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41、怪盗アールに不可能はない

「俺は冗談で言ったんだけどな」


 アルフレッドは、私がまさか肯定するとは思わなかったようだ。自分で言ったくせに、一番驚いていた。


「ローズさんの右肩が光っています。もしかして、封印は消えた星の神が施したのですか」


 ルークに指摘されて、私は袖をめくって自分の右肩を見たが、特に変わりはなかった。幾何学模様のような焼印が付いているだけだ。


「ローズ、なんだ? そんな印があるのか。奴隷印か?」


「アルさん、封印のあった場所です。表面に焼印として出てきたのでしょうか。俺にはその印に光属性の輝きが見えます」


「ルークさん、封印が解けたときに、右肩から壁に向かって一筋の光が……壁には女性の姿が映ったわ。秘めた言葉の映像が終わると、光が右肩に戻って焼印になったの。触れると言葉を再生するだけの印で、害はないと幻術士が言っていたわ」


「ちょっと触れてもいいですか」


「どうぞ」


 ルークは、私の右肩に触れたが、パチンと大きな音がした。見ると、ルークは触れた手を痛そうに握っていた。


「ルーク様! 大丈夫ですか。妙な呪いが?」


「ただ弾かれただけだよ。俺が魔族だからかもね」


「じゃあ、私が触ってみてもいい?」


 意外にも好奇心が旺盛なのか、シャラさんが申し出た。


 念のために、私が触れてみたが特に何も起こらなかった。ただ、あの念話が頭の中に再生されかけただけだ。触れると再生され、手を離すと、再生が止まるようだ。


「いいわよ」


 シャラさんが触れても、やはり何も起こらない。でも、念話の再生はされないようだ。


「なるほど、言葉を聞く能力がある者が触れると弾かれ、それ以外は無反応ってことらしいな」


 なぜか、ノーマンが興味深そうにしている。結界術士として、封印には興味があるのかもしれない。


「ローズさんが触れると、言葉が再生されるんですね」


「ええ」


「触れてみてくれませんか。俺は、ローズさんの頭の中に届いた声を、クラスメイトに伝達しますから」


「えっ? そんなことができるの?」


「はい、思念傍受も、思念共有も、そんなに難しい術ではないので」


 まぁ、このまま私が説明するより、その方がいいかもしれない。ここは食べ放題の店だものね。


「わかったわ」


 私は、自分の右肩の焼印に触れた。



『地球の子よ、私はアース、地球の女神です。事情は思い出しましたね。どうか、地球を救ってください。魔法のある星に生まれし子よ、私が完全に消え去る前に、どうか手掛かりを掴み、回避する手段を探してください。頼みましたよ』



「皆さん、聞こえましたか? この念話は、そのまま口に出さないでください。何か仕掛けがあると、まだ、パチンと電撃をくらうかもしれないので」


「言葉を変えれば大丈夫なの?」


「シャラさん、そのままそっくりじゃなきゃ大丈夫です」


「そのままそっくりなんて、覚えてないよー」


「じゃあ、大丈夫ですね」


「ローズ、それでどうする気なんだ? そんな指令、無理だろ」


「ええ、幻術士も気にしなくていいと言っていたわ」


「これ、所長は知っているのか?」


 ドキン!


(急に所長だなんて言わないでほしいわ)


「この映像を見たのは幻術士と、私についてきた白魔導士だけよ」


「そうか……所長なら、何か知っているかもしれないけどな。でも、さすがに聞いたこともない星まで行く手段はないよな」


「はい、所長さんには荷が重いでしょうね。カースさんでさえ、思念だけなら異次元を移動できても、身体の移動は無理でしょうね。その星を救うには、時空を越えてその場所に移動できなければ、星に防御バリアも張れませんからね」


「とんでもなく遠いんだろうな」


「少なくともこの世界ではないですし、さらに時間を越えなければなりません。移動だけでもかなりの魔力を消費します。爺ちゃんでも……あ、えっと大魔王メトロギウスでも不可能です」


「じゃあ、この星の女神様なら…」


「黄色い太陽系の創造神を、そんなちっぽけな星を救うために動かせるのか? 毎日いたるところで、星は消滅しているんだ」


「タクトの言うことは正論だな。そもそも、女神様と話したくても、学園行事の挨拶時に待ち伏せするしか、方法はないもんな」


 みんな、それぞれ考えてくれていたが、結局はどうにもならないことが明らかになった。



「まぁ、いいわ。封印は消えたから、もうマナの循環はできるし、問題ないわ」


「でも、その焼印って、ずっと光ってるの? 私にはただの模様にしか見えないけど、光ってるなら悪影響あるんじゃない?」


「シャラさん、幻術士は、害はないと言っていたから大丈夫よ」


「ローズ、でも、ルークにはその光が見えるなら、敵に襲われたときに居場所がバレちまうかもしれないぜ」


「あー、確かに魔族と交戦するときには不利になるかもしれないわね。光が漏れないように、肩当てが必要ね」


「それには、特殊な肩当てがいるだろうな。あ! ベアトスさんに頼んでみるか」


「クマさんマークの職人さん?」


「アル、こいつがそんな金、持ってるわけないないだろ。ベアトスさんに、そんな未知の光を閉じ込める魔道具の開発を頼むなんて、どれだけ取られるかわからないぞ」


「そうなのか? あ、じゃあ、魔道具科の奴らに頼むか」


「アル、魔道具科の学生には荷が重いだろ」


「じゃあ、どうすんだよ。ノーマンには、何か案があるのかよ」


 アルフレッドが、イラついた怒鳴り声をあげた。


「おまえ、探偵見習いをしているくせに、何も思い浮かばないのか。まぁ、アイツは犯罪者だからな」


「誰のことだ?」


「この島に伝わる秘話だよ。彼は今も実在する」


「は? 秘話って何?」


「怪盗アールだよ」


「ノーマン、あの怪盗は40年くらい前に処刑されたはずだぜ。王宮もかなり被害に遭ったからな」


「投獄されていただけだ。あの怪盗は、今も密かに活動しているんだ。まぁ、今は義賊らしいがな」


「昔も、金持ちしか狙わないから、そういう意味では義賊だろうが。でも、なぜ、ローズの星の話であの怪盗が出てくるんだよ」


「怪盗アールに不可能はない。秘密にされているが、女神様でさえ、怪盗アールに何かを盗まれたらしいからな」


「ええっ!? まじかよ」


「あぁ。それに次元の狭間に入り込む能力があるらしい。時間軸の移動ができるかは不明だが、自分でできなければ協力者を見つけるだろうからな」


「確か、仕事の達成率は100%だったか。失敗したことがないんだよな。でも、どこにいるんだよ?」


「さぁ、誰も知らないんじゃないか」


「ノーマン、それなら、どうしようもないじゃないか」


 私は、まるで映画のような話をぼんやりと聞いていた。そんな種族っているのかしら? もし実在するなら、他の星からの移住者かもしれないわね。



「ねぇ、それってもしかして『闇夜の虹色花束は怪盗を呼ぶシグナル』と関係があるんじゃない? 冒険者仲間で有名なおとぎ話だけど…?」


「ふぅん、さすが冒険者一家だな。俺も今それを言おうとして、必死に思い出そうとしていたんだ」


 なぜだかノーマンは、シャラさんに絡んでいる。器の小さな男ね。


 怪盗アールか……。 冒険者仲間で有名なおとぎ話だということは、実在したとしても、きっと誇張されて伝わっているわね。



「ローズ、信用していないって顔だな」


「ノーマン、それっておとぎ話なんでしょう? そもそも怪盗といえば、泥棒じゃない。泥棒が星の消滅を止めるだなんて、ありえないわ。何も盗むものなどないわよ」


「ローズさん、俺、少し興味があります。爺ちゃん……じゃなくて大魔王も、昔、何か盗まれたらしいですし」


「ルークさん、爺ちゃんでいいわよ」


「はい」


 そう言うと、ルークは少し恥ずかしそうにしていた。


(ふふ、かわいい)



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