48、森に行くサバイバルな授業
一般教養のFクラスには、なぜかクラスメイトが全員いた。さっき一緒になった人達だけでなく、シャラさんとノーマンも居たのだ。
「おはよう、ローズさん。みんなも、この授業を受けるの?」
「ルークさんが、面白い授業だと思うって言っていたから」
「あれ? あの男の子は? どこかで見たことあるような?」
「シャインくんよ。さっき、門を入った所で会ったのよ」
「あー、ポーション屋さんちの双子の兄貴ね。妹のルシアさんとは随分と育ち方が違うよねー。ルシアさんは冒険者仲間では有名なんだよ」
「へぇ。ん? ポーション屋さん? 城壁内にあるバーのマスターの子だと聞いたわ」
「うん、そうだよ。あの店、入り口にポーションの自販機が置いてあるよ。しかも不思議なポーションばかりで、どれもジュースみたいな味がするのよ」
「そういえば、何かの販売機があったわね。でも売り切れランプが点灯していたわ。でも、ポーションって、飲んで気分が悪くなったこともあるから苦手だわ」
「あの店のポーションは、美味しいよ。値段も普通のと変わらないから、すぐに売り切れるのよねー」
「へぇ。あのバーは、採算が取れてなさそうだから、そのポーションの自販機で稼ぎがあるなら安心したわ」
「私は、横の銅貨1枚ショップにはよく行くんだよ。あの場所が本店なんだよー」
(100円ショップみたいな感覚ね)
「そう。私はその店は覗いたことないわ。学校内にもあるものね」
「学校内は、品揃えが悪いよ。必需品しか置いてないから、かわいいものがないのよねー」
「それで、シャラさんは本店まで行くのね」
「うんうん、あ、服を買いに行ったらついでに、本店に行きましょう。絶対、楽しいからー」
(確かに100円ショップは楽しいわよね)
「ふふ、そうね」
ゴーンと、始業のベルが鳴った。ガラリと扉を開けて、担当の教師が入ってきた。妙に色気のある女性教師に、私は見覚えがあった。
(食べ放題の店で会ったわね……あっ、彼女は……)
私は、シャインくんの姿を探した。シャインくんは、うつむいてルークの近くに立っていた。すでに自分の妹がこの授業を担当することはわかっていたようだ。
こういう経験は、初めてではないのだろう。ルシアさんも、ちらっとシャインくんの方を見ていた。きっと、お互い、やりにくいわよね。
「はーい、皆さん、おはよう。今日は、いきなりサバイバルしちゃうわよ〜。森の中で優雅なランチを食べましょうね」
(サバイバル? 優雅なランチ?)
「ローズさん、たぶん街の外の森で狩りをしようということだと思います。サポートの教師は、何人つくのかな?」
「ルークさん、外って……私、草原しか知らないんだけど、この島ってかなり魔物は強いわよね?」
「はい、強いです。でも美味い肉も多いです」
ルークは嬉しそうにしている。そういえば、ルークってよくお腹減ったと言っているわね。成長期ってことかしら。
「転移魔法陣を出すから、ちょっと待ってね。森の準備が整ったら移動するわよ〜。10人ずつくらいで、適当にグループを作っておいてね」
ルシアさんがそう言うと、教室の中は勧誘大会が始まった。近くの人にクラスを聞いているようだ。結局、同じクラスでかたまったようだ。
「俺達は、8人ですね」
「ん? あ、シャインくんは同じグループになってくれるのかしら」
「はい、ルーク様が手伝えとおっしゃるので……あの、僕がいてもお邪魔じゃないですか」
「シャインくんは先輩だもの。心強いわ」
そう言うと、シャインくんは、ぱあっと明るい表情になった。笑うと女の子みたいね。
森の準備が整い、順に転移を始めた。たいした距離でもないが、各自で移動するよりも転移の方が、団体行動には適している。
(えっ?)
転移した先で、何人かの教師か冒険者かわからないが、引率者がいた。その中に、あの失礼なカバンが居たのだ。
私は、なぜアイツがいるのかと混乱したが、確か、あのカバンの主人は、あのバーのマスターだったわね。ルシアさんはマスターの娘、だから、あのカバンに手伝わせるというのも……なくはないか。
「キャ〜! リュックさんがいるわよー」
私のすぐ後に転移してきたグループは、失礼なカバンを見つけて、キャーキャーと騒いでいる。
彼は騒がれることに慣れているのか、軽く手を上げてこたえていた。まるでアイドル気取りね。
「ローズさん、あの、リュックくんと知り合いなんですか」
「リュックくん? あー、あのカバ……じゃなくて銀髪のチャラチャラした男かしら?」
「彼が魔道具だということも、ご存知なんですね。あの、その件は……」
「ええ、わかっているわ。むやみにバラしたりしないわ。ルークさんは、彼のことを知っているのね」
「はい。あ、えーっと、ローズさんは、彼の主人が何者か、ご存知ですか。あ、すみません、伝わってきてしまいました。中途半端にご存知なんですね。うーんと……」
(中途半端に? 何かまだ秘密があるのかしら)
ルシアさんが、こちらに近寄ってきた。
「このグループは、Sクラスよね」
「ルシアちゃん、久しぶりね。そうよ、Sクラスだよー」
「シャラちゃんは、やっと入学したのねぇ。ここは兄貴を入れて8人よね?」
「あ、僕、邪魔だったら抜けるから」
「いや、兄貴は必要だわ〜。このグループ、遊撃隊にするからねぇ。私も入るし。そうねー、あとは……」
ルシアさんは、ぐるっと見渡していた。そして、まさかの人選をした。
「リュックくん、このグループに入って〜。ここ、遊撃隊にするから戦闘力が必要なのよ〜」
ルシアさんの声を聞いて、ほぼ全員がこちらを向いた。私達を入れて7グループ、約70人がこの授業に参加している。
「えーっ、リュックさんと同じグループがいいよぉ」
「なぜ、そんな新入りのグループが遊撃隊なんだよ」
遊撃隊は、みんながやりたい役割なのかもしれない。あちこちから、文句が出た。
「だって、このグループは新入生だけど、Sクラスだもの。大魔王の孫もいるし、探偵見習いの王族もいるし、さっき校門前でケンカしてた騎士もいるからねぇ」
(校門前のケンカって……もう、バレてるのね)
どの言葉が響いたのかはわからないが、文句を言う声は収まった。
「じゃあ、分担を説明するから、みんな集まって〜」
ルシアさんの指示で、各グループはそれぞれの役割が決まった。
この人数で、大規模なミッションで野営するという設定のようだ。食事を作って食べるまでが授業らしい。
その材料を現地調達し、魔物の襲撃に対応することが必要で、各グループの能力に応じて担当が決められたらしい。
遊撃隊というのは、狩猟班と、調理班の両方が、きちんと役割を果たせるように、臨機応変に動かなければならないらしい。
「ということで、遊撃隊は、攻撃メインと防御メインの二つに分かれてね」
ルシアさんの説明が終わり、スタートの合図があった。
「よし、じゃあ、まず調理班の防御だが、ノーマンとシャラ、そしてルシアさんでいいよな。あとは、狩りと、採取がバラバラに動いてるから、攻撃は両方をサポートしなきゃならねぇよな」
「アル、狩りよりも採取の奴らは戦闘力が低いぜ? 採取のガードは、かなりガッツリ必要なんじゃねぇか」
珍しく、バートンが、まともなことを言った。
「そうだな。じゃあ、俺とバートンは狩りに付いて、あとは採取に付き添いしようか。何かあれば即座に知らせてくれ」
「僕、ルーク様と一緒?」
「シャイン、一緒だよ。タクトもいるけど気にしないで。あ、ローズさんやリュックさんも一緒だから安心だよね」
「おー、なんか、知り合いばっかりだなー。気楽でいーけど」
「リュックくん、お姉さんとも知り合い?」
「まぁな。そのうち、オレの女になるから」
「ならないわよ!」
(何、コイツ、ありえない!)