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45、バートンにも伝える

 高級住宅街のど真ん中で、いきなり大規模な攻撃魔法をぶっ放したイビル大商会の社長の邸宅には、付近にいた街のパトロールをする冒険者達が駆けつけていた。


 あんなにも激しい爆音が響いたが、怪我をした者も軽傷だったようだ。冒険者達は、自らバリアを張っていた。

 私達のようにバリアが間に合わなかった人達には、誰かがバリアを張ったらしい。


(怪盗が、あの一瞬で? まさかね)


 それに、他の邸宅の建物にも様々な防御バリアが張られていたらしく、ほとんどが無傷のようだった。庭園は吹き飛んだ家もあるようだが…。


 だから、あんな魔法を気にせずに放ったのだろうか。だが、どう考えても、正気の沙汰だとは思えないけど…。




「ローズさん、大丈夫?」


「ええ、シャラさんも怪我はないかしら?」


「大丈夫だよ。ありがとう。ほんと驚いたよー。ローズさんがアマゾネスの騎士だと言っていたことが、こういうことなんだとわかったよ。普通、死ぬかもしれないときに、あんな決断できないよ」


「私は合理的に判断しただけよ。シャラさんを守ることが、あのときは最善だと思ったから」


「でも、命を預けるなんて、そんなこと決められないよ。死ぬなんて……絶対に怖いもの」


「そうね。でも、シャラさんのチカラを信用していたから、私はシャラさんを守れたら自分も助かると思っていたわ。だから全然、怖くはなかったわよ」


「もしローズさんが男だったら、私、絶対惚れてたよー」


「ふふっ、光栄だわ」


 シャラさんは、うんうんと頷き、明るい笑顔を見せた。彼女は、私とは真逆のタイプだ。すっと入り込む人懐っこさと、素直で甘え上手な可愛らしさを持っている。


 アマゾネスでは、彼女のようなタイプはアマゾネスを名乗ることを禁じられる。ミューも、妖精の血が混ざっているためか、臆病すぎる部分がある。だからアマゾネスで生まれたが、アマゾネスを名乗ることは禁じられている。

 

 だが、アマゾネスだけが特殊なのだと、この街に来て私は実感していた。前世の記憶が戻ったこともあって、私は、客観的に自分や自分の国のことを、考えることができるようになっていた。


 私自身の価値観はそう簡単に変えられないし、次期女王として変えるべきではないと思う。でも、シャラさんのようなタイプとも、対等に付き合っていけるようになりたいと思っていた。


(様々な個性は排除せず、尊重し、認めるべきだわ)



「それにしても、なぜ助かったのかな?」


「怪盗に助けられたみたいだったけど、見なかったかしら?」


「えっ? 気づかなかったよ。ローズさん、怪盗を見たの?」


(気づかなかった? まぁ、確かにあんな状況だったから)


「ええ、アルフレッドが言っていた通り、金髪に銀色のハーフ仮面だったわ」


「私も見たかった〜。それにひきかえ、他のクラスメイトはなんだかねー。こういうときって本性がわかるよね」


 シャラさんは珍しく怒っているようだった。恐怖が去った安心感からなのだろうか。

 怪盗の姿を見なかったということは、彼女は頭を抱えて震えていたのかもしれないわね。



「誰かのバリアに助けられたのかしら? でも、ノーマン以外は怪我をしたみたいね。治癒魔法の光が見えたわ」


「ノーマンは自分だけに防御結界を張ったみたいだよ。タクトは自分とルークにバリアを張ったみたいだけど、微妙に間に合わなかったのかも。タクトは、詠唱時間が結構必要みたい」


「あーなるほど。だから、さっき無理って顔をしていたのね。アルフレッドとバートンは一緒にいるけど、どちらかがバリアを張ったのかしら」


「アルフレッドは魔道具を持っているから、防御用の魔道具を使ったんじゃないかな? バートンは、たぶんアルフレッドに隠れたんじゃない? もしくは、一人用のものを二人で使ったのかも」


「それなら、防御が不完全だったのかもしれないわね」


「でも、男ならふつうは、私達を守ろうとするべきよ。私は準備時間なしでバリアなんて張れないんだし、ローズさんはそもそも、まだ魔法が使えないもの。ほんと、ひっどーい」


 私は、シャラさんの言うふつうがよくわからなかった。男尊女卑の国では、男が女性を守るのが常識なのかもしれない。



「おーい、おまえら、大丈夫か?」


 アルフレッドとバートンが、怪我の治療を終えて私達の方へと歩いてきた。


「アル、ひっどーい! ふつうなら、私達を守ろうとするのが男でしょ。クラスメイトみんな、ヘタレばっかりじゃない」


「シャラちゃん、怒るなよ。かわいい顔が台無しだぞ〜」


「バートンも、ひっどーい! 私達、大変だったんだからね! ローズさんが、私の盾になって死んじゃうかもしれなかったんだから!」


「へ? 無傷じゃん。ローズちゃん、すげ〜な。守りの盾を使えるのか? かなりの魔力が必要だと思うけど……あれ? ローズちゃんが魔法? あれ? 封印は?」


「ローズ、すげ〜。封印がなくなったら、急にそんな技まで使えるのか」


「使えないわよ。気づいたら、目の前にマントが広げられていたのよ。金髪で銀色のハーフ仮面の男が立っていたわ」


「えっ!? ま、まじかよ。それ、怪盗アールじゃねぇか」


「そうかもね。すぐにスッと消えたから確認できなかったわ」


「ローズちゃん、封印はどうなったの?」


 そっか、バートンは居なかったから知らないのよね。


「バートン、ローズの封印は、占いの館の幻術士が解除したんだよ」


「ええ〜!? どうして、俺には秘密にしちゃうわけ? アルに言うなら俺にも教えてくれよー」


「おまえ、居なかったからじゃないか。今日の授業サボっただろうが」


「そんな一大事があるなら、ミッションより学校行けばよかった〜。その封印って、何だったの? ローズちゃんは何か変わったこととか、痛いとかない? 大丈夫?」


「ええ、そうね……」


 バートンは、心配そうに私の顔を覗き込んだ。ち、近いわよ、無礼ね。思わず、離れなさい! と言いそうになるのを私は必死に我慢した。



「うるさい、騒ぐなよ。トリ頭」


 いつの間にか、ノーマンと、ルークそしてタクトがすぐそばに近寄ってきていた。


「バートンさん、念話を送ります。口に出さないでください。何か仕掛けがあるかもしれないので」


 ルークは、そう言うと、左手をバートンにかざした。



『地球の子よ、私はアース、地球の女神です。事情は思い出しましたね。どうか、地球を救ってください。魔法のある星に生まれし子よ、私が完全に消え去る前に、どうか手掛かりを掴み、回避する手段を探してください。頼みましたよ』



「どわっ、ぷっ、ぷっ……」


「バートンさん、念話の内容をそのまま話さなければ大丈夫です。これが、ローズさんに封じられていた言葉です」


「おぅ、そっか、神託か……ローズちゃんは転生者で……おっふ」


 ガツン! と、ノーマンがバートンを殴っていた。


「トリ頭、こんな場所で不用意なことを言うなよ」


 そう言われて、バートンは辺りをキョロキョロと見回した。イビル大商会の社長の邸宅前だ。さっきの魔法の被害確認に、たくさんの人が集まってきていた。


「おっと、確かに、ヤバイ場所だな」


 バートンは殴られても、平気な顔をしていた。怒ったりはしないのだろうか。そういえばバートンは、いつも能天気な顔をしているわね。



「こんな様子じゃ、イビルの社長に話なんか聞けないな。もう夜も遅いし、出直すしかなさそうだな」


「何なに? みんなでここに何しに来たの? ミッションじゃなくて?」


「バートン、ここでは話せない。明日、学校でな」


「えー、気になるじゃねぇか〜。なー、どういうこと?」


 なーなーと、バートンが食い下がっていたが、アルフレッドは、またな、と軽く受け流していた。あんな風にしつこい男は、私ならすぐに斬りたくなる。


(アルフレッドの話術も、勉強になるわね)



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