59、闇夜の謎解きと、街の50年祭
「何を思いついたんだよ、アル」
「バートン、闇夜じゃん、今」
「へ? 闇夜って真っ暗な夜のことだというくらい、俺でも知ってるぞ。ちょっと薄暗いけど、全然真っ暗じゃないぞ?」
「あっ! 闇エネルギーが放出された夜!」
「ローズ、正解だ! 真っ暗な洞窟ばかりを考えていたが、いろいろ調べてたけど、洞窟なんて話は出てこなかっただろ?」
「アルフレッド、俺も、闇夜は、この闇で満たされた夜かと考えていた。目撃証言があったからな」
「ノーマン、何?」
「こないだの闇の放出のときに、虹色ガス灯の一つが、隠れたらしい。おそらく認識阻害のバリアだろうけどな。そしてそれからしばらく経って、怪盗アールがあのイビル大商会を狙ったと考えると……」
「おお〜、ノーマン、天才じゃないか! アルも天才だ! 闇が放出された夜に虹色ガス灯の前にいれば、怪盗を呼べるんだな」
「トリ頭、大声ではしゃぐな、うるさい」
「ノーマン、どの虹色ガス灯なの? たくさんあるよ?」
「広場の虹色ガス灯だとしか聞いていない。どれでもいいんじゃないか?」
「ちょ、ちょっと待て。もしかしたら、ジッと観察していれば、怪盗に依頼する現場を見つけることができるかもしれないぜ。ワクワクしてきたー! いま、最大のチャンスじゃねぇか」
アルフレッドは、子供のようにワクワクそわそわしていた。でも、ルークは冷静なようだけど、何か言いたいのかしら?
「ルークさん、どうしたの?」
「いえ……皆さんが盛り上がっているので……」
「ルーク、何だ? 他にも何か情報はあるのか?」
「えっと、情報じゃなくて、たぶん、もう……」
「ん?」
ルークは、塔の入り口を指差した。みんなが、ルークの指す方向を見て首を傾げていた。
(あっ! ないわ)
「ルーク、何もないじゃないか」
「アルフレッド、塔の入り口にはいつもは虹色ガス灯があるわよ」
「あっ!! ほんとだ、虹色ガス灯がない!」
ドドーン! ドーン!
花火が本格的に打ち上がった。皆が空を見上げた次の瞬間、塔の入り口の虹色ガス灯が現れた。
「チッ! 依頼が終わったんだ。こんなに人が多いと、依頼人もわからねぇ」
アルフレッドは、悔しそうな顔をしている。ノーマンはあちこちを見渡していたが、チッと小さな舌打ちが聞こえた。
(ノーマンも必死に探そうとしてくれてるのね)
「何? なんでそんな顔してるんだよ。よかったじゃねぇか。闇夜は、闇の放出される夜のことで、虹色ガス灯で怪盗を呼べるってわかったんだからさ」
「バートン、俺は怪盗を見たかったんだー」
「俺も見たかったです。必死にサーチもしましたけど、全く引っかからなかった……」
ルークも、ガッカリした顔をしていた。
「三人とも、怪盗なら、ローズちゃんが呼ぶときに会えるじゃないか。どうして、そんなに落ち込んでるんだよ」
バートンは、不思議そうな顔をしていた。まぁ、確かにバートンの言うとおりね。
「謎はもう一つ残ってるよー。虹色花束の謎を解かないと呼べないんじゃないかな」
「シャラちゃん、それなら簡単だぜ。虹色に輝く花火のことだろ」
「トリ頭、花火大会は年に一度、街の誕生月だけだぞ? イビル大商会に怪盗が現れる少し前の闇の放出のときは、花火どころか、何の祭りもしてなかっただろうが」
「お? そういえば、そうだな。ノーマン、やっぱ頭いいな」
確かに闇夜はわかっても、まだ虹色花束がわからないわね。前にサバイバルな授業のときに聞いた情報だと、七色の花だということだったかしら?
「虹色花束って、七色の花だという話だったわよね? なぜ、怪盗は花を欲しがるのかしら?」
「ローズ、目印じゃないか? そんな色とりどりの花を持っていると目立つし……。でも、それなら、花じゃなくてもいいよな」
アルフレッドは、上を向いて考えているようだ。
空には花火が次々と打ち上がっていた。でも、薄暗いとはいえ、やはり花火は夜空の方が綺麗よね。
私の知る花火とは違って、幻想的な霧のような中での花火も、悪くはないんだけど。
「なぁ、怪盗は、報酬は取らないのか?」
ふと、ノーマンはアルフレッドに問いかけた。アルフレッドは、空の花火を見ながら答えた。
「ノーマン、それ、俺も考えていたんだ。依頼料の話が全く出てこないんだよな。まさか、花が依頼料ということか?」
「それって、どこのキザ野郎だよ。俺は、怪盗が無報酬で仕事するとは思えないけどな。報酬の話をたずねても、誰も知らなかったのが奇妙なんだ……」
「無報酬って……花って、値段は安いの? こないだ食べた花は、食材なのよね」
「ローズ、地底のあの花は、少し高いけど報酬になるほどじゃない。値段の高い花なんて魔石の花くらいだ……あっ! もしかして、ライトブルーが報酬か?」
(ライトブルー? 氷の魔石の花のこと?)
「アルさん、それ、ありですね。マナの凝縮された魔石は、様々な利用価値があります。でも、七色すべてが魔石の花だなんてことになると大変ですが……」
「ルーク、確か六色は草原の花だという話が多くなかったっけ? 一色だけが特別な花だとしたら……」
「うーん、それだと何色を魔石の花にすればいいかわからないですよね。何色でもいいのでしょうか。でも色が違うと魔力属性も違うから……。確か、ライトブルーは水色ですよね?」
「あぁ、氷の魔石は水色だな。確かに、色がわからないよな。よし! この街の魔石の花を扱ってる花屋に行ってみようぜ。何か売れ筋とかの情報がつかめるかもしれない」
「アルがなんだか探偵みたいなことを言ってるぞ」
「バートン、俺は探偵見習いなんだけど……」
「あっ、そうだった」
男達はウズウズとしていた。今にも走り去りそうな落ち着きのなさだ。
「男の子たち〜、花火大会だよ? 花探しは明日にしようよ」
「シャラちゃん、そうだな。せっかくの祭りだから、楽しまないとだな」
私が言う前にシャラさんが彼らを止めてくれた。次の闇の放出が、いつなのかはわからないが、しばらくは時間があるはずだ。別に、急ぐ必要はない。
ピーヒャララ〜! ヒュルル〜
甲高い笛のような音が響き渡った。すると、ルークが嬉しそうな顔をした。すんごいニッコニコだ。
「今の音は何?」
「スゲ〜、今夜はなんでこんなに?」
(何がすごいのかしら?)
ルークだけじゃない、アルフレッドやバートン、さらにシャラさんもノーマンまで嬉しそうな顔をしている。タクトもわずかに頬が緩んでいるようにも見える。
すると、突然、頭の中に直接声が響いた。
『本日は、この街が誕生してから50年が経過した50年祭です。街の通りには、この街を利用される皆さんへの感謝を込めて、屋台を並べています。明日のこの時間まで、無料で食べ放題です。皆さん、50年祭を楽しんでくださいね』
(街長の声かしら? 念話だと誰だかわかりにくいわ)
「やった〜! 明日の夜までって、すごいですね。俺、嬉しすぎて、じっとしていられないですよー」
「ルーク、俺もだ! やっぱ食い倒れストリートの屋台に行くべきだなっ」
「バートンさん、うんうん、そうですねっ!」
ルークもバートンも、ヨダレを垂らしそうな勢いだった。おそらく、ミューも、テンション上がっているわね。
どこからか、祭りばやしのような音も聞こえてきた。
(和太鼓も?)
いつの間にか、広場の一部に和太鼓のやぐらが設置されていた。やぐらの周りには、子供達が集まっている。
(えっ? 盆踊り?)
いろいろな祭りが混在しているようだが、これがこの街の祭りなのだろうか。
私が戸惑っていると、シャラさんに誘われた。
「ローズさん、男の子は放っておいて、やぐらを見に行こうよ。お祭りだよー」
「ええ、そうね」
「じゃあ、明日、学校でな。花の相談は明日にしようぜ」
そうして、クラスは解散し、男達は、通りへと向かったようだった。
(まさかの夏祭りだわ)