ? 街の空が薄暗くなっても花火が打ち上げられない日の方が多いのよね?」


「ローズ、よく知っているな。闇の放出は、だいたい月に一度、花火は年に一度だぞ。花火の夜は、街長は、街の空をすべて覆い尽くすほどの闇を放出するんだ。いつもは、広場内くらいだけどな」


「なるほど、街の外から見れば、広場だけに闇が広がっていても気づかないってことね。あ、広場の盆踊りはよくやっているの?」


「ん? あー、ピーヒョロ ドドンパか? あれはこの街の子供祭りだ。不思議な服を着てただろ。この街の妖精達が、子供同士のイジメをなくそうとして始めたことらしいぞ。ティアちゃんがリーダーをしているんだ」


「ティアちゃんって、猫耳の妖精?」


「あっ、えっとだな。そっか、最近は猫か。えーと……」


 寮長は嘘が下手なようだ。明らかに動揺している。確か、女神様は種族としては妖精族。この街の妖精を使って、子供達の面倒をみているのね。


「ふふっ、寮長、ごめんなさい。意地悪なことを言ってしまったわね。彼女の正体は学校で聞いたわ」


「そ、そうか、よかった。俺も今のは失言だったぞ。焦った〜」


 寮長は、確か女神様の使徒の称号をもらうために、学校の成績を上げようと努力しているんだったわね。人格的にも、うっかり者な点を除けば、適していると思う。


「な、何? ローズ、俺、変か?」


「え? 別に変じゃないわ。うっかり者な点を除けば、女神様の使徒としても完璧かもしれないと思っていたのよ」


「そうか、そうか! ローズにそう言ってもらえると嬉しいぞ。ありがとうな」


 寮長は、心底嬉しそうに笑った。素直な性格なのね。以前の私なら欠点だと感じただろうが、今は個性として悪くないと思っていた。


(かなり、私の価値観が変わってきてしまったわ)



 寝ぼけ顔の学生が食堂に入ってきた。いつもと様子が違うことに戸惑っているのか、キョロキョロしていた。

 それを見つけると、寮長は私に軽く挨拶をして、寝ぼけ顔の学生の方へと近寄っていった。


(寮長も大変ね)




 私は食堂を出て、広場を突っ切って学校へと行った。朝、念話で聞いたように、広場にはたくさんの屋台が出ていた。まだ、時間が早いためか、それほど混んでいない。いつもの朝の光景とは全く違うけど。


 昨夜は、盆踊り用の和太鼓が設置されていたやぐらから和太鼓は消え、代わりに大きな看板のようなものが出ていた。


『今夜決定! 最高ゾンビは誰だ?』


(最高ゾンビ? 何それ)



 学校へ行くと、校門をくぐったところで、最高ゾンビの話が飛び交っていた。私はゾンビも得意ではないので、無視していつものように、武術の練習に行った。


 その後、ホームルームの時間になり、Sクラスのホームルーム教室へと移動した。すると、なんだか騒がしかった。


「あー、もう、バートン、うるさい!」


「でも、人族しか最高ゾンビになれないんだぞ。なぁ、アル、絶対に似合うから」


「似合いたくねぇよ」


 扉を開けると、アルフレッドがバートンに絡まれているのが見えた。


「おっ! ローズちゃんの方がいいかな」


「みんな、おはよう。何? バートン」


「ローズちゃん、今夜、広場で仮装大会があるんだよ。魔法や魔道具で化けるのは禁止で、衣装や特殊なメイクをするんだよー。ワクワクしないか?」


「ゾンビならお断りよ」


「うげっ、ローズちゃん、情報早いなぁ……」


「広場を突っ切ってきたもの。それより、何? そのピンク色の野菜?」


「これは、カボチャっていうんだぞ。食べ物じゃなくて飾りなんだ。今日はカボチャ祭りだからな」


「カボチャ祭り?」


「みんなカボチャを付けて、踊るんだぞ」


「へ、へぇ……」


 そこに、ガラリと扉を開けて、シャラさんが入ってきた。いつもと違って、頭には赤や黄色の丸いアクセサリーをつけている。


「おはよう、ローズさん、これ〜」


「シャラさん、おはよう。ん? 何?」


 差し出されたものは、シャラさんが頭につけているアクセサリーと色違いのものだった。青と緑色の丸いアクセサリー、いや、これってカボチャの形かしら?


「銅貨1枚ショップで買ってきたの。今日は、カボチャをつけていないと、子供達に絡まれるからねー」


「どういうこと?」


「今日は、カボチャ祭りだから。カボチャの妖精になっていないノリの悪い人には、子供達がイタズラを仕掛けてくるのよ」


「もしかして、キャンディをあげたらイタズラされないのかしら?」


「えっ!? ローズさん、なぜ知っているの? それって、重要極秘情報だよ。初めて街に来た人には絶対に……あっ、もしかして、ローズさんの前世のお祭り?」


「トリックオアトリート、お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ。ハロウィンね。確かにカボチャのオバケも、ゾンビもホラーナイトも…」


 なんだか、アレンジされているようだけど…。盆踊りの翌日がハロウィンだなんて、少し混乱するわね。



「シャラちゃん、最高ゾンビに化けてくれよ〜」


「えーっ、嫌よ。男の子がやりなさいよ。私達はカボチャの妖精をやるんだから〜。ねーっ」


「そ、そうね」


「じゃあ、アルしかいねぇじゃん、なぁ〜」


「バートン、しつこいぞ」



「なぜ、そんなに必死なのかしら」


「ローズさん、最高ゾンビに選ばれたら、魔族の国のアンデッドの里へのフリーパスが与えられるの。同行者も可能だから、バートンは必死なのね」


「バートンは魔族でしょ? アンデッドの里に行けないのかしら」


「その里は特殊な場所だから、立ち入るには許可が必要なの。里にあるニクレア池に死者を沈めたら、アンデッドとして新たな命を受けるから、かな、たぶん」


「そう……よみがえらせたい人がいるのね」


「うん、そうみたい」


(バートンの家族かしら……)



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