53、ミューの宿を訪ねる
私は、くいだおれストリートにあるミューが宿泊する宿に着いた。そしてロビーで、ミューに会いにきたことを告げると、少し待つようにと言われた。
ここは、ビジネスホテルのように見える。前に来たときは何も気にならなかったが、やはりこの宿も日本っぽい。この街は多国籍の文化がごちゃまぜになっている。おそらく、街長が関わったところは日本っぽいのだろう。
(しかし、まさかマスターが街長だなんてね)
ミューは、わかっていないようだった。もしくは、知らないふりをしていたのかもしれない。
「お待たせしております。あの、ローズさんでしょうか」
「はい、ローズですが……」
「それなら、お部屋にお越しくださいとのことです。今はちょっと手が離せないそうです。ご案内します」
ミューが泊まる部屋はその宿の最上階だった。エレベーターがあったことに、私は少し驚いた。あのオフィスビルのような塔ならまだわかるけど、普通の宿にまであるなんて。
ピンポーン
しかもドアフォンまである。完全に日本のホテルね。案内を終えて、ホテルの人は一礼して戻っていった。
「はいはーい。勝手に入ってきてください〜」
私はドアを開けて、室内に入った。中は、日本のビジネスホテルのような狭い部屋ではなく、普通によくある広さだった。
「ミュー、何してるの?」
「ちょっと、着替え中なのです〜。もう少し待っててください〜」
「こんな時間にお風呂?」
「はい〜。さっきこっちに戻ってきたばかりなのです〜」
「おでかけ?」
「ちょっと、女王陛下に呼ばれて、アマゾネスに行ってたんですぅ。ローズ様の様子を聞かれたので、学園に入学してSクラスになったとお伝えしました〜」
「そう。私の封印のことは?」
「まだ、伝えてませんよー。封印が解除されたと伝えると、すぐにアマゾネスに連れ戻されるといけないので」
「確かに、そうなると、あの神託をどうすることもできなくなるわね」
「ええ〜っ? ローズ様、あれは気にしないんじゃなかったんですかー」
「クラスメイトに話したら、謎解きが楽しくなったらしくて協力してくれているわ」
ミューは着替えを終えて、ようやく姿を現した。まだ髪の毛が濡れている。ブワーっと風魔法を使って、一瞬で乾かしていた。ふぅん、魔法って、やはり便利ね。
(私も使えるようになったのかしら)
「むむ? 謎解きなんてありましたっけ?」
「あ、そっか。あの神託をなんとかできる人を探そうということになって……怪盗アールを呼ぶ方法をみんなで探してくれているのよ」
「えーっ!? 怪盗アールって、処刑されたはずですよー? 神戦争の少し後に現れて、めちゃくちゃしていたから」
「ミューは、知っているのね。そういえば、長生きだったわよね」
「たぶん40年くらい前のことだから、ミューじゃなくても、みんな知ってますよ」
「怪盗アールって、何者なの?」
「あー、そこはわからないですぅ。神戦争後は、たくさん他の星の神々が、このイロハカルティア星に来ていたから、邪神の一人じゃないかと噂されていましたよー」
「えっ? 邪神ってことは、神なの!?」
「たぶん神ですよ。ミューも面白そうだと思っていろいろ調べたんですけど、あの怪盗の能力はおかしいんです。いろいろな種族の限界突破しちゃってるというか……」
「異空間に出入りする能力があると聞いたけど?」
「そうそう、それだけなら、魔族の影系の種族にもできるけど……。影系の種族は魔力はあっても戦闘力は低いのです。ミューより弱いですぅ。でも、怪盗は、誰よりも強くて、女神様が差し向けた魔人からも逃げることができたんです」
「魔人?」
「女神様も怪盗に何か盗まれたらしくて、怒って、魔力で作り出したんです。女神様が作り出す魔人は、処刑人と呼ばれる破壊神のような凶暴な魔人なんです。普通なら処刑人から逃げることなんてできないのに……」
「その怪盗は、逃げることができたのね」
「そうなんですぅ。でも、何人かの女神様の側近が、結局その怪盗を捕まえて、そして処刑されたはずです〜」
「でも、投獄されていただけで、今も密かに活動しているそうよ。昨日、怪盗はこの街に現れたわよ」
「ええ〜っ? ミューがいない間にですかー」
「昨日からアマゾネスに行っていたの?」
「はいー。昨日、怪我人の治療に呼ばれましたぁ」
ミューは、すごく悔しそうな顔をしていた。怪盗をみたかったのかしら? でも、偶然、見ただけで一緒にいたシャラさんは見ていなかったから……見たくても見れるものでもないわよね。
「そう。アマゾネスで、何があったの?」
「原因はわからないですけど、国境付近で爆発があったらしくて、たくさんの死傷者が出たんです」
「そう……ご苦労様。でも、ミューを呼ばなくても……」
「ミューより、魔ポーションが必要だったみたいなのです。事情を話して、マスターに魔ポーションを売ってもらったんです」
「なるほどね、ポーション屋なのよね、あの店」
「むむ? なぜ知ってるのですかー。ローズ様は気づいてなかったのに。あ! クラスメイトの方に聞いたんですね」
「まぁ、いろいろな人に聞いたわ。街長のことも」
「ええ〜っ? 街長に会ったんですか。ミューは会ったことないんですぅ」
「えっ? あー、そうね、私が今までに会ったことのある人が、街長だと聞いたのよ」
(ミューは、知らないのね……言わない方がいいか)
「そうなんですかー。ヨボヨボ爺さんでしたか?」
「見た目は、若いわよ。私より少し上くらいにしか見えないわ」
「ふぅん、イケメンですかー」
「うーん。ミューの好きな王子様タイプではないわね」
「じゃあ、いいですー。えっと、ローズ様のご用は何でしたっけ? 晩ごはんのお誘いですかー?」
「あ、忘れていたわ。今日、授業でサバイバルなランチを食べたんだけど、おすそ分けを持って来たのよ」
私は、シャラさんからもらった簡易魔法袋を出して、ミューに渡した。
「この花柄は、簡易魔法袋ですねー。中身はたくさん入ってるんですか?」
「テキトーに詰めてもらったから、どうかしら?」
ミューは、棚から大きな木皿を持ってきた。そして、簡易魔法袋から中身を皿に取り出していた。カレー粉の匂いがふわりと漂った。
「わぁい! これって神族の居住区にしか売ってない香辛料の匂いですよね。もしかして、ルシアさんの授業ですか?」
「ええ、そうよ。よくわかったわね。カレー粉の匂いは強烈だからかしら」
「カレー粉? もしかして、ローズ様の前世の星の香辛料ですかぁ?」
「たぶん、そうだと思うわ。この街で売っているのじゃないの?」
「ないですよ。女神様の城の居住区にある店でしか、売ってないです〜」
「じゃあ、ルシアさんが持っているのは不思議ね」
もしかして、ミューは、ルシアさんの父親が街長だと気づいたんじゃ?
「んん? この街の転移魔法陣から、城に行けますから、ミューもローズ様も買いに行けますよぉ。別に不思議じゃないです〜」
「ええ〜? 私も女神様の城に行けるの?」
それなら女神様に会って、地球のことを頼めるかもしれない。怪盗を呼ぶより、確実だわ。怪盗は、どうやら悪党のようだし…。
「行けますよー。でも、出入りできるのは、虹色ガス灯の広場と、居住区の一部だけですぅ。高価な魔導ローブや、ドワーフが作る高価な剣を買いに行く人が多いので、いつも、すんごく混んでますけど」
「そうなのね」
(まぁ、そりゃそうね)
そう簡単に女神様に会えるわけないわね。となると、やはり、怪盗か……。
あの時、私を助けてくれたように見えた。それに、そんな悪党だとは思えなかった。そういえば、今は義賊だと、誰かが言っていたわね。
ミューは、話しながらバクバクと肉料理を食べていた。相変わらずの食べっぷりね。ミューが食べ終わるのを待って、私は寮に帰った。
(ふふっ、持ってきてよかったわ)




