46、ドラゴン族の魔王の娘マリー
『朝だよー、よいこのみんな、起きなさーい!』
頭の中に直接、元気な声が響いた。いつもと違って若い女性の声だ。
(よいこのみんなって、言った?)
私は、寝不足で少しボーッとしていた。聞き間違えかもしれないわね。もしくは、この寮にはチビっ子もいるのかもしれない。
昨夜は、あのまま解散して、私はまっすぐ寮に戻ってきた。だけど、なぜかあの怪盗の姿が目に焼き付いていて、なかなか眠れなかったのだ。
私は、あの怪盗が気になっていた。異空間に入り込む能力……あれがそうだったんだわ。私達の無事を確認すると、彼は音もなく目の前からスッと姿を消した。きっと異空間に入り込んだのね。
そもそも異空間って、どうなっているのかしら? 魔法袋やアイテムボックスは、異空間と繋がっているから、中に入れた物の重さは感じない。ということは、無重力空間なのだろうか?
それに、あの怪盗はなぜ私達を助けたのかしら? 私達だけじゃない、きっと、バリアが遅れた人すべてを助けたんだわ。あの魔法は全方位に広がった。一体、どうやってあちこちの人にバリアを張ったのだろう。異空間を使えば可能なのだろうか。
(いくら考えても、わからないわ)
食堂に行って、適当に取ったものを食べながら、私はまだいろいろと考えていた。
「うわっ、塩辛くないの? それ」
突然、見知らぬ女の子に話しかけられて、私は我に返った。
「えっ? あ、うわっ、か、からい!」
私は慌てて、フレッシュジュースを飲んだ。リンゴの甘酸っぱさが、塩気を洗い流してくれた。
「あらら〜、青い皿の料理は、一部の獣人用だから人族には塩辛いんだからぁ。知らなかったのぉ? 次からは気をつけなきゃね〜」
「うっかりしていたわ」
「食べても気づいてなかったよねぇ。考えごとかしらぁ?」
「ええ、ちょっとね。貴女は、えっと、知り合いだったかしら?」
「うーん? 初対面だったと思うわよぉ」
(初対面で、こんな話し方……)
私は言葉を失った。まぁ、でも、子供だけど先輩なのだろう。ここは私から挨拶をするのが礼儀だわ。
「はじめまして。ローズよ」
「知ってるわよぉ。うふふ、アマゾネスの次期女王でしょ」
「えっ? ええ。あの貴女は……」
「あたしのことが気になるぅ? うふふ、マリーよ」
「マリーさん? 若く見えるけど10歳くらいかしら」
「そうなのよぉ。外見がなかなか成長しないの。こないだ45歳の誕生日だったわぁ。私の方がお姉さんよぉ」
「えっ!? 40代には見えないというか、人族じゃないのね。魔族かしら」
「うふふ。母はドラゴン族だけど、父は不明なの」
「亡くなったの?」
「違うのよ。母は、より優れた子が欲しかったらしくてね。たくさんの恋人がいたの。私はいろいろな遺伝子が混ざっているみたいなのよぉ」
「へ、へぇ。混ざるものなの?」
「母は、わざと混ぜたのかもしれないわぁ」
「すごいことができるのね、ドラゴン族って……」
「母は特殊なのよぉ。魔王だしねぇ」
(ま、魔王の娘!)
「そうなのね、驚いたわ」
「うふふ、仲良くしてねぇ」
「ええ、あ、えーっと……」
「やだぁ、あたし、別にローズを利用したりしないわよぉ。男尊女卑の種族の子とは、意見が合わないのよ〜」
「思考や思念を読めるのね、マリーさん」
「うふふ、ローズは考えてることがダダ漏れだからねぇ。あ、それから、さん付けは不要よ。マリーでいいわぁ」
「わかったわ、マリー」
「やっぱり、いいわねぇ、アマゾネスって凛としていて。なにより、あたしを怖がらない」
「私にはサーチ能力がないのよ」
「でも、ドラゴン族の魔王の娘だとわかると、みんな態度を変えるのよ。変えないのは、神族の一部と、悪魔族の一部だけねぇ。悪魔族は、長が大魔王だから、あたしが怖くても怖いとは言えないのよねぇ」
「それって、ルークさんのことを言ってるのかしら」
「うふふ、いいカンしてるわねぇ」
「私は、彼とはクラスメイトだから」
「知ってるわよぉ。あの坊やを観察していて、ローズを見つけたんだから〜」
「えっ!? どういうこと? 偶然じゃなくて、狙って声をかけてきたのかしら」
「うふふ、狙いうちよぉ。貴女、妙な印を持ってるんだもの。興味をそそられちゃって」
そう言うと、マリーは私の右肩に視線を移した。ジッと眺めていたが、フッと諦めるように私に視線を戻した。
「ねぇ、貴女、何者なのぉ? なぜ、光の印を持つわけ? まさか、どこかの神の配下だったりするぅ?」
「私の頭の中を覗けるのなら、わかっているはずよ?」
そう言うと、マリーは驚いた顔をした。そして、ブファっと笑いだした。
「やーん、ほんとにローズってば、いいわねぇ。あたしに、ガチで文句を言うなんて。あははは」
「えっと、失礼だったのかしら?」
「うふふ。貴女ならいいわよぉ。あたしとは対等の立場だもの。お互いに種族の長の娘でしょ」
「でもマリーは、この学園では先輩だし年齢も私より上だから」
「あたしは学生じゃなくて卒業生よぉ。あちこちの寮の管理人をして遊んでいるのぉ」
「卒業生? じゃあ先輩……」
「やっだぁ〜、ほーんと真面目ねぇ。似ているのに真逆だわぁ。あたしの配下にしてあげてもいいわよぉ」
マリーはニヤッと笑った。なるほど、支配下に置きたいというつもりで声をかけてきたのね。妙な印が気になったのは、私に目をとめるキッカケにすぎないのだろう。
(もしくは試しているのかしら)
彼女は、きっと私の頭の中を覗いている。ニヤニヤしながら、私がどう返答するかを待っている。
私は、マリーを真っ直ぐに見て返答した。
「貴女の配下にはならないわ」
「あらら……振られちゃったわぁ」
そう言いつつ、たいして気にした様子もない。いや、私の右肩を気にしているようだ。ジッと眺めていたが、再びため息をついた。
「私の右肩が気になるの?」
「へ? あ、うーん、ちょっとねぇ。触ってみてもいい?」
「構わないけど、たぶん弾かれるわよ」
だが、マリーは私の右肩に触れた。弾かれた様子はない。そして驚いたことに頭の中に、地球の女神の言葉が流れた。
「やっぱり、ローズはあたしと同じねぇ。あたしにも同じ焼印があるのよぉ〜」
「えっ!?」
そう言うと、マリーは、スカートをめくった。ちょ、ちょっと、パンツ見えてるわよー! あ、焼印がある。
マリーの右足の付け根の近くに、私と同じ焼印があった。触れてみろと言うので、手を近づけた。同じセリフが頭の中に流れた。そして、再生後に番号が浮かんだ。
『12/100』
「何番って書いてある?」
「100分の12かしら」
「そう、それがあたしの番号ね。12番かぁ。ローズはね、99番だって」
「マリー、私の頭の中を覗けるのよね? なぜ聞くの?」
「この印に関することは、覗けないのよぉ。自分の番号は自分では見えないから、ローズに見てもらったの〜。今までにも印がある人を見つけたけど、見てくれなかったのぉ」
「焼印の、場所が場所だから……」
「それもあるけど、あたしを怖がってねぇ。やっと自分の番号がわかってよかったわぁ」
すると、マリーは自分の焼印に手をかざし、何かの詠唱を始めた。彼女の焼印が白く光り始めた。それに呼応するかのように、私の右肩も熱くなってきた。
『99番目のあなた、同郷の方と出会えましたね。地球の場所の時空地図を与えます。協力し、地球を救ってください。100人に印を授けました。残る生存者は、あなたを含めて21人』
「マリー、新しい言葉が……」
「あと21人しかいないのねぇ〜。時空地図を渡されても、こんなに遠いなら無理だわぁ。地球の女神が消滅するまで、焼印は消えないけど、21人全員、私も死なないと消滅しないのよねぇ」
「そうね」
「こんな焼印、さっさと消したいのに……。まぁ、いいわ。地球の近くに転生した人がなんとかしてくれるのを、気長に待つわぁ」
(そんな人、いるのかしら?)




