51、闇夜の謎、虹色花束の謎
派手なお菓子の家を飛び出したところに、ルシアさんがいた。
「ローズちゃん、探したわよー。お菓子の家を見学してたの〜?」
「すみません、ちょっと興味があって……」
そのとき、タイミング悪く、お菓子の家からカバンが出てきた。いや、わざとこのタイミングを狙ったのかもしれない。
「あれ? リュックくんもお菓子の家にいたの?」
「なんだよ、ルシア。飯、できたのか?」
「はぁ、アンタねー。って、何? どうしたの? なんだか落ち込んでる? 暗いわよ」
「別に」
そう短く答えると、彼はさっさと調理班の方へと戻って行った。落ち込んでる? まさかね。カバンは感情なんて持たないはずだわ。
「ローズちゃんも、ご飯にしましょうね〜。ルークくんと狩ってくれたワームは、早く行かないと無くなるわ」
「そんなに人気があるの? ミミズなんですよね?」
「食べればわかるわぁ。この島にしか居ないからね。たくさんのマナを吸収しているから、あのワームの皮で作ったローブは魔導士には人気があるし、捨てるところがないのよ〜」
「へぇ、頭の部分は……」
「あー、頭は死ぬとすぐに溶けて毒性に変わるから、頭は処分するわね。あれはルークくんが処理したんでしょう? あの子、食べ物のこととなると、完璧主義なのよ〜」
「ふふっ、よくお腹減ったと言ってますよ。成長かな」
「かもね〜」
私は、調理班の元へと戻って驚いた。
(すごい、肉だらけ)
学生達は、必死に食べていた。早食い競争でもしているのかしら? ルシアさんから手渡された皿には、2種類の肉料理がのっていた。
食べてみると、一方は、さっぱりとしたステーキのようだった。これは確かに牛肉と鶏肉のいいとこどりね。
もう一つは、カレー粉をつけて直火で焼いたバーベキューのような肉だった。少し生臭さがあるからカレー粉を使っているのね。しかし、カレー粉のような香辛料がこの世界にあるなんて知らなかったわ。
「ローズさん、食べてる?」
「ええ。ん? シャラさん、何? その不思議なもの」
「あー、これは簡易魔法袋だよ。余った肉をもらおうと思って〜。ローズさんもいる?」
「魔法袋なんて高価なものは借りられないわ」
「これは、銅貨1枚ショップの使い捨て魔法袋だよ。1回使って出せばおしまい。容量も少ないけど、安くて便利だから、冒険者は大量に持ってるんだよ」
「へぇ、じゃあ、1つくださいな」
私は、銅貨を渡そうとしたが、シャラさんにいらないと笑われた。でも今度、何かお返ししなきゃいけないわね。
「さぁて、みんな集まって〜。ホームルームよぉ」
ルシアさんがパンパンと手を叩いて、授業に参加している人達を集めた。
「Fクラスは、いろいろな人が集まるのは、クラスに関係なく交流を深めるのが目的よ〜。今回は狩り班は、獲物を見つけられなくて残念だったけど、みんな楽しかったわよね〜」
ルシアさんは、学生達を見回して、うんうんと頷いていた。
「最後に、悩み事がある人はいるかしら? イジメられているとか、とけ込めなくて困っているとか〜」
私はシャインくんの方を見た。彼は下を向いている。触れられたくないのかもしれない。まぁ、そうよね。ルシアさんはシャインくんの双子の妹だものね。
「俺、みんなに相談があります」
声の主を見ると、アルフレッドだった。なんだか、神妙な顔をしている。どうしたのかしら?
「はーい、どうぞ〜。みんなもしっかり話を聞いてね」
皆の目が、アルフレッドに注目するのを待って、彼は話し始めた。
「ちょっと事情があって、怪盗アールを呼びたいんです。あの謎を知っている人はいませんか」
(えっ? 私の話……)
すると、一気にざわざわし始めた。怪盗アールは、やはり有名なようだ。処刑されたと言う声もあったが、昨日、イビル大商会の社長宅に侵入したことを知っている人も多いようだった。
「闇夜の虹色花束は怪盗を呼ぶシグナル、この言葉の謎解きをしないと……。闇夜ってどこにあるか、虹色花束って何なのか、誰か手掛かりを知らないですか」
「闇夜なんて、どこにもないんじゃないの? それも、たぶん謎解きだぜ」
「虹色花束は、七種類の花だと聞いたことがあるよ」
「花の種類は、確かどれか一色だけは決まったものらしいぜ。他の六色は種類はなんでもいいって」
「ええ? 嘘。七色全部は草原の花じゃないとダメなんじゃないの? 精霊のつぶやき、でしょ? その言葉って」
学年も関係なく参加している学生達からは、様々な情報が集まった。
すべてが事実かは、わからないけど、大きな進展だ。
「ローズさん、すごい情報がたくさん」
「そうね、すごいわ。でも、すべてが事実かどうかは、どうすればわかるのかしら。それに、闇夜も場所じゃなくて謎解きなの? だとすると、どこに行けばいいのかわからないわよね」
「だよねー。結局、よくわからないかぁ。ルシアさんは知らないのかなぁ」
「あー、街長の娘だから? それならシャインくんも〜」
ルシアさんは、みんなのやり取りをニコニコしながら聞いていた。交流会としては、いい感じだけど…。
「さぁ、そろそろ、帰りの時間ね。校門前に転移するわよ〜。お話の続きは、学園でねー」
ルシアさんがそう言うと、この広場の地面に魔法陣の模様が浮かんだ。そして、その次の瞬間、私達は学園の校門前にいた。
(こんな大勢の転移ができるなんて、すごい)
「じゃあ、皆さん、授業は終了よ〜。解散ーっ」
解散の声を聞いて、学生達はあちこちへと散っていった。そしてアルフレッドが、私の方へと近寄ってきた。
「みんな、さっさと帰っちまったな。でも調べる方向はわかったよな」
「アルフレッド、ルシアさんやシャインくんは知らないかしら?」
「えーっと、ローズ、その二人が知っているかもしれないって、なぜ……」
「聞いたのよ。街長の子だってこと」
「あー、そうか。じゃあ、まぁ話がしやすくなったな」
「アルフレッドも、知っていて隠していたの?」
「隠すほどでもないけど、言いふらすのもおかしいし。バートンとタクトは知らないと思うから、一応、気をつけといて」
アルフレッドは、まわりを少し気にして、声のトーンをおとしていた。
「わかったわ。アルフレッド、もう一ついい?」
「ん? なに?」
「リュックって人は知り合い?」
「まぁ、知ってる。あまり話はしたことないけど……何? まさか、紹介してほしいとか言うんじゃないよな? あ、ローズは、アマゾネスだからそれはないか」
「所長さんと似ている?」
「へ? 所長とリュックさん? うーん、どっちも神族だけど……全然似てないと思うけど? まさか、兄弟じゃないかとか言い出す気? 所長は、生まれたときから大人だったとか言ってたから……たぶん、過去の記憶を失ってる戦争孤児だと思うよ。子供の頃の記憶がないんだ」
(あ、転生者かしら?)
「えっ……そうなの?」
「あぁ、リュックさんは特殊な神族だし、やっぱ、全然違うよ」
「そう、少し安心したわ」
「なぜそれが安心するんだ?」
「同一人物かもしれないって言う人がいて」
「はぁ? ありえねぇだろ。見た目は変えられるけど、全然タイプが違うじゃん。所長は女遊びしないぜ? どちらかといえば、仕事以外では人と関わるのは得意じゃないみたいで、みんなでご飯行っても、すぐにふいっと消えるしな」
「へぇ、そうなの」
「もしかして、ローズ……所長に惚れてる?」
「えっ!?」
突然アルフレッドがそんなことを言うから、私の顔は一気に熱くなった。まずい、これ、赤くなっているわ。
「ま、マジか……アマゾネスなのに。でも、そっか、地球という星の頃の記憶が戻ったせいかもな。でも、いいことだぜ。俺は応援するぜ! と言ってもなぁ……俺もその手の話は、よくわからねぇんだよな」
「いいわよ、もう、忘れて」
「クラスの長として、そうはいかねぇだろ。ローズの初恋だからな」
「そんなのクラスは関係ないでしょ!」
(初恋でもないし……)